ダイアン・パウルス、城田優らの日本語版に「最高!」『ピピン』稽古場レポート

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2019年6月から東京・東急シアターオーブにてブロードウェイミュージカル『ピピン』が上演される。本作は1972年の初演にてトニー賞5部門を受賞し、2013年の新演出版がトニー賞4部門を受賞した人気作だ。今回は、新演出版を手がけたダイアン・パウルス自らが演出を手がけ、本場のクリエイティブ・チームも再集結。ブロードウェイで感動を与えた公演の世界観そのままに、日本人キャストで上演する。

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描かれるのは、人生を変える冒険と情熱に憧れる若き王子ピピンの物語。王子として何の不自由もなく育ったピピンが、美しくカリスマ的なリーディング・プレイヤー率いるアクロバットサーカス一座に誘い込まれ、人生を変える情熱に駆られて「特別な何か」を探し求める旅に出る。出演は、ピピン役に城田優、リーディング・プレイヤー役にミュージカル初出演となるCrystal Kay(クリスタル・ケイ)、さらに今井清隆、霧矢大夢、宮澤エマ、岡田亮輔、中尾ミエと前田美波里(Wキャスト)といった実力派俳優陣が名を連ねている。

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今回はその稽古場を取材。稽古場に足を踏み入れると、まだセットは仮組みではあるものの、サーカス小屋の雰囲気がバッチリ漂っていた。サーカスの小道具などがズラリと並ぶ舞台袖となる場所に通されると、ワクワク感を駆り立てられ、胸が高鳴る。

すでに、ダイアンらクリエイティブ・チームも勢ぞろいしており、通訳を介さずに城田や宮澤らが和やかなムードで冗談をかわしながら談笑していた。クリエイターたちと日本人キャストとのコミュニケーションも良好の様子だ。

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まず、最初に公開されたのは一幕五場のピピンが革命を起こすべきだと民衆へと訴えるシーン。城田とCrystal Kayによる二人芝居から始まる。ダイアン自身が主役のピピン役に選んだ城田がパッションを感じさせる演技を見せると、Crystal Kayもミュージカル初出演とは思えない堂々とした演技で応える。そして、城田の台詞に合わせて、日本人とオリジナルのキャストたちが民衆として登場。稽古場も、一気ににぎやかな雰囲気に。

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注目の一つは、トニー賞受賞演出家ダイアンが日本人キャストに直接演出をつけるということだろう。来日したばかりというが、身振り手振りを交えてのパワフルでタフな演技指導を行い、日本人キャストに容赦なくリバイバル版と同じクオリティを求めるという熱量を感じさせる。

日本語版を手がけるにあたって、ダイアンは「翻訳をどうしていくか、今は1行1行検証しながら演出を行っています。舞台上にとどまらず、客席の方まで広がって、具体的にお客様とつながって心を動かすということを目的とした公演です。なので、日本の皆様がそれで心が動くようなものに作り替えるという作業をしています」と語る。

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その言葉通りに、ある台詞で「偏見」と訳されたものを、日本語スタッフらと話し合いながら、シーンにより合うように「差別」と変更するなど、大胆な演技指導だけでなく、細心さも見せていた。「キャストにはいつも問いかけているんです。どういう風にやったらこれが具体的な社会問題として感じてもらえるかを」と語るダイアン。言葉一つ一つに細心の注意を見せる点は、ハーバード大学アメリカン・レパートリー・シアターの芸術監督で、同大学英文科の教授でもあることがうなずける場面であった。その思いに、城田やCrystal Kay らは数々の演技で応え、熱気あふれる稽古が続けられた。

母親が日本人で、父親はアーニー・パイル劇場(終戦当時の東京宝塚劇場)で演出をしていたというダイアンは、日本でピピンを作れるということに「夢が叶う」と思いを明かす。母親は宝塚が大好き。ダイアンも、NYで初めての宝塚公演を母と観劇したと言う。残念ながら今回の公開稽古では、元宝塚歌劇団月組トップスターの霧矢が出演するシーンはなかったが、ダイアンが霧矢をどのように演出するのか楽しみだ。

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続いて、公開されたのはオープニングナンバー「Magic To Do」によるミュージカルシーン。Crystal Kay演じるリーディング・プレイヤーのダンスからスタートすると、今までの和やかな稽古場の空気が一変。魔法のような驚きのアクロバットに壮大な楽曲、ボブ・フォッシーによる「フォッシー・スタイル」と呼ばれるセクシーでスタイリッシュなダンス、観客の目の前まで迫ってキャストたちが観客へと話しかけるなど、変幻自在のまさしくサーカスというシーンが披露された。

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リバイバル版にサーカスというアイデアを取り入れたことについて、ダイアンは「演出家として常に第四の壁を破るということに興味があり、観客と直接コンタクトを取る・つながるサーカスに興味がありました。そのサーカスの体感というものを劇場に持ってきたかったんです。そして、リバイバル版を上演することになった時に、プレイヤーという役柄の人たちがいるんですが、それがサーカスの一座のメンバーだとしたら、ミステリアスで誘惑的、スリル感のあるものになるだろうと思ったんです」と振り返る。「Magic To Do」はその思いをひしひしと感じさせる代表的なミュージカルシーンとなっている。

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稽古を終えたダイアンは、城田とCrystalについて「城田はインクレディブルでアメージング!ピピンの情熱やおもしろさを掴んでいる。素晴らしい歌い手で、チャーミングで才能豊か。Crystal Kayはスターの素質を持っているね。素晴らしいし、強いし、きらめくものがある。『ミュージカルが初めてなんてウソでしょ?』と彼女に言ってきたばかりなんです(笑)。声も美しいし、身体性もパーフェクトに向かっています」と絶賛。

そして、日本人キャスト全員について「皆さんの才能に圧倒された気持ちです。スキルも演技もユーモアのセンスも信じられないキャストです。今までで最高!」と称賛の言葉を贈った。

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迫力ある歌とダンスとアクロバットに彩られ、一人の青年が大人へと成長していく心揺さぶる物語が語られる本作。2シーンだけの公開稽古であったが、ブロードウェイ最高峰のスタッフと実力派の日本人キャストによる奇跡のコラボレーションの片鱗をのぞかせ、本番への期待が高まる稽古場であった。

ブロードウェイミュージカル『ピピン』は、以下の日程で上演される。

【東京公演】6月10日(月)~6月30日(日) 東急シアターオーブ
【名古屋公演】7月6日(土)・7月7日(日) 愛知県芸術劇場 大ホール
【大阪公演】7月12日(金)~7月15日(月・祝) オリックス劇場
【静岡公演】7月20日(土)・7月21日(日) 静岡市清水文化会館マリナート 大ホール

【公式HP】http://www.pippin2019.jp/

(取材・文・撮影/櫻井宏充)

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この記事を書いた人

演劇、海外ドラマ、映画、音楽などをマルチに扱うエンタメライター。エンタステージ立ち上げからライターとして参加し、小劇場から大劇場のストレートプレイにミュージカル、2.5次元、海外戯曲など幅広いジャンルにおいて演劇作品の魅力を日々お伝えしています!

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