元吉庸泰が主宰するエムキチビートの音劇第2弾『世界の終わりに君を乞う。』が、2019年12月1日(土)より東京・博品館劇場にて上演されている。エムキチビートにとって、『朱と煤-aka to kuro-』以来、約4年ぶりの音劇となる本作。その模様を、公開ゲネプロの舞台写真と共にレポートする。
音劇とは、エムキチビートが音楽と歌と芝居を掛け合わせて生み出す作品の呼称。歌われる楽曲は、ミュージカルとしては短く、ストレートプレイとしての側面も強く持つ。今回上演している『世界の終わりに君を乞う。』は、同劇団が2010年に上演した『ワールズエンド -フライバイユー-』に新たなモチーフを加えリメイクしたものとなっている。
出演は、黒沢ともよ、木戸邑弥、立道梨緒奈、中村太郎、深澤大河、杉山真宏、法月康平、味方良介。そして、エムキチビートより若宮亮、大沼優記、福井将太、太田守信。さらに、米原幸佑が特別出演を果たす。
以下、物語のあらすじを紹介。
電車の脱線事故の被害者である市瀬一葉(黒沢)は、主治医である億宗太郎(味方)のもと、PTSDの治療を受けていた。弟の伊月(杉山)や恋人の修士(木戸)に見守られながら、克服するため過去を思い出そうとしていくが、現実と虚構の間に迷い込んでしまう。不思議な青年カンパネルラ(法月)を旅の道連れに、白の女王と赤の女王が戦争する世界の中で、彼女が見つけたのは、死に別れた親友・那由多(立道)の姿だった。
現実世界では、一葉の治療について入れ込む億を先輩の麻生(若宮)が気にかけていた。大学では、一葉が所属する演劇サークルの仲間である次(深澤)や大崇(中村)、七緒(福井)、杜若(太田)らが、一葉が書く台本の続きを待っている。そこへ、事故について調べる九重(大沼)という記者が現れ・・・。
PTSDの影響で混乱する一葉は、夢の中で再びあの不思議な世界へとたどり着く。そして、もう一度那由多に会うために、旅の道連れと共に銀河鉄道に乗り込むことに。先へ進むほど事故の記憶が蘇る中、銀河鉄道の車掌(米原)は一葉に「ここから先は引き返せない世界」と告げる―。
幻想の世界と現実の世界が交差する、世界の終わり。テーマは重い。しかし、桑原まこが綴った美しい音楽や、映像を使ったダイナミックかつファンタジックな演出で柔らかく包み、より物語の力を感じさせる仕上がりとなっている。
主人公・一葉役を演じる黒沢は、2016年に上演された同劇団の『アイ ワズ ライト』でも、鮮烈な印象を残した。声優としても数多くの人気作に出演する彼女だが、決して大きくはない身体のどこにそんなパワーがあるのかと思うほどの引力がある。同時に放出される感情の渦には、飲み込まれてしまいそうな恐ろしさすら感じた。
対して、親友・那由多役の立道は、一葉と死に別れてしまう前の姿を印象的に挟み込む。那由多が何を考え、どう感じていたのか。その感情の行き先に、幾重にも想像を巡らせてしまい、また悲しみが募った。
そして、冒頭から鉱石のような美しい歌声で物語を導く法月や、寄り添いぬくもりを与える木戸の優しさが落とす影、人間の脆さを感じさせる味方の振る舞い、米原の求心力のある存在感、日替わりネタなどを織り交ぜることで、緩急が生まれ、呼吸することを思い出す。
張り巡らされた伏線の中に、シンプルに置かれたメッセージが胸を打つ。この物語を、自分がどう感じて、どう受け止め、どう昇華するのか。じっくり噛み締めてほしい作品だ。劇場へ足を運ぶ際は、ぜひタオルをお忘れなく・・・。
本作にも、モチーフの一つになっている「銀河鉄道の夜」の中にも出てくるアルビレオ。ふたご星だが、互いの周りを回り合う連星ではなく、見かけの二重星なんだそうだ。本作を観たあと、ふと気になり調べ、知った事実に切なくなった。
エムキチビート produce 音劇vol.2『世界の終わりに君を乞う。』は、12月9日(日)まで東京・銀座 博品館劇場にて上演。上演時間は、2時間25分(途中休憩あり)を予定。
【公式HP】http://emukichi-beat.com/home.html
(取材・文・撮影/エンタステージ編集部)