2017年7月28日(金)から8月1日(火)まで、東京・紀伊國屋ホールにて『森奈津子芸術劇場 第1幕~パトス編~』として、『哀愁主人、情熱奴隷』『いなくなった猫の話』が二本立てで上演される。本作の公開ゲネプロが8月27日(木)、8月28日(金)に行われた。このうち27日の『いなくなった猫の話』の模様をお届けする。
本作の原作を書いた森は、自身がバイセクシュアルであることをカミングアウトし、セクシュアリティをテーマにした作品を数多く発表している事で知られる小説家。作風はコメディー・タッチのものからシリアスな恋愛&エロティック小説、SF、官能小説、ホラー、児童文学まで幅広い。その多岐にわたる彼女の作品の中から、喜劇と悲劇の両極に位置する『哀愁の女主人、情熱の女奴隷』と『いなくなった猫の話』を今回舞台化した。
普段から動物愛護、なかでも猫に対する愛情の深さで有名な杉本彩は、ついに猫にまつわる芝居と出会う。ごまかしのきかない生の舞台で、ほぼ一人芝居状態で言葉を紡ぐ杉本。怒り、苦悩、慟哭など、張り詰めた想いが続く中で、鈴木ハルニらの存在が、場の緊張感をいい具合にほぐす。
トータル45分。TVドラマ1話分ほどの短い作品だが、短い中にも数奇な物語がしっかり描かれており、最後まで一気に楽しめるものとなっていた。
ちなみに、もう1本の作品『哀愁主人、情熱奴隷』は、原作では登場人物が女3人となっていたものを、舞台では男3人に変えて上演される。
『Being at home with Claude~クロードと一緒に~』では殺人を犯した男娼の心の物語を、『Ye -夜-』では娼婦と男娼、その客の再生の物語を、といずれも興味深い作品を選んで上演してきたZu々プロデュース。今回の2作も、観るものの心を予想外の角度から揺り動かすに違いない。
なお、公演パンフレットはネタバレ多め。気になる方は終演後に読むことをお勧めする。一方で、『いなくなった猫の話』側の表紙を1ページめくると、そこには幼児期の「影郎」をイメージしたかわいいお子さんがいる。実はこの「影郎」くん、これまでの作品に出演した、とある方の息子さん。冊子のどこかにヒントがあるので、お時間あるときにぜひチェックを。
『森奈津子芸術劇場 第1幕~パトス編~』は、東京・紀伊國屋ホールにて、8月1日(火)まで上演される。
◆『いなくなった猫の話』あらすじ
物語の舞台は紅桜共和国第一宇宙空港近くの古いビル、一階のバー『微睡亭』。カウンター越しに物憂げに立つ店主の小夜に、常連客がその日の仕事の愚痴をぼやいている。酔いつぶれる直前で、常連客が帰った後、小夜は一人、炭酸水をチェイサーに、ジンを飲み始める。3杯目に差し掛かる頃、カランコロンとベルが鳴り、店の扉が開いた。
「悪いね、今日はもう、おしま…」と言いかけて言葉を飲み込んだ小夜。そこに立っていたのは、年老いた猫型ハイブリッド。見るなり、「影郎」を思い出したからだ。
記憶の引き出しがすうっと開いた小夜は、自分の過去、そして影郎との出会いを少しずつ、語りだす――。