2020年12月5日(土)に舞台『幽☆遊☆白書』其の弐が開幕する。待望の続編発表、崎山つばさ、郷本直也、鈴木拡樹、橋本祥平らが全員続投するなどの嬉しい情報と共にもたらされたのが、「演出を3人体制にする」という驚きの情報だった。
名前があったのは、前作を作り上げた伊藤栄之進(御笠ノ忠次)のほか、俳優でもある加古臨王、そしてコエンマ役として出演もする荒木宏文の2人。しかも、荒木が演出に挑戦するのはこれが初となる。
なぜ、演出家を3人にしたのか?その意図を聞きながら、3人それぞれの「2.5次元作品」に対する考え方などを聞いた。
シンプルに、1人でやるより楽しくなる
――舞台『幽☆遊☆白書』待望の第2弾ですが、演出にお三方のお名前があるのを観た時はとても驚きました。
伊藤:始まりは僕の思いつきに近かったので、2人がダメって言ったらどうしようって思っていました。
加古・荒木:あはは(笑)。
伊藤:シンプルに、僕が1人でやるより楽しくなると思ったんだよね。
加古:伊藤くんはシンプルにこう言ってますけど、彼なりの考えがあって、その考えに至る経緯があるっていうのも、お話をいただいた時に分かったんですよね。それはさておき、僕も単純に「おもしろそう!」という興味の方が勝っていました。
――加古さんは演出のご経験をされていますが、荒木さんはこれが初めてになりますよね。
荒木:そうですね。初めてですけど、前回の経験と現場の様子が分かっているので、2つ返事でOKをしました。というのも、稽古期間から伊藤さんと芝居のことをああだこうだといっぱいセッションしていたんですよ。
伊藤:そうそう。あそこ、こうできたらいいよね。じゃあどうしようか?みたいなことをいっぱい話してて、それが俺も楽しかったの。
荒木:だから、演出家を3人立ててセッションする、という光景がすぐにイメージできたんです。結局は、前回とあんまり変わらない状態でいられているんじゃないかなって思いますけど(笑)。経験がないから足りない部分もあると思うけれど、3人いるから大丈夫って、(演出を)そんなに重荷として捉えず、新鮮な感じで楽しんでいます。
――前回の公演の時も、伊藤さんは役者さんの声をたくさん取り入れて作っていかれたんですか?
伊藤:自分の中で、演出家は人の能力をいかに引き出すか、というのが大事だと思っているんです。脳みそが1つのコンピューターだったとしたら、たくさんあった方が連動してより良い、おもしろくてでかいものが作れるじゃないですか。俺はこうやりたい、っていうイメージはいくつかあるにせよ、作り方としてはどの現場も、そういうスタンスで作品づくりをしている傾向があるのかもしれません。
2.5次元と呼ばれる作品の中でも、演劇臭の強い作品になった
――加古さんの目には、伊藤さんたちが作られた前作の舞台『幽☆遊☆白書』はどう映りましたか?
加古:最近は2.5次元作品を観に行かせていただくことが多くなってきました。これは僕の主観的な意見になりますが、唸ってしまうような素晴らしい作品もあれば、演劇的にどうなんだと首を傾げてしまうものもある昨今の2.5次元作品の中で、すごく衝撃を受けた作品でした。
僕、原作のド世代なんですよ(笑)。なので、こうだったよなって思い出しながら楽しめる一方で、忠実すぎず柔軟に表現しているなと思う部分もあり。でも、ちゃんと『幽☆遊☆白書』。キャラに似ているとか似ていないとか、そういう話を超越して成立していることに感動したんですよね。
伊藤:2.5次元作品で、ああいった作り方ができたことは大きいよね。『幽☆遊☆白書』って人気すぎて、みんなの頭の中にそれぞれの『幽☆遊☆白書』があるんですよね。それは、作っている側も同じなワケで。誤解をおそれずに言えば、それぞれがそれぞれのイメージする『幽☆遊☆白書』を楽しみながら現場で遊んでいたらできちゃいました、みたいな感覚の中で生まれたのが前作でした。きっと、お客さんが個々に持っている『幽☆遊☆白書』のイメージも遠からずだったので、みんな一緒になって楽しむことができたんじゃないかなって思っています。
――荒木さんは出演者のお1人でもありましたが。
荒木:一言で言うと、実に“演劇”でした。2.5次元と呼ばれる作品の中でも、演劇臭の強い作品になったなという思いがあります。それができるのも、スキルを持った役者が集まっているということが大前提にあるんですよね。だから、何をやってもお芝居として成立する。バリエーションをいっぱい出すことができるから、その中で正解を探していく・・・そんな感じでしたね。
カンパニーの中には2.5次元作品の経験が先立つ若い子たちもいましたが、そういう子たちが演劇をがっつりやってきた人たちに触発されながら、演劇のスキルを身に着けていったから、カンパニーとしてすごく成長したと思います。中でも(崎山)つばさの成長がすごかったんですよ。
伊藤:そうだね。本番入ってからもどんどん成長してたから、それはあいつのポテンシャルなんだと思うけど、一番変わったよね。
――崎山さんはどんな風に変わったんですか?
伊藤:人間としても柔らかくなった、と言うか。ちょっとだけ、つばさにはガードを感じる部分があったんですよ。もちろんあのビジュアルだし、これまでやってきたイメージと幽助は、まったく違ったし。でも、もともとはそこが狙いだったんですよ。
ぶっちゃけた話、見た目とか、つばさよりも幽助にハマる役者はほかにいたと思うんです。でも、そういう人材を幽助にはめると、もう絵が見えちゃったんですよ。想像ができちゃう。じゃあ、幽助をやっている姿を「おもしろい」と思える役者は誰だろう?と考えた時、頭に浮かんだのがつばさだったんですよね。
加古:そうだったんだ。
伊藤:僕、普段はそんなに役者とコミュニケーションを積極的に取る方ではないんですよ。つばさとも、全然面と向かって話したことなかったんですけど、幽助役が決まってから会った時に、肩をポンって叩いて「苦手だろ?」って言ったら、苦笑いしてました(笑)。
荒木:あはは(笑)。
伊藤:でも、第2弾が決まって久しぶりにつばさと会って話したら、その当時のつばさより、人として豊かになっているのが伝わってきたんですよ。それは、幽助役をやったことが一役買っているのかはわからないけど、話していて、彼の中で「役者」や「崎山つばさ」っていうそのイメージをぶち壊すきっかけになっていたりするのかな、とちょっと思えたところがありました。
――確かに、崎山さんそこまでやる?!と驚くような場面もありましたね。
伊藤:幽助が子どもを笑わせるシーンですよね。あれは、稽古場でつばさに「どんな風に、どんなに時間を使ってもいいよ」ってパスを出したらできたシーンでした。脚本を書いていた時は、つばさはこれをどうやってくれるんだろう?と思っていたんですが・・・最終的には、僕がブレーキをかけていました。
役者って、自分で越えていかない限り、辿り着けない場所があるんですよ。この舞台『幽☆遊☆白書』では、そういうつばさの成長を感じられたのが嬉しかったですね。付き合いやすくもなった気がする(笑)。人間くささが見えるようになったのかもしれません。
求めたのは“演劇的ケレン味”
――崎山さんの変化が第2弾にどう影響してくるのか、楽しみです。今回は原作の「四聖獣編」と「雪菜編」ですよね。
伊藤:そうです。2つのエピソードを、前後編で駆け抜けることになります。
――エピソードと言えば、もう過ぎてしまった部分ですが、実はたぬきとおじいちゃんのエピソードとかも観てみたかったなって思っていました・・・(笑)。
伊藤:たぬきかぁ~!みんなあそこ好きだし、やれるならやりたいよね~!!
荒木:あれ1巻の話でしたよね?すごすごくいいエピソードで俺も好きだけど、戻らないといけない(笑)。
加古:アニメにもなっていない話のところだ(笑)。
伊藤:アニメのプロデューサーともたぬきのエピソードの話したことあるんだけど、あそこだけいい話すぎるから浮いちゃうんだよって言ってました。
――前作で「TWO SHOTS」を観せていただいたので、もう感無量だったんですけれども(笑)。アニメになったのも最近ですしね。
伊藤:実は、そのアニメがあったから舞台化が実現したんですよ。舞台化を希望する話は以前からあったようなんですが。僕がたまたま、「TWO SHOTS」がアニメ化されたタイミングで、(アニメの)プロデューサーに舞台化しない?って話をしてみたところ、「25周年だからいいよ」ってお返事いただけたんです。タイミングがバシッとはまりましたね。
――そうだったんですね!第2弾、登場キャラクターも増えて、それがどのように表現されるのか気になります。
伊藤:実は「なぜ演出家を3人にしたか」という話に戻ってしまうんですけど、前作で描いたところは、人間ドラマがしっかり描かれているエピソードだったんですよね。では、「四聖獣編」はどうか。キャラクターによってはドラマを抱えていますが、そうではなく、必要だからいる、というキャラクターも出てきます。僕、実はそこが苦手でして。
加古:人間ドラマの人だもんね。
伊藤:だから、そもそも演出は俺じゃなくてもいいんじゃないの?と最初は思ったくらい。きっと今回のエピソードでは、僕があまり得意ではない“演劇的ケレン味”みたいなものが必要になってくる。そこに、この2人の力が欲しかったんです。2人はそういうことをおもしろがってくれるから、演劇的な表現を一緒に作れたらいいなと思っての、今回です。
今、2.5次元作品っていうと、脚本も演出も固定されてきちゃっているんですよね。いろんな作品を拝見する中で、その作品においてこの演出家が適正なのか?と思うこともありまして。そういう思いもあって、バランス感覚を持った上で演出できる人間が、もっともっと増えないといけないという考えがあった時に、この2人に声をかけてみようという選択肢が出てきたんですね。
演出という立場で考える「2.5次元」
――お2人は、2.5次元作品を演出という立場でどう見ていらっしゃいますか?
加古:原作にファンがいて、持っているイメージを裏切ってはいけないというのが大前提としてあると思うんですけど、じゃあ、何故舞台で、生身の人間が演じるのか。これは、僕が『幽☆遊☆白書』を観た時の感想とリンクするんですが、人が演じることでできる幅が、2.5次元作品をより豊かにするんじゃないかなと思うんです。
口調を真似して、声のトーンを同じにして、しゃべり方も近づける。それも一つの手法ですが、それだけにこだわらない幅に人間というものが滲み出てくるので。目指すところは、生身の人間としての魅力が浮き出た上で、裏切らないキャラクター作りだと思っています。
僕は演出としての経験はまだ浅いので、その時に感じたことを形にできるよう一生懸命やっているだけですが、役者でもあるからこそ、「たぶん今、こういう悩みを持っているんじゃないかな」とか、「ここで苦しんでいるんじゃないかな」ということが感じ取れると思うので、そこに寄り添ってうまいパスが出せたらいいなと。
荒木:「2.5次元作品」って呼ばれてジャンルになっていますけど、なんだかんだ言って、演劇って原作のあるものが多いですよね。シェイクスピアものだってある意味原作ものと言えるし、それがたまたま漫画やゲームだったというだけで。
ただ、原作として絵やアニメの声があるから、近道しようと「声真似をすれば納得してもらえる」「顔が似ていればいい」といった安易な考え方を持っている人もいます。そういう人には、「それは違うよ、僕らは演劇をやろうとしているんだから」「ビジュアルが似ているだけでは納得はしてもらえないんだよ」と伝えなければいけない。
逆に「演劇なんだから、なんで漫画読まなきゃいけないの?俺はこの台本しか読まない」という人もいます。そういう人には「シェイクスピアをやる時、台本だけじゃなくてシェイクスピアの原典も読むでしょ?それと同じように、漫画が原作なんだから読むんだよ」「2.5次元作品に出るのならば、絶対に必要なことなんだから、偏見を持ってはやれないよ」ということを伝えなければいけない。
「2.5次元」という言葉が確立すればするほど、若手、先輩関わらず、演出をする上では大事にしていかなければならないことだろうなと思っています。
そういったリスペクトは大前提として持った上で、声を似せることは多少なりとも必要だと思います。もっと噛み砕いて言えば、話し方。そのキャラクターは「何故その声なのか」「何故そのトーンなのか」「何故そのニュアンスなのか」。このキャラクターはこういう人間性だからこの台詞回しになっているんだ、ということを理解した上で、「キャラクター」を「人」として落とし込んで表現することがすごく重要になんじゃないかな。
――三者三様の矜持とアイデアが、どのような形になるのか、楽しみにしています。
荒木:いろいろお話しましたが、演劇ってこんなこともできるのかっていう驚きを見せたいですね。人気コンテンツなので、お金かけていただいて、最新技術を取り入れたいなと思っています(笑)。派手なことやりたいという思いと同時に、それが許されるぐらい演劇的なことをアナログに作り込んで、カンパニーみんなで汗をかきたいです。この2つの要素がうまくバランスを取れていたのが、前作だと思うので。
また、今回は映像として観ていただくことになることも加味して演出しなければならないなと思っています。もちろん劇場で観ていただけたら嬉しいんですけど、劇場に来るのが怖い、でも観たいと思ってくださる方にも、どちらの観方でも満足していただけるような作品 をしっかりとお届けしたいなと思っています。
加古:僕は今回からの参加なので、前作で客席から得た感動を、1人のファンとして忘れないでいたいと思います。第1目標は、僕が好きでおもしろかったと思うことを裏切らないこと。さらにそれを超えられるように、カンパニーの歯車の1つとして「いて良かったな」とみんなに思ってもらえるように尽力したいです。その先に結果が残ると思うので。期待は裏切りませんので、ぜひ楽しみにお待ちいただけたらと思います。
伊藤:作品に関しては2人が言ってくれたことがすべてだと思っておりますので、1つだけ追加を。10年後、振り返った時に「2人の演出家としての道はここから始まったんだ」って言えるような代表作を僕は作りたいと思っていますし、僕が渡せるものは全部渡します。生意気言いますけど、2.5次元作品にとってだけではなく、日本の演劇界にとっても重要な公演になると僕は思ってやっておりますので、そこも含めて楽しみにしていてください。
公演情報
舞台『幽☆遊☆白書』其の弐
【東京公演】2020年12月5日(土)~12月15日(火) 品川プリンスホテル ステラボール
【大阪公演】2020年12月18日(金)~12月20日(日) COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール
【京都公演】2020年12月23日(水)~30日(水) 京都劇場
【原作】冨樫義博「幽☆遊☆白書」(集英社「ジャンプコミックス」刊)
【脚本】伊藤栄之進
【演出】伊藤栄之進、加古臨王、荒木宏文
【出演】
浦飯幽助:崎山つばさ
桑原和真:郷本直也
蔵馬:鈴木拡樹
飛影:橋本祥平
雪村螢子:未来
ぼたん:平田裕香
幻海:エリザベス・マリー
朱雀:木津つばさ
青龍:榎木智一
雪菜:田上真里奈
左京:荒木健太朗
戸愚呂弟:片山浩憲
戸愚呂兄:中河内雅貴
コエンマ:荒木宏文
<アンサンブル>
中村哲人、秋山皓郎、安藤勇雅、高間淳平、田﨑直輝、戸舘大河
配信
※配信はファンキャスとニコ生で行われ、配信日・内容(映像)はそれぞれ異なる
<ファンキャス配信>
【チケット料金】3,600円(税込)
【見逃し配信視聴期間】公演終了から3日間
【配信内容】
キャラクターカメラ:3カメスイッチング
※浦飯幽助/桑原和真/蔵馬/飛影それぞれをメインとした映像を配信
最前中心アングルカメラ:2カメスイッチング
※最前列の定点カメラよりステージ間近の映像を配信
特典映像付き引き中心アングルカメラ:2カメスイッチング
※ステージ全景映像を配信、特典映像はアフタートークを予定
【詳細】https://www.ticketpay.jp/booking/?event_id=30687
<ニコ生配信>
【チケット料金(税込)】
初日/2カメスイッチング:3,600円(プレミアム会員:3,000円)
東京千秋楽/5カメスイッチング:3,800円(プレミアム会員:3,200円)
京都千秋楽/7カメスイッチング:4,100円(プレミアム会員:3,500円)
【チケット販売期間】
初日:2020年12月20日(土)23:59まで
東京千秋楽:2020年12月30日(水)23:59まで
京都千秋楽:2021年1月16日(土)23:59まで
【タイムシフト期間】
※期間中1回のみ視聴可
初日:配信終了後~2020年12月21日(日)23:59
東京千秋楽:配信終了後~2020年12月31日(木)23:59
京都千秋楽:配信終了後~2021年1月17日(日)23:59
【配信地域】日本国内
【詳細】https://secure.live.nicovideo.jp/event/lv328844498all
<配信スケジュール>
東京公演
12月5日(土)13:00公演/【ニコ生配信】東京初日昼公演 ニコニコ生中継
12月5日(土)17:30公演/【ファンキャス配信】キャラクターカメラ(浦飯幽助)
12月6日(日)17:30公演/【ファンキャス配信】キャラクターカメラ(桑原和真)
12月12日(土)17:30公演/【ファンキャス配信】キャラクターカメラ(蔵馬)
12月13日(日)17:30公演/【ファンキャス配信】 キャラクターカメラ(飛影)
12月15日(火)12:00公演/【ニコ生配信】 東京千秋楽 最前中心アングル ニコニコ生中継
大阪公演
12月20日(日)16:30公演/【ファンキャス配信】最前中心アングルカメラ
京都公演
12月24日(木)18:30公演/【ファンキャス配信】特典映像付き引き中心アングルカメラ(クリスマス特典映像付)
12月30日(水)12:00公演/【ニコ生配信】大千穐楽 ニコニコ生中継
【公式サイト】http://officeendless.com/sp/yuhaku/
【公式Twitter】@yuhaku_stage
【公式グッズページ】http://officeendless.com/sp/yuhaku/goods
(取材・文・撮影/エンタステージ編集部 1号)