2018年5月26日(土)東京・あうるすぽっとにて、男優劇団スタジオライフ『アンナ・カレーニナ』が開幕した。本作はトルストイの全8部にわたる壮大な小説を原作とした舞台作品。脚本をイギリスで活躍する劇作家ジョー・クリフォードが手掛けている。このほど舞台写真とオフィシャルレポートが届いたので紹介しよう。
【あらすじ】
1870年代の帝政ロシア。政府高官カレーニンの妻であるアンナ・カレーニナは兄のスティーヴァに自分の浮気に怒り狂っている義理の姉ドリーをなだめるように頼まれ、モスクワを訪れる。はじめはドリーに対して夫 の不倫を大目に見るように助言するなど、貴族社会の中で「公の顔」を大事にしながら生きてきたアンナ。だが、若々しい青年将校のヴロンスキーと出会い、夫カレーニンとの愛のない生活に疲れたアンナはヴロンスキーと恋に落ちる。二人の恋は周囲の人たちの知るところとなり、厳しい視線にさらされ「これは、スキャンダルですわよ」と、囁かれる。アンナが「私の顔」に目覚めたとき、心の中のバランスは崩れていく・・・。
登場人物はアンナとヴロンスキーと夫のカレーニン、アンナの兄のスティーヴァとその妻ドリー、そしてドリーの妹のキティと恋人リョー ヴィンという3組のメインキャラクターに絞り込まれている。そして「私はコンスタンチン・リョーヴィン」というように、最初に自分の名前とその人物が背負った事情を名乗って登場するというような、日本の能を連想させるスタイルがとられている。
怜悧な筆致でときにユーモアを交えながら、果敢に傑作に向かい合った戯曲に、演出の倉田淳が挑戦。登場人物の関係性を鮮やかなステージングで見せながら、キャラクターの心情に焦点を当てる。ロシアの凍てつく大地と針葉樹を思わせる乘峯雅寛の美術も極めて効果的だ。
本作はИ(イー)チーム、C(エス)チームというダブルキャストでの上演。アンナの姿を情緒に溺れずに、リアルに描き出すことができるのは、男性が女性役を演じているからこそだろう。Cチームでアンナを演じていた曽世海司は物狂おしいほどの恋と揺れ動く心、愚かさと切なさを余すことなく演じて見せた。
ヴロンスキー役の笠原浩夫は、アンナが一目で恋に落ちるというのに説得力があり、カレーニンの船戸慎士は一見すると堅物だけれど、内面にある複雑な心情をにじませる好演。楢原秀佳のスティーヴァと石飛幸治のドリーは観客をほっとさせるユーモアを交えながら、リアリティある演技で役に生命の息吹を吹き込む。久保優二が演じるキティと山本芳樹が演じるリョーヴィンは恋の生命力にあふれて、アンナとヴロンスキーの関係とは対照的だ。
ダブルキャストのИチームではアンナを岩﨑大、キティを関戸博一、リョーヴィンを仲原裕之が演じる。古典作品に新たな光を当てた本作は、アンナの心の旅路を残酷なまでにクールに解き明かした。人生を生きるのに制約や束縛がつきものなのは、帝政ロシアの時代も今も変わらない。アンナの魂の彷徨は、現代社会に生きる私たちに新たな視点を与えてくれるだろう。
劇団スタジオライフ『アンナ・カレーニナ』は5月26日(土)から6月10日(日)まで東京・あうるすぽっとにて上演。
(文/大原薫、写真/オフィシャル提供)