2015年9月4日(金)に東京・東急シアターオーブにて初日の幕を開けたブロードウェイミュージカル『ピピン』。1972年に『シカゴ』『キャバレー』で有名なボブ・フォッシーの手により舞台化された本作は、2013年にダイアン・パウラスの新演出で上演され、同年のトニー賞でミュージカル部門・最優秀リバイバル作品賞を含む4部門を受賞した。
ニューバージョンとして新しい命を吹き込まれた『ピピン』の大きな特徴は、シルク・ドゥ・ソレイユ出身のアーティストが手掛けたサーカスのアクロバットパフォーマンスとイリュージョン。これに従来の“フォッシースタイル”と呼ばれるダンスが融合し、ブロードウェイでは多くの観客の熱狂を呼んだ。では、新生『ピピン』日本公演初日の模様をレポートしよう。
シアターオーブの舞台上一杯に張られた巨大なサーカス小屋のテント。そこに作品の進行役であるリーディングプレイヤーが登場し、観客に「これからサーカス団(旅芸人)の一座が『ピピン』の物語を演じます」と告げたところでストーリーが動き出す。まず冒頭でサーカス団(旅芸人)の俳優たちがみせるパフォーマンスに圧倒され、これからどんなショーが始まるのかといやがおうにも劇場全体の期待が高まる。
ピピンはローマ帝国の王子。大学で勉強し王宮に帰るのだが、義母・ファストラーダやその息子・ルイスの存在もあり、なかなか父王・チャールズとコミュニケーションが取れない。そんな中、父が治める国は戦争を始め、ピピンも「特別な何か」を見つけようと戦場に赴く。戦争でも自分の存在意義が見つけられないピピンは、父王の国民への圧政を知り、父を暗殺。自らが王となり国を統治するのだが、これも上手く行かずに失踪。道に倒れた彼を介抱した未亡人とその息子と共に農場で暮らし始める。平穏な日常が過ぎる中、ピピンはかつて求めた「特別な何か」を再び手に入れようと農場を去ることを決意。するとそこにリーディング・プレイヤーが現れ、ピピンが「特別な人生」を手にいれるためのグランドフィナーレを用意したと告げるのだが…。
ある種寓話的とも言える『ピピン』の基ストーリーを、サーカス団の一座が演じるというテイで見せていくため、観客はピピンの“自分探しの旅”を一歩引いた目線で観ることになる。ピピンがさまざまな人と関わる中で展開するアクロバットやイリュージョンは本当にエキサイティングで、『ウィキッド』の作曲を手がけたスティーブン・シュワルツのナンバーはどれもドラマティックで美しい。出演者も実力派の俳優ばかりだ。
中でも初日のこの日、一番の喝采を浴びたのはピピンの祖母・バーサ役のプリシラ・ロペス。初演の『ピピン』でファストラーダを演じた経験を持つ彼女はなんと今年67歳!67歳にして空中ブランコに乗りながらピピンに向かって「人生をもっと楽しみなさい」とビッグナンバー「No Time at All」を歌うのである。途中、観客を巻き込むプチ演出もあり、この場面の客席の熱量は上昇するばかり。ちなみにプリシラは『コーラスライン』のディアナ(上手側に立ち、演技をすることが分からないと「Noting」や「What I Did For Love」を歌うダンサー)のオリジナルキャストでもある。ブロードウェイの歴史を知り抜いているスペシャルな存在なのだ。
寓話的なストーリーと華やかなアクロバット&イリュージョンに加え、オリジナル版から踏襲されるフォッシースタイルのダンスも作品の中で大きな存在感を見せる。腰の重心を落とし、肩の関節や筋肉を独特な形で動かすボブ・フォッシーのダンスは今観ても全く色褪せることがない。
ピピンの“自分探しの旅”が終わりを告げる頃、リーディングプレイヤーによって提案される“最高のグランドフィナーレ”。しかし、ピピンが選んだのは…。
それまでの華やかさやゴージャスさ、寓話的なストーリー展開がまるで嘘のように、観客が一瞬にして自らの「リアルな人生」に向き合わざるを得なくなる構成はまさに“舞台の魔法”。華やかで楽しく、驚きに満ちたおもちゃ箱が引っくり返されたその底に人はどんな“真実”を見つけるのか…ぜひ、その答えを劇場で探して欲しい。
ブロードウェイミュージカル『ピピン』は9月20日(日)まで東京・東急シアターオーブにて上演中。
(文 上村由紀子)