2017年4月29日(土・祝)、東京・CBGKシブゲキ!!にて『実験落語neo~シブヤ炎上まつり~』が開催された。1970~80年代、渋谷のライブハウス「ジァン・ジァン」で開催されていた新作落語会『実験落語』を復活させる形で、中心人物の三遊亭円丈と、彼を慕う演者によって開催されてきた『実験落語neo』も、第5回となった。
今まで落語家、コメディアン、講談師・・・多種多様な錚々たる顔ぶれが参加してきたが、今回は、出演者は各自のネタではなく、三遊亭円丈の創作の名作を高座にかける「オール円丈噺」のスペシャルバージョンとなった。
林家彦いち
トップバッターは、「円丈師匠がいなかったら、三遊亭白鳥さんや柳家喬太郎さんも生まれていなかった。円丈師匠の噺は美しくはかない。虚と現実をつきつける」と“円丈愛”を隠さない、林家彦いちの『遥かなるたぬきうどん』。マッターホルンにうどんを出前に行く壮大な噺に、会場は笑いながらも展開に息をのんだ。
玉川太福&玉川みね子
次は、浪曲師・玉川太福が、曲師の玉川みね子とともに『悲しみは埼玉に向けて』を披露。円丈に「師匠のネタを忠実にやります」と伝えたところ「そのままやるのは嫌だ」と言われ、太福流のアレンジを加え、うたったとのこと。浪曲の物悲しい響きが、なんとも演目との絶妙な風合いを醸し出し、テンポのよさに会場は、笑いの渦と化した。
柳家さん喬
続いては、柳家さん喬の『稲葉さんの大冒険』。駅前で受け取ったポケットティッシュから不条理な状況に誘われるサラリーマンの噺だが、さん喬の本名は、この噺の登場人物と同じ「稲葉稔」。そもそもこの演目は、円丈が、30年以上前に渋谷「ジァン・ジァン」の『実験落語』にゲスト出演したさん喬の為に書き下ろした噺。さん喬と円丈は、円丈がまだ「ぬう生」と名乗っていた二つ目の頃からの仲である。さん喬は、前日に紫綬褒章受章が発表されたばかりだが、晴れの受章発表直後の高座で、自分と同じ名前のかわいそうなサラリーマンの噺をするこの落差が、何ともほほえましい。
桂雀々
次に登場した桂雀々が披露したのは『インドの落日』。上方落語の雀々の張りと艶のある声が、子を想う親、親を想う子の様をありありと立ち上らせ、胸を打つ。元々は三題噺から生まれた噺だが、破天荒でパンクな円丈落語ともまた一味違う、ずっしりとした味わいを持った円丈の多面的な魅力が垣間見える。雀々は自身の複雑な生い立ちを導入に語りながらネタに入ったが、おもしろおかしく語る母親との再会話も、人生の悲喜こもごもを思い起こさせ、ぐっと聴衆を惹き付けた。
三遊亭円丈
そして、満を持して、トリの三遊亭円丈が登場。ネタは『横松和平』。夫婦漫才師が、立松和平のようなレポーターになりたいと、寄席や寿司屋で練習する。本家(?)の方言が混じったTVレポートが記憶にある世代には何とも言えない、円丈の“和平”ぶりと、中継先のなんとも言えない世界観が笑え、会場も大きな笑いに包まれた。落語家生活53年を迎える円丈だが、この軽やかさが、何ともすてきだ。
円丈本人以外の演者が演ずることで、違う色が加わるおもしろさもふんだんにあり、
挑みがいのある円丈落語のおもしろさが詰まっていた。多くのリスペクトを集める円丈の、理知性とパンクが共存する世界が堪能できる、充実したスペシャル回となった。
次回の『実験落語neo』は7月上旬、東京・CBGKシブゲキ!!にて開催予定。
詳細、最新情報は、劇場HPで確認できる。
【劇場HP】http://cbgk.jp