幕末の動乱を駆け抜けた5人の盗っ人たちの生き様を、歌舞伎『青砥稿花紅彩画』(通称『白浪五人男』)を原案に、G2が大胆にアレンジした音楽活劇『SHIRANAMI』が、2019年1月11日(金)に東京・新国立劇場 中劇場にて開幕した。初日前には公開ゲネプロと囲み会見が行われ、演出のG2と、出演者より早乙女太一、龍真咲、伊礼彼方、喜矢武豊、松尾貴史が登壇し、意気込みを語った。
舞台は、諸外国との通商条約に反対する武士たちが、尊皇だ、攘夷だと喧しい幕末の時代。古から天皇家に仕えていた八瀬童子の菊霧(早乙女)は、徳川家茂に嫁ぐことになった和宮のお守役として江戸に下り、弁天小僧と名を変えて「ある密書を手に入れる」という密命を受けていた。そして、奉公所の同心・南郷力丸(伊礼)は、幕府を守るために密書を探している。同時に、彦根藩にいる許嫁・小夜(龍)の行方も追っていた。
一方、武家屋敷ばかりを狙う泥棒・日本駄右衛門(松尾)もまた、江戸の町を騒がせており、ひょんなことから家茂の御庭番・忠信利平(喜矢武)と相見える。それぞれの忠義、思いを抱えて活動していた5人だが、やがて「この国を盗もうとしている」連中を阻止するため、力を合わせ始める・・・。
「非常にシンプルなステージセットながら、稼働可能なステージいっぱいの大画面には迫力ある映像が映し出される」「ちょんまげ姿の侍が出てくる物語なのに、流れるのはジャズ」。どこかちぐはぐな印象のある演出が、時代劇が“今”を生きていることを感じさせる。
歌舞伎を原案としていることからもわかるように、決して目新しいストーリーではない。それなのに「新しさ」を覚えるのは、ひとえにG2とショー演出・LEDディレクションを担当した市川訓由のプランが見事にヒットしたからだろう。
また、異ジャンルのキャストたちが集結したことで起こる化学変化も興味深いが、一方でそれぞれの得意ジャンルでの見どころをしっかりと見せてくれるのも嬉しい。伊礼の伸びやかな歌声、龍の歌って踊る華麗な姿と見どころ満載。さらに、早乙女による完成された殺陣と妖艶な花魁姿は必見だ。
早乙女は会見で「実は(女形で)お芝居はしたことがあまりないんです。花魁で台詞を発するのも初めて」と明かし、喜矢武から「初めてなのにすごいエロい声だね!」と絶賛されていたが、まさにその言葉通り。早乙女の色気たっぷりの姿にご期待あれ。
演出について、G2は「(本作の楽曲は)ラテンに影響されているジャズに統一しようと思いました。悩みに悩みまくった結果この形になりましたが、おもしろいシーンができたと思います。特に、霧菊の花魁のシーンでジャズをかけたことで、いい効果が出たと自負しています」とプランを説明した。
早乙女は「個性がバラバラです。こんなに異種の人がいっぱい集まってやるという機会はあまりないので楽しいです」とコメント。喜矢武は「僕は音楽に関わりたくないんで、また音楽か!と思いましたが(笑)。舞台でジャズが流れているのをあまり聞いたことがなかったので、おもしろい試みだと思っております」と公演への思いを語った。
また、龍は「とても難しかったですが、お稽古をしているうちにG2さんの愛情を感じました」と笑顔を見せ、「活劇は初めてだったんですが、盗賊の物語の裏側になる人情味や時代背景を大切に演じられたらと思います」と気合いを入れた。
本作が「初の和物」という伊礼は「所作を一から教えていただいた」と稽古を振り返り、「多数のジャンルのプロが集まっていて、凸凹した感じがあるけれど、それが魅力的なのかなと思っています」と語り、松尾は「音楽活劇に出るのが子どもの頃からの夢だったので、これぐらい真面目に取り組んだ舞台はなかった!」と冗談めかしながらアピール。そして、「G2さんは位置フェチの方なんですが、今回はセリの安全面も考えなければいけないので、余計に注文が多い。覚えきれない」とぼやくと、早乙女は「(ゲネプロでも)5人均等に立つのが正しい立ち位置なのに、松尾さんは俺の目の前に立ってましたもんね(笑)」と裏話を明かして笑いを誘った。
会見の最後、早乙女は改めて「見せ場や魅力が詰まった作品。新年にふさわしく、賑やかで、元気を持って帰ってもらえる作品になっていると思います」と呼びかけ、来場を呼びかけた。
このほか、瑞帆屋卯三郎役の鈴木壮麻や、”ネオかぶき”を掲げる劇団花組芝居より加納幸和・小林大介・谷山知宏らが出演し、和洋折衷の物語を支える。さらに、和宮役の入来茉里に、将軍・徳川家茂役として優しく心を投げかける小澤廉や、読売役として文学座の越塚学と共に奮闘する谷水力など、若手の活躍ぶりもあっぱれだ。
音楽活劇『SHIRANAMI』は、1月29日(火)まで東京・新国立劇場 中劇場で上演。上演時間は、1幕80分、休憩15分、2幕65分の計2時間40分を予定。
(取材・文・1枚目以外撮影/嶋田真己)