2018年2月1日(木)に東京 座・高円寺1にてOFFICE SHIKA PRODUCE『おたまじゃくし』が開幕した。本作は、劇団鹿殺しの丸尾丸一郎が作・演出を務める最新作。鈴木裕樹と宮崎秋人をW主演に迎え、今やなくなりつつある「文化住宅」を舞台に、男三代の命の受け渡しを描いたタイムトリップ物語を描く。舞台写真と共に、公開ゲネプロの模様をレポートする。
(以下、物語の冒頭に触れています)
ヘヴィメタルを愛する小森憲一(鈴木)。生後1万年の赤ちゃんエアバンド「オギャーズ」を率いるが、バンドは鳴かず飛ばずで、日雇いバイトをする日々を送っていた。結婚10年目になる妻・彩子(鷺沼恵美子)は、そんな憲一にしっかりしてほしいとハッパをかけ、子どもが欲しいと訴えるが、憲一は煮え切らない態度ではぐらかす。
そんなある日、憲一の父・昭(衣笠友裕)がガンで亡くなったという知らせが入った。実家である文化住宅「栄荘」が取り壊されるということもあり、憲一は彩子を伴って、遺品整理に訪れる。憲一は、高校卒業と共に家を飛び出して以来、父とは疎遠だった。過去に、母である里美(有田杏子)を追い出した父が、どうしても許せなかったのだ。
複雑な思いが心中に去来する中、彩子が「今日、排卵日。子どもが出来やすい日」と言い出す。動揺し、今日は実家に泊まるという憲一に、彩子は怒って帰ってしまう。直面する問題からいつも背を向けてばかり・・・。
そこへ、突然現れた少年は、憲一を見て目を輝かせ、こう呼びかけた。
「お父さん」
アキノリと名乗る少年は、自分は憲一の“息子”であると言う―。
丸尾が放った球は、ド直球。今回、自身は出演せず脚本・演出に専念したことで、より一層描きたい世界が浮き彫りになったように感じた。
鈴木は、「精子無力症」という大きな悩みを抱え、うだつの上がらない38歳の憲一役がハマり役だった。憲一の持つ要素を並べるとどうしようもない男でしかないのだが、憎めないし、何故だかがんばれ!と尻を叩きたくなってしまう。
対して宮崎は、生きる意味を見いだせずにいる少年アキノリの内面を、細かく丁寧に紡いでいく。タイムスリップというファンタジーを内包しながら、前へと進むために心を動かす様を、宮崎持ち前の爽やかさとくるくる変わる表情で見せてくれる。
また、思った以上に“ライヴ”である。ライヴシーンでは、オレノグラフィティ(鹿殺し)の音楽センスが余すことなく感じられるし、メタルバンド「オギャーズ」のボーカル・憲一として歌う鈴木が、大きな目をこれでもかと開いて叫ぶ姿は想像以上にロックだった。
きっと、観る人の年齢や性別によっても、感じることは違うだろう。唯一共通しているのが、皆、誰かの子であるということ。その事実を実感し、脳裏に浮かぶ親の顔が愛おしくなる120分だった。ぜひ劇場で、生でしか成し得ない“受け渡し”を感じてほしい。
2017年度 日本劇作家協会プログラム 冬の劇場27 OFFICE SHIKA PRODUCE『おたまじゃくし』は、2018年2月1日(木)から2月12日(月・祝)まで東京・座・高円寺1にて、2月15日(木)から2月18日(日)まで大阪・ABCホールにて上演。
なお、下記の日程でアフタートークイベントも実施される。確実のイベントには、ゲスト出演も有り。
【東京公演】
2月2日(金)19:00公演 「B-1 グランプリ 杉並地区予選会」(終了)
出演:鈴木裕樹、宮崎秋人、丸尾丸一郎
ゲスト:松浦司
2月3日(土)19:00公演 「OFFICE SHIKA 解体新書」(終了)
出演:丸尾丸一郎、鷺沼恵美子
ゲスト:佐伯大地
2月9日(金)19:00公演「関西人いらっしゃい!」
出演:宮崎秋人、丸尾丸一郎
ゲスト:池田純矢
【大阪公演】
2月16日(金)19:00公演 「ABCおとん自慢チャンピオン大会」
出演:鈴木裕樹、宮崎秋人、三好大貴、田中亨
審査員:丸尾丸一郎
【公式HP】http://shika564.com/otama/
(取材・文・撮影/エンタステージ編集部)