2018年3月17日(土)に東京・よみうり大手町ホールにて、『東海道四谷怪談』が開幕した。本作は、2016年5月に上演された『絵本合法衢』に続く、砂岡事務所プロデュースの歌舞伎狂言シリーズ第2弾。前作に続き、脚本を加納幸和(花組芝居)、演出を丸尾丸一郎(劇団鹿殺し)が手掛け、四世鶴屋南北の怪談を、人間の業が絡み合う“群像劇”に仕上げた。
出演は、平野良、白又敦、桑野晃輔、北村健人、今川碧海、白瀬裕大、水貴智哉、田渕法明、土倉有貴、なだぎ武、植本純米(植本潤改メ)。出演者は、メインの役以外でも様々な役に扮し、女性役なども演じ分けている。
【あらすじ】
塩冶浪士の民谷伊右衛門は、同じ浪士で義父の四谷左門に娘・お岩との復縁を迫るが、伊右衛門の公金横領という過去を知る左門は復縁を許さない。一方、お岩の妹・お袖はわけ合って離れた夫・佐藤与茂七と、生活のために勤めた按摩宅悦の地獄宿で再会する。
しかし、お袖に横恋慕する直助は与茂七を、伊右衛門は左門をそれぞれ殺してしまう。親、そして夫まで殺した仇討の相手とも知らず、お岩は伊右衛門と復縁、お袖は直助と仮の夫婦となる。やがて子を成したお岩は、産後の肥立ちが悪く床に伏せってしまい、そんなお岩を次第に疎んじ始めた伊右衛門は・・・。
台詞は古典をなぞっているため、現代劇に慣れていると耳に馴染みがないかもしれないが、始まればぐっとその世界観に引き込まれる。「お岩さん」で有名な『東海道四谷怪談』。登場人物が多く、人間関係が複雑に絡み合っているため、元となっている四世鶴屋南北のものを知らない方は、あらすじを頭に入れ、『忠臣蔵』の出来事なども念頭に置いてから観ると良いかもしれない。
また、舞台上手には、しばしば「ツケ打ち」が登場し、「ツケ」(歌舞伎などで俳優の芝居に合わせ板に木を打ちつけ出される効果音)を打ち鳴らす。それに合わせ、俳優たちがだんまりや見得を切る姿は、このシリーズならではの味わいだ。
(以下、一部配役に触れています)
色男でありながら極悪人の伊右衛門役は、平野が演じる。平野が見せる伊右衛門の顔は、自らを縛るしがらみを切り捨てていく冷たさを持つ。ズルく立ち回り、陰惨な事件を次々と引き起こしていくのだが、その視線は妙な色気と冷気を漂わせていて、ぞくりとさせられ、その分、後半のお岩の幻影に追い詰められていく様に体温が感じられた。
因縁の相手となる直助と与茂七を演じるのは、桑野と白又。直助役の桑野は、第1弾の『絵本合法衢』で見せた”悪”の顔とはまた違った、人情と運命に翻弄される青年を、悪さを含みながらも明朗快活に見せてくれる。与茂七役の白又が見せる真っ直ぐさも、物語に男の筋を通す。二人の殺陣にも注目だ。
また、本作には自称アイドル「MeseMoa.」のあおいこと今川碧海、白服こと白瀬裕大、気まぐれプリンスこと水貴智哉も出演。中でも、今川と白瀬は女性役をとして新境地を切り開く。アイドルではなく、役者としても挑戦を続ける彼らのこれからが、ますます楽しみになった。
物語を大きく動かしていくお岩役の田渕は、お岩が陥る女の哀しさや情念を、儚くも美しく表現。このお岩がどう観る者の目に映るかで、この物語の受け取り方がかなり変わる印象を受けた。伊右衛門役の平野が醸した人間味と、田渕の見せたお岩像がはまり、”怪談”としての印象の強いこの物語を、しっかりと”人間”の物語として仕立てていたように思う。
そして、なたぎ、植本らが作る“緩”がスパイスとなり、時に笑いを生み、物語の陰影を深めていく。もう一つ、忘れてはならないのが、本作が洋装、和装の2バージョンで上演されるということ。脚本や配役はまったく同じ。視覚という要素の多くを占める衣装が違うことで、観る側にどのような作用をもたらすのか(取材したゲネプロは洋装バージョン)。
砂岡事務所プロデュース『東海道四谷怪談』は、3月25日(日)まで東京・よみうり大手町ホールにて上演。