2020年9月4日(金)に東京・東急シアターオーブで増田貴久主演のミュージカル『ハウ・トゥー・サクシード』が初日を迎える。開幕直前にフォトコールと取材会が行われ、増田、笹本玲奈、松下優也、雛形あきこ、鈴木壮麻、林愛夏、ブラザートム、春野寿美礼、今井清隆が登壇し、本作への意気込みや“座長”増田の印象などが語られた。
本作は、1961年にブロードウェイで初演され、以降1417回のロングランヒットという記録を打ち立てたウェルメイド・コメディのミュージカル。1962年のトニー賞最優秀ミュージカル作品賞、脚本賞、主演男優賞、助演男優賞、製作者賞、演出賞、指揮・音楽監督賞の7冠を達成し、大きな注目を集めた。2011年にはダニエル・ラドクリフ主演でリバイバル上演し、トニー賞8部門にノミネート。海外ミュージカル初挑戦となる増田が主演を務める今回、2011年版クリエイティブチームの一人であり、本作を知り尽くしたクリス・ベイリー氏のもと2020年版新演出で作り上げている。
物語は、ビルの窓ふき清掃員フィンチ(増田)がある日「努力しないで出世する方法」という本を読んで感化され、“入るべきは大企業”という本の教えに沿って、大勢の社員を抱えるワールドワイド・ウィケット社に飛び込むところから始まる。フォトコールでは、このフィンチの“出世”の第一歩である物語の一幕冒頭と第二幕終盤の場面が披露された。
第一幕、オーバーチュアの終わりと共に幕が上がると、そこには窓ふきのゴンドラに乗ったフィンチの姿が。本をしっかりと読み込み、素直にその言葉を自分の中に落とし込んでいく。うんと頷き「僕はできる!」と笑顔で言う姿はまさに純粋無垢な様子で、見ていて思わず微笑んでしまった。冒頭で披露されるナンバー「努力しないで出世する方法」では増田の澄んだ歌声とアンサンブルたちの力強いダンスに圧倒され、楽しい気分になった。
そこからフィンチはただただ素直でいるだけなのにあれよあれよという間に大切な出会いを果たし、入社を決めてしまう。そしてフィンチは郵便室に配属され、本の教えに沿って行動していくことでさまざまな人に気に入られ出世はとんとん拍子、恋も順調という素晴らしい人生を歩んでいくが、ある日重大なアクシデントが・・・という物語が展開される。
ピュアな気持ちがポジティブな出来事をドンドンと運んできているようで、増田演じるフィンチの笑顔を見ているとそりゃあ“幸運の女神”に愛されてしまうよな、と思ってしまう。そんなフィンチを愛するのは女神だけではなかった。フィンチが入社することになる会社で秘書として働くローズマリー(笹本)もそうだ。フィンチと出会った瞬間にそのピュアなオーラに心を打たれたようで、無謀に人事部に乗り込もうとするフィンチのために友人である人事部長の秘書・スミティ(林)に何とかしてもらうように頼むなど、恋する乙女の可愛さが全開だ。
フィンチとローズマリー、ほわほわとした可愛らしい二人の恋を自然と応援したくなるのはもちろんだが、その他に登場してくるキャラクターにも注目だ。社長のビグリー(今井)には社長然とした威厳がありつつも偏屈っぽい部分が愛らしく感じ、郵便室の室長・トゥインブル(ブラザートム)はどっしりとした安心感が、社長の甥で出世を狙うバド(松下)は嫌味だけど憎み切れない可愛らしさがあり、人事部長のブラット(鈴木)はしっかりしてるように見えつつお茶目さも覗かせ、社長秘書のミス・ジョーンズ(春野)はスマートな女性という感じでかっこよく、フィンチの専属秘書になるヘディ・ラ・ルー(雛形)からは大人の色気がムンムン・・・全員が個性豊かでとても魅力的で目が離せないのだ。
そんな魅力いっぱいの本作。しかし新型コロナウィルスの影響で演出・振付を務めるクリス・ベイリーが感染症対策で入国できず・・・昨年オーディションで来日していた際に美術などの打ち合わせは進めていたものの、振付などに関してはクリス自ら動画を撮って送ったものを振付助手の青山航士が起こしてキャストに入れていったり、オンラインで指示を受けながら稽古を重ねてきたとか。
また、感染対策としてPCR検査は稽古前に1回、稽古が始まって本番を迎えるまでの間に2回の計3回、抗体検査も含めると4回実施し、キャスト、スタッフ、オーケストラ全員、陰性の結果を受け、初日を迎える。さらに本作では、楽屋に入るのに日々の体温や体調をメモする手帳がないと入れないようになっているという。他にも舞台の床は抗菌処理が施され公演が終わるたびに消毒、座席の間隔を左右1席ずつ空け50%以下のキャパシティで観客を入れるなど、厚生労働省や東京都が推奨する対策を万全に行っており、キャスト、スタッフ、観客全員にとってよりよい観劇環境を整えている。
フォトコールの後に行われた取材会には増田らメインキャスト9名が登壇。ソーシャルディスタンスを保ちつつ、激しいダンスの後で沢山の汗をかく増田や松下のためにブラザートムがティッシュを取りに行き二人に差し出すなど、チームワークの良さを見せる中、本作への意気込みなどが語られた。
増田は初めて海外ミュージカルに挑戦することになるが「本当に長く愛されてきた作品で楽曲も振付もセットも素晴らしくて。昔から愛されてきた作品をやるということでもちろんプレッシャーもあったけど小さい頃からミュージカルをやるのが夢だったので、この作品に出会えたことが嬉しいです。プレッシャーは100%ありますが、楽しさやうれしさも同じくらいあります」と笑顔で語った。また、クリスによる振付についてきかれると「踊るだけでも楽しくなるような振付で、今まで僕も沢山の楽曲の振りを踊ってきましたけど、それとは違うパワーを感じながら踊っています。実際に踊りながら歌ってみると、こんな感じに・・・疲れます(笑)。でも本当に楽しくて、踊ってるだけでもワクワクしちゃいます」ときらりと光る汗を軽く拭いながら楽しそうに明かした。
また、新型コロナウイルスへの予防対策が徹底されている本作。そのことについては「稽古の後に食事や飲みに行くことも楽しみでしたけど、今回は一切やらなかったです」と少し残念そうに語りつつ、「キャスト陣もスタッフもずっとマスクをつけていて顔の下半身を知らなかったので、通し稽古で初めてマスクを外した時は『そんな口してたんだ』っていう驚きもありました(笑)。おしり見ちゃった、くらいの衝撃はありました。ステージ上では裸の付き合いですね!」と満開の笑顔を見せつつ「みんな気を付けながら、まず自分を守って、周りの人も守って、という気持ちで、意識を高くやってきました。何かが足りないってことはなく。時間もたっぷりお稽古させていただいたので、不安はないかなと思います」と自信を見せた。
そんな増田が演じるフィンチの恋のお相手を演じる笹本は増田について「フィンチそのものだなって」と印象を語り、「フィンチって難しい役だと思うんです。本の通りにせっせと出世していくようなキャラクターだと嫌な男になってしまいそうなんですけど、増田さんの元々持っている人柄とか人を引き込む力とかカリスマ性でフィンチを豊かにしているなと。皆さんもそうだと思うんですけど、私自身も側でフィンチを演じる増田さんを見ていて心から応援したくなるような存在だなと思います」と魅力を伝えると、増田は少し野太い声で「ありがとうございます!」と照れた様子を見せつつ感謝した。
また、フィンチのライバル的な存在となるバドを演じる松下は増田について「涼しそうな顔でずっと稽古しているからすごいなと思って。バドとしてフィンチを邪魔していかないといけないなって自然と思いましたし、実際の増田くんのイメージとフィンチの役柄がすごい合っているので、バドとしてやりやすいなと思いました」と自然と“ライバル意識”のようなものが芽生えたとか。
今作が4年ぶりの舞台、初めてのミュージカル作品となる雛形は「この年になるまで中々チャレンジする機会がなかったんですけど、はじめてがこのカンパニーでよかったなと思いました。増田さんを含め皆さんが本当に優しくて、登場人物の元々のキャラクターに皆さん自身のキャラクターが乗っかって、さらに楽しく自由に豊かに演じられるような空気を皆さんが作ってくれているのを感じて。初めてがここで本当によかったです」としみじみ語った。
そんな雛形の言葉を受けつつ、このカンパニーのチームワークについて聞かれた鈴木は「本当に素晴らしいチームワークでして、先ほどトムさんがティッシュを持ってきてくださったことにしても、振付がとても大変で細かいところまでやっていかなきゃいけない中で、お互いに励まし合って補い合ってという感じでやれて。増田さんがポジティブに前向きに捉えてくださる波及効果ですごく良い感じになっています。このチームならではの結束力がこの作品の結晶になっていると思います。ぜひご覧いただきたいです」と、その結束力に自信を見せた。
二幕終盤でダイナミックなダンスを見せた春野は本作について「最後の場面、私は何をするでなく、周りで支えてくださっている男性社員の皆さんに身をゆだねて踊っているんですが、本当に安心して身をゆだねています。アンサンブルの方だけでなくメインキャストの皆さんも頼りになる方々ばかりで、このカンパニーで作品を作れているというのはとてもうれしいことです」としみじみ語った。
また、人事部長の秘書を演じる若手の林は「すごいあっという間に初日になってしまったんですけど、毎日がすごく充実していて、コロナでコミュニケーションを取りづらい中、出来るだけ交流を深めて良いチームワークにしようってやってらしてそこに私も入れさせていただけて、今日初日を迎えることが出来て本当にうれしいです」とはにかみながらコメントした。
一方、先ほど増田達のためにティッシュを差し出す気配りを見せたブラザートムは「皆さんのファンがいるのでその方々のおかげで僕が出させている・・・この気配りこそが“ハウ・トゥ・サクシード”だと思っています」と会場の笑いを誘いつつ、「このカンパニーは100人近くいるんですけど、3か月近く稽古などをしてきて1人も感染者が出てないっていうのは本当に全員がかっちりと感染対策をしていて。(そんな中初日を迎えられるのは)一番年上の立場として、涙が出てしまうほどうれしい」と熱く語った。
そして“ベテラン”今井は、「振付もマスクしながらだったか苦しくて苦しくて、外したら少しは楽になるかと思ったけど全然楽じゃなかったですね(笑)」と明かしつつ、「増田君は本当に明るくて、セリフも多くてダンスも多いのにケロッとしてやってるから本当にすごいなと思います。彼に引っ張ってもらって僕も頑張ってます」と増田の座長っぷりを評した。
そんな今井の言葉に照れ笑いしつつ、増田は最後に「世の中が大変な状況で、大きな会場でステージに立てるのはすごくありがたいことですし、責任重大だなと思いますと。しっかりとエンターテインメントを作るこの場を大切にしっかりと千秋楽まで頑張って取り組んでいきます。少しでも多くの方を笑顔に、元気にできるように頑張りますので、よろしくお願いいたします」とメッセージを送って会見を締めくくった。
ミュージカル『ハウ・トゥ・サクシード』は下記の日程で上演。上演時間は1幕1時間35分、休憩15分、2幕1時間の合計2時間50分を予定している。
【東京公演】2020年9月4日(金)~9月20日(日) 東急シアターオーブ
【大阪公演】2020年10月3日(土)~10月9日(金) オリックス劇場
【公演情報】 https://db.enterstage.jp/archives/3484
(取材・文/エンタステージ編集部 3号 写真/オフィシャル提供 撮影:田中亜紀)