2019年9月6日(金)に東京・紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAにて、こまつ座 第129回公演『日の浦姫物語』が開幕した。初日前にはフォトコールと囲み会見が行われ、朝海ひかる、平埜生成、演出の鵜山仁が登壇した。
井上が文学座、杉村春子への当て書きで書き下ろした初期戯曲『日の浦姫物語』。日の浦姫の生涯を巡る一大絵巻が、近年ますます円熟味の増す鵜山による演出によって、「井上ひさしメモリアル10」の第5弾として、こまつ座で初上演される。
日の浦姫の少女時代から老境までを演じるのは朝海ひかる。宿命の愛に翻弄される稲若と魚名の二役に平埜生成。ストーリーテラーである説教聖夫婦で夫の説教聖を辻萬長、妻の三味線弾きの女を毬谷友子が演じる。
フォトコールでは序段の「説教聖の前口上」、二段目の「死から生まれた子供たち」、五段目の「小島の堂守」の3シーンが公開された。「説教聖の前口上」では説教聖と三味線弾きの女の夫婦が登場し、説教聖が数奇な運命を背負った一人の姫の物語を語ろうとする導入部分が披露。
「死から生まれた子供たち」では、その物語の始まりとして、平安時代に双子の兄妹、稲若と日の浦姫が禁忌を犯そうとする艶やかなシーン、そして「小島の堂守」では三味線弾きの女がロックシンガーのような歌い手となり、出演者たちが総登場しての歌に踊りにとにぎやかなシーンが公開された。
囲み会見では、まず演出の鵜山が作品について「一言で言うと近親相姦の話です。愛し合っている兄妹、そこから生まれた子ども、そういう不都合を世の中から抹殺するために大人たちがいろんな忖度を働かせるのですが、そのことによって排除されていく”弱い者いじめ”の芝居だと思っています」と説明。加えて「僕が注目している文学座の人たちがたくさん参加していますし、こまつ座と文学座の近親婚的な関係も楽しんでください(笑)」と、石川武、沢田冬樹、赤司まり子らほか多数出演する文学座の役者たちを作品のテーマにちなんでアピールした。
初日を迎え、朝海は「井上さんの作品に参加できること自体が幸せです。日々セリフとの戦い、鵜山さんのリクエストとの戦い、そして平埜くんとのラブシーン・・・がんばってきた成果をみなさまに楽しんでいただけたらうれしいです」と心境を明かした。
井上作品への出演は2回目となる平埜は「稽古で朝海ひかるさんと一緒に愛をはぐくんできて、朝海さんが夢に出てくるくらいでした(笑)。それぐらいこの作品にどんどん入り込んでいる自分がいます」と稽古を振り返ると「こまつ座と文学座の大先輩の方々に囲まれて、全員野球のような熱い作品になっています。すごく深いテーマのある作品ですが、楽しく笑って観られる作品になっています」と呼びかけた。
多くの井上戯曲を演出してきた鵜山は「世の中のいろんな矛盾みたいなことを、どうやったら生きる力に振り向けられるか、せめて舞台の上からでも、痛め合う、殺し合うではなくて、生かし合うというメッセージが発信できないかということを託されているような気がしています」としみじみと語り「どこへフォーカスしていいのかという悩みと楽しみがあったのですが、井上さんが亡くなって10年、いよいよ深みにはまっていくような気分で楽しませていただいております」と笑顔を見せた。
井上作品の魅力について、朝海は「井上さんのセリフをしゃべることの難しさをあらためて感じる毎日でした。とてもきれいな日本語を感情に乗せてしゃべることは、ほかのお芝居ではなかなか味わえないことです。今使われない言葉もとても新鮮な形でよみがえってきて、魅力的で大好きです」とコメント。
平埜も「井上さんはチェーホフのような視点を持っていらっしゃるのかなと本を読んで感じています。どこか人とか俳優をバカにしているというか、そういう人の笑いというのは悪意から生まれるんじゃないかと思っています。そういうものが今回の作品もすごく多くはらんでいて、なぜ人は笑ってしまうのかとか、禁忌の愛になぜ人は笑ってしまうのかとか、そういうことを考えた時に井上ひさしさんというのはすごく天才なんだなと感じました。またその演出で鵜山さんも天才なんだなとすごく感じました」と語った。
作品の中での朝海と平埜について、鵜山は「二人とものびやかで、何をやっていても向かっていけて、コントラストが効いているし、いい配役だと思っています」と褒め称えた。
その二人はお互いの魅力を尋ねられると、しばらく見つめ合いながら平埜が「夢にまで出てくるので、魅力というかもはや好きですね(笑)」と答え、続けて「顔、声、スタイル、お芝居の姿勢、本当に完璧なパートナーをこの舞台で見つけることができました」と照れながらも回答。平埜が朝海の魅力を一つ一つ挙げるたびに、朝海が「ありがとうございます」と感謝すると会場は笑いに包まれた。
朝海も「何度も平埜さんの感性に救われました。顔を合わせるたびにきれいな顔だなと思っています」と述べると「「小島の堂守」のシーンの歌詞そのものの顔です。平埜さんが演じるのを想像して井上さんが書いたのかなと思うぐらいピッタリの歌詞がついているので、ぜひそこも楽しんでいただきたいです」と見どころとして挙げた。
会見中の二人のやり取りは愛をはぐくむ役柄の関係そのものを彷彿させ、そのやり取りについて平埜は「すいません、いちゃついて」とはにかんでみせた。
文学座での伝説的な初演から40年あまり。井上ひさし初期の傑作である禁忌の愛にゆれる日の浦姫の半生を綴る平安一大絵巻が、重厚な俳優陣とスタッフによって2019年に甦る。
こまつ座 第129回公演『日の浦姫物語』は以下の日程で上演される。
【東京公演】9月6日(金)~9月23日(月・祝) 紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
【山形公演】9月28日(土) 川西町フレンドリープラザ
(取材・文・撮影/櫻井宏充)