音楽劇『道』草なぎ剛とデヴィッド・ルヴォーの新作を作るという冒険

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2018年12月8日(土)にデヴィッド・ルヴォー演出、草なぎ剛主演の音楽劇『道 La strada』が東京・日生劇場で幕を開けた。物語は、サーカス一座のメンバーとして旅をするザンパノ(草なぎ)と少女ジェルソミーナ(蒔田彩珠)、そしてイル・マット(海宝直人)ら男女の人生の旅路を描く。

原作は1957年にアカデミー賞を受賞したフェデリコ・フェリーニ監督の映画。フェリーニ映画の最高傑作とも呼ばれ、アメリカ映画の保護と前進を目的とするアメリカン・フィルム・インスティテュートに「史上最も影響力のある映画のひとつ」とも評価されている。美しく、哀しく、痛々しくも優しい、ユーモアのある傑作映画。その世界がルヴォーの手により、鮮やかに劇場に出現した。初日公演に先駆け公開された冒頭シーンと、ルヴォーと草なぎによる会見の模様をレポートする。

舞台『道』は、チラシやHPにあらかじめ結末まで記されている。また、映画をすでにご覧になっている方もいるだろう。あなたはこれから何が起こるか知っているかもしれない。しかし今作には、ルヴォーの舞台ならではの魔法がかかっている。

音楽劇『道』舞台写真_2

冒頭、ステージに現れたのはクラウン(フィリップ・エマール)。照明との追いかけっこを繰り返し、コミカルなパントマイムで惹きつける。そして、舞台のオリジナルキャラクターである黒づくめのモリール(佐藤流司)がシルクハットの中からタロットを引く。道化のような悪魔のような姿の佐藤が浮かべる笑みは怪しげだ。どこか挑戦的でもあり、この世のものとは思えない佇まい。モリールはこの舞台のセレモニー・マスターである。

突然、激しい生演奏とともに現れるサーカス!ショーが始まった。ギター、太鼓、ヴァイオリン、一輪車、賑やかな歌声。サーカスのテントの入り口をくぐったように、ルヴォーが彩る幻想のワンダーランドへ誘われる。クラウンに目を惹かれ、モリールに誘われ、観客は舞台『道』の世界へと引き込まれていく。

音楽劇『道』舞台写真_3

サーカスの中央に雄叫びをあげて飛び出したのは、旅芸人のザンパノ(草彅)。低く唸るような声で口上を述べ、体に巻きつけた太い鎖を掲げ、獣のように叫ぶ。“鋼鉄の肺の男”という異名を持ち、胸部に巻いた鎖を腹筋で切るという芸を持つ、粗暴な男だ。筋肉の浮き上がるザンパノの肉体からは、触るとざらつきそうな生々しい質感を想像させる。

ザンパノは、これまでの草なぎのイメージからは遠い粗野な男だ。ルヴォーからは「ゴリラのように野生的な男を心がけて」と言われたらしい。会見で、筋肉について聞かれた草なぎは「照明やボディメイクさんにやってもらいました」「筋トレは1日3秒です。(筋肉があるように見えるのは)日生マジックです(笑)」などと冗談めかす。

しかし、ルヴォーから「剛に何かを言おうと振り返ると見当たらない。部屋の角を見ると、ウェイトトレーニングしている姿をよく見かけた」と明かされると、「僕じゃないんじゃないですか」と謙遜した。

音楽劇『道』舞台写真_4

ショーを終えたザンパノは、オート三輪に乗ってある街に到着する。芸の助手である少女が死んだことを両親に伝えにきたのだ。娘の死を知った貧しい母親はザンパノに「長女を買わないか」と持ちかける。そうして純真無垢な少女ジェルソミーナ(蒔田)は、貧困にあえぐ家族のために買われていった。

ジェルソミーナの顔に化粧を施し、トランペットを持たせ、芸を仕込むザンパノ。怒鳴り、鞭を叩きつけ、暴力で彼女をしつける。そして夜にはベッドに誘う。それが二人の旅の始まり。吹き荒ぶ砂嵐に流されるように、ザンパノに従うジェルソミーナ。その様子を、クラウンが見守っている・・・。

蒔田の透き通る声、無垢な仕草が、野蛮なザンパノと対比する。旅の行く末を知って観る舞台は、二人の間に交わされる一つ一つの感情、仕草、行動を愛おしくさせるだろう(もちろん、知らずとも引き込まれる。作品本来の持つ魅力によって、『道』は多くの人に愛されてきたのだから)。

音楽劇『道』舞台写真_5

最初の頃、草なぎはザンパノと対立する綱渡芸人イル・マット役だと聞いていたという。ジェルソミーナに助言をくれるイル・マットは、粗暴なザンパノとは対照的だ。しかしルヴォーはすぐにザンパノ役として確定させたそうで、草なぎはこれまであまりなかった粗暴な男を演じることになった。「やさぐれている演技は、稽古で引き出していただきました」と振り返る。

音楽劇『道』会見_6

草なぎはルヴォーの稽古について「優しくて、戯曲を哲学的に論理的に紐解いて教えてもらいました」と、短い稽古期間ながら充実した時間を振り返った。ルヴォーはこれまで多くの俳優たちを魅了してきた。数度その舞台に立った井上芳雄は「ルヴォーは“人たらし”なんです」とも言っている。

音楽劇『道』会見_7

そのルヴォーは、草なぎについて「物語を語るのがとてもうまい。物語を知的に理解されています。それはキャラクターに限らず全体像を見ています。いい演出家になれるのでは」と評し、「新作を作るという冒険を一緒にできて嬉しかった」と、草彅と仕事ができた喜びを笑顔で口にした。

音楽劇『道』会見_8

また、草彅は「新しい地図」として活動し2年が経つ。現在、メンバーの稲垣吾郎は舞台『No.9-不滅の旋律-』の大阪公演中、香取慎吾は世田谷パブリックシアターで三谷幸喜の新作ミュージカル『日本の歴史』に出演中だ。草彅は近年の活動について「『道』のように新しい仕事もできています。今をしっかりとがんばりたい。必死、ですかね」と噛み締め、「“地図”の“地”の文字のように、地面を踏みしめて一歩一歩実現して生きます」と抱負を語った。

音楽劇『道』会見_10

ジェルソミーナが過酷で汚れた人生の中で這うように旅を続けるのは、きっと何か煌めきを探しているのだろう。サーカスは夢のような空間だ。美しく幻想的な異世界と、動物のようにぶつかってくる男ザンパノは、ジェルソミーナをこれまでの貧しい生活とは違う世界に連れて行くかもしれない。一方、サーカスの裏側は、過酷な現実だ。ひとたびテントを出ればまた現実に戻ってしまう残酷さも秘めているのがサーカス。観客はルヴォーの誘う幻想空間(サーカス)で、何を観るだろうか。ザンパノの道、ジェルソミーナの道、草彅の道、私たちそれぞれの道・・・きっと人生について心で考える時間になる手助けを、この舞台がしてくれる気がする。

音楽劇『道』は12月28日(金)まで東京・日生劇場にて上演される。上演時間は、休憩なしの約100分を予定。

【公式HP】http://www.umegei.com/michi2018/

※草なぎ剛の「なぎ」は弓へんに前の旧字体、その下に刀が正式表記

(取材・文・撮影/河野桃子、1・3枚目撮影/荒井俊哉)

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