百鬼オペラ『羅生門』が2017年9月8日(金)に東京・Bunkamura シアターコクーンにて開幕した。本作は、芥川龍之介の代表作「羅生門」に「藪の中」「蜘蛛の糸」「鼻」のエッセンスを加え、芥川自身の人生を絡ませながら描いた男と女の魂の物語。脚本をてがみ座の長田育恵、演出はミュージカル『100万回生きたねこ』で日本の演劇ファンに鮮烈なインパクトを与えた、イスラエルのアブシャロム・ポラックとインバル・ピントが手掛け、芥川龍之介の脳内を百鬼(妖怪)と巡る奇想天外なファンタジーに仕上げた。
仕事を失い、途方に暮れて朽ちた門楼で雨宿りをする下人が、女の死体から髪を抜く老婆に出くわす。下人は、死体の女に見覚えがあると気がついた。すると突然、女が目を開き・・・。
「羅生門」の下人には柄本佑、そして、下人が象徴する芥川に多大な影響を与える女性に満島ひかり、下人のかつての主人には吉沢亮を配す。また、劇中劇となる「藪の中」では、柄本が多襄丸、満島が真砂、吉沢が武弘を演じ、3人の因縁を決定的なものとしている。
柄本の決して舞台慣れしない真っ直ぐな芝居は瑞々しく、歌、ダンス、その一つ一つに真摯な姿勢で取り組んでいる様子が伝わってくる。満島は、ポラック&ピント演出作品への出演が2013年上演のミュージカル『100万回生きたねこ』以来2度目となる。表現の垣根を取り払った肉体表現が素晴らしく、目を見張るものがあった。また、吉沢が二幕で、広い劇場空間の中たった一人で感情を吐露する様は圧巻。満席の観客が、息を呑んで見入っているのが伝わってきた。
さらに、田口浩正、小松和重、銀粉蝶ら個性的な面々に、表現力豊かなダンサーたちが百鬼として舞台を彩る。心象風景を描くシーンでは、ポラック&ピントによる海外のクリエーターならではの感性がひかり、一つ一つの場面が絵画のよう。特に、死体の女が歌い出す場面で、髪の毛の妖怪と百鬼がダンスをする様は、ぞっとするほどの美しさがあった。
アコーディオンの音色と照明が作り出す夕焼けが交じり合う中、市井の人々が踊る場面など、随所に散りばめられたノスタルジックな気持ちを呼び起こす演出が、郷愁を誘う。また、美術と衣裳については、ピントが一人で担当したという。特に衣裳は、一点一点にペイントをほどこすなど、細部へのこだわりがみられた。
開幕にあたり、柄本、満島、吉沢よりコメントも届いている。
◆柄本佑
場当たりにほぼ4日費やし、ようやく開幕を迎えました。具体的にこれからやっていかなければならない課題がちゃんと出てきたように思います。千秋楽まで、日々精進だと思っています。ぜひ、インバル・ピント&アブシャロム・ポラックの世界を楽しんでください。
◆満島ひかり
インバルとアブシャロムの作るものが好きです。芥川龍之介さんの書いた世界に、たくさんの想像力や身体の力が新しい息吹を吹かせています。びゅんびゅん、そよそよ吹いています。現実のこんがらがった糸を解くように、舞台の上を楽しみたいです。
◆吉沢亮
ゲネプロが終わった瞬間に、緊張が解けて何故か胃が痛くなりました。
素敵な衣装を着て、美しい照明があたり、とても贅沢な空間の中で芝居をさせていただいているという実感がふつふつと湧いております。精一杯がんばります。ぜひお楽しみに。
(C)奥山由之
百鬼オペラ『羅生門』は、9月25日(月)まで東京・Bunkamura シアターコクーンにて上演。その後、兵庫、静岡、愛知を巡演する。日程の詳細は、以下のとおり。
【東京公演】9月8日(金)~9月25日(月) Bunkamura シアターコクーン
【兵庫公演】10月6日(金)~9月9日(月・祝) 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
【静岡公演】10月14日(土)・10月15日(日) 富士市文化会館 ロゼシアター 大ホール
【愛知公演】10月22日(日) 愛知県芸術劇場 大ホール
(取材・文/オフィシャル提供、撮影/渡部孝弘、編集/エンタステージ編集部)