2019年8月に、PARCO Produce公演『転校生』が上演される。本作は、平田オリザの作品で、1994年に初演。2015年には本広克行の演出で上演されている。とある高校に「朝起きたらこの学校の生徒になっていた」と言う転校生が現れる・・・という、女子高生21名の群像劇である本作を、平田が改訂版として“男子校”バージョンを翻案。再び本広の演出で、オリジナルナル「女子校版」と「男子校新版」の2バージョンを同時上演する。
2015年の前回、若手女優の発掘を目指しオーディションが行われたが、今回も「若手俳優発掘プロジェクト 21世紀に羽ばたく俳優たちへ」と銘打ち、男女共にフルキャストオーディションを実施。21人の男優たち、21人の女優たちを、本広自身の目で見出す。エンタステージでは、「男子校」ver.のオーディションの模様を取材した。
開始時間になり、参加者たちがぞろぞろと会場内に入ってくる。取材回の参加者は全部で20人。皆、少し緊張の面持ち。ずらりと並んだ参加者たちの胸にはオーディション番号がつけられている。そんな彼らに、本広は早速「男子には女子みたいに丁寧にはやらないからな~(笑)」と話しかけ、場を和ませる。集まった参加者たちは、容姿も雰囲気もキャリアもバラバラ。その様子は、入学式を終えた直後の教室に似ていた。本広は、ここからどんな才能を見つけるのか。
まず参加者に求められたのは「制限時間内になるべく多くの人と出会って挨拶をすること」「その際になるべく相手の名前を覚える意識を持つこと」の二つ。参加者同士が言葉を交わし、短い時間の中でもコミュニケーションを取ることで、この後グループワークへと続いていく。
場があたたまったところで、最初のグループワーク「“エア”パイ投げ」へ。パイを投げる人・投げられた人をパントマイムで表現。さらに投げられた人の両サイドの人は「ピシャ」と声を発し手を叩くことが課せられる。相手に意図を伝える力、汲み取る力、反射神経を同時に求められるこの課題、なかなか難しい。間違えた人は座らなければならないため、参加者たちの動きにも力が入っていく。白熱の“エア”パイ投げは、最後の一人が決まるまで続けられた。
続いては「静止画を作る」というグループワーク。言われた「人数」で即グループを作り、お題として出された「テーマ」を身体で表現するという課題だ。「2人で病院」「5人で渋谷の風景」「10人で映画館」など、お題の内容は様々。お題が変わる度に、参加者たちは解説を求められるのだが、ドストレートに表現する者、ちょっとひねった発想を見せる者、どうしてそうなった?!という者と、その答えは様々。
おもしろかったのが「10人でお城」というお題。片方のグループは「王子と姫、城を守る衛兵、雰囲気づくりのピアニスト」と“洋風”の場面を作り上げた。もう一つのグループは、「お城(しゃちほこ付)とその城の中で軍議を行うお侍」という“和風”の発想でシーンを創作。それぞれのグループの話し合いの中で中心となる人、「どうする?どうする?」と惑う人、話は聞いているのだがちょっと違うことをしたい人・・・と、短い間にも個性が見える。
ずらりと並んだ参加者たちを、背の順で並べたり、体格順で並べたり、本広はいろんな角度から見ていく。求められるのは、“学校”という決められた条件の元に集められた少年たち。一人一人にじっくりと向き合う自己アピールの時間では、本広が投げかける質問によって、「こういう子、クラスに一人はいたよなあ」「いたいた、こういう一匹狼タイプ」と、“個性”がこぼれ落ちてくる。おもしろみを感じているのか、終始、本広の表情は明るい。
もう一つ、今回の取り組みにおいてフックとなるのが、「女子校」ver.と「男子校」ver.があるということ。「男子校」ver.のオーディション前に、「女子校」ver.のオーディションも少しだけ見学したのだが、そこには成長過程における心理的性差がはっきりと見えた。演劇として同じ作品をやる上で、きっとその違いは物語の景色を大きく変えるに違いない。
オーディション結果は近日中に公式サイトで発表される予定。本広の手で、どんな若き才能が発掘されるのか、楽しみだ。
PARCO Produce公演『転校生』は、8月17日(土)から8月27日(火)まで東京・紀伊國屋ホールにて上演される。
(取材・文・撮影/エンタステージ編集部)