日本舞踊協会の3年ぶりの新作上演となる、日本舞踊未来座『賽 SAI』が、6月15日(木)より東京・国立劇場 小劇場にて上演される。本公演の開幕に先がけ、日本舞踊をもっと身近に感じてもらうためのイベントが都内で開催された。第一線で活躍する舞踊家たちが日本舞踊の楽しさを伝えたこのイベントの模様を紹介しよう。
以下、オフィシャルレポートより掲載。
来月の公演をより楽しく鑑賞していただこうと、人形町の老舗「玉ひで」にて日本舞踊を体験するワークショップが開催されました。橘流三代目家元の橘芳慧先生、中村流八代目家元の中村梅彌先生、花柳流花柳界理事の花柳輔太郎先生と豪華な講師陣が勢ぞろい。歌舞伎を見るうちに日本舞踊をやってみたくなったなど初心者の方ばかりでしたが、着物や浴衣を着て実際に曲に合わせて踊り、日本舞踊の魅力を堪能することができました。
【第一限講座 美しい所作を!】
NHK大河ドラマをはじめ数々の作品で所作指導をしている橘芳慧先生に、日常生活でも実践できる美しい所作を教えていただきました。まずは「歩く」「お辞儀」という基本からスタート。背筋を伸ばしてまっすぐ歩く、相手を敬い丁寧にお辞儀するというのは、意外にも難しく苦戦の連続。先生は冗談を交えながら一人ひとり熱心に指導してくださり、最終的にはどの参加者も見違えるほど美しく立ち振る舞えるようになっていました。
◆橘流三代目家元 橘芳慧コメント
所作を身につけると立ち振る舞いが美しくなり、生活そのものまで変わってきます。講座で初めて所作に触れた方も多かったと思いますが、何か一つでも新しい気づきがあったら嬉しいです。人それぞれ顔も体も異なるように、同じ所作でも人によって違った表現になります。日本舞踊も同じ動きをしても舞踊家によりそれぞれの美しさがあり、本当に面白いものです。けれども、日本舞踊は自国の文化でいながら、今まで見たことがないという方がほとんど。一度見ればその素晴らしさにきっと魅了されるはずです。ぜひ多くの方に未来座を見ていただき、日本舞踊を知るきっかけになったらと願っています。
【第二限講座 日本舞踊を知ろう!】
歌舞伎や映画の所作指導や振付など幅広く活躍している中村梅彌先生に、日本舞踊の振りや動きをご指導いただきました。扇子の持ち方から始まり、桜が満ちている様子など一つずつ動きの意味を説明しながら踊りをレクチャー。最後には「さくらさくら」と「藤娘」の曲に合わせて全員で踊りました。全身を使って踊るのは想像以上に難しかったものの、日本舞踊を心と体で深く味わうことができました。
◆中村流八代目家元 中村梅彌コメント
皆さん大変だったかもしれませんが、意味を理解しながら踊ることで日本舞踊を身近に感じられたと思います。来月の新作公演は、より多くの方に日本舞踊に親しんでいただけるよう現代語の歌に合わせて踊ります。振付師も舞踊家も若手を起用して、若い世代の方にも楽しんでいただけるようにしました。私自身、つい最近できなかったある踊りが突然できるようになり、芸は積み重ねられていくのだと改めて痛感しました。日本舞踊も年月をかけて磨かれていくものです。古典を大事にしながら、今という時代に合った新たな日本舞踊に挑み、次の世代へとつないでいきたいです。
【第三限講座 実践!踊ってみる!】
舞踊家・振付師として活動する傍ら、東京藝術大学で学生の指導にあたる花柳輔太郎先生に、未来座の演目のひとつ『当世うき夜猫』の振付を教えていただきました。5cmずつ重心を下げて“腰を入れる”という基本の動きだけで汗だくに。日本舞踊がこれほどハードだったのかと終始驚きつつ、少しずつ区切って振付を練習。最後にはリズムカルな音楽に合わせてみんなで楽しく踊ることができ、会場には大きな拍手と笑顔が溢れました。
◆花柳流花柳界理事 花柳輔太郎コメント
『当世うき夜猫』は、全編に猫が登場するという珍しい設定です。猫の世界を人間社会になぞらえて、災害や移民問題など様々なことを問いかけていきます。今まで見たことのない斬新な作品なので、従来の日本舞踊ファンの方は拒絶反応を起こすかもしれません。むしろ初めてという方こそ、自然に楽しんでいただけると思います。たくさんの方に未来座を見ていただき、まずは日本舞踊を知るところから始めてみてほしいです。講座で皆さんと一緒に踊った振付は、何度か登場してくるので楽しみに見てみてください。
さらに、これらの講座の最後には、松本流三世家元・松本錦升(市川染五郎)が披露されました。
◆松本流三世家元 松本錦升コメント
日本舞踊は難しそうと先入観をもっている方がたくさんいます。でも、最近になってある歌の一節の意味が解明されたほど、実はわからないことだらけなんです。日本舞踊には踊りや演出はもちろん、音楽、美術、照明など様々な要素を含んでいます。例えば、書割という舞台の背景画が遠近法で描かれているなど、たくさんの発見があるはずです。ストーリーを追うより、ぜひ自分らしい楽しみ方を探してみてください。新作は、自分が見たいと思う面白いものしか作っていません。一人でも多くの方に未来座を見にきていただき、皆で息を合わせて踊る素晴らしさを肌で感じてもらえたらと思います。
第一回日本舞踊未来座『賽 SAI』は、6月15日(木)から6月18日(日)まで、東京・国立劇場 小劇場にて上演される。