2017年3月12日(日)まで東京・すみだパークスタジオ特設会場にて上演されている『SAFARING THE NIGHT / サファリング・ザ・ナイト』。本作は、舞台芸術集団地下空港が、ぴあ株式会社とタッグを組み、シェイクスピアの『夏の夜の夢』を下敷きに、人工知能と人間の未来についての異次元を表現する“移動参加型演劇”。脚本・演出は、地下空港主宰の伊藤靖朗が手掛ける。
オベロンゲートとタイタニアゲートという2種類の入口から迷い込み、観て、歩いて、参加する体験型エンターテインメントとなっている本作。20XX年の近未来、世界は対立する二つの巨大AI(人工知能)企業体・オベロンとタイタニアに支配されつつあった。そして二つのAIが、ついに歴史的統合を実現することに。その記念式典に参加する候補者たちが事前に集められるのだが、そこで事件が発生する・・・。
観客は、まずオベロン側かタイタニア側かどちらかをチケット購入時に選び、オベロンゲートはすみだパークスタジオ倉に、タイタニアゲートはSASAYAギャラリーに集合。入場時にはグループリーダーを選択。そのグループリーダーの案内により、会場を移動しながら、式典参加の候補者として会場内で起こる出来事を芝居として目撃していくことになる。さらに各会場では、式典参加するための身分評価プログラムをクリアしていくのだが、その際には、劇場入り口でもインストール可能なスマートフォン専用アプリ「SAFARING THE NIGHT」を使用。これらによって、物語を複数の視点から体験できる“移動参加型演劇”が実現している。
すべてが仮想現実の空間として構成されているという世界観の表現には、夜のすみだパークスタジオの倉庫群や、建物に投影される巨大なプロジェクションマッピングが用いられている。その雰囲気は、小説「ニューロマンサー」や、のちに『ブレードランナー』として映画化された小説「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」のような退廃的な未来感を醸し出しており、気分はまさにサイバーパンク。
主役のライサンダー役は、今回で3度目の地下空港作品の出演となる原嶋元久。そして、ハーミア役には出演者オーディションを勝ち抜きた18歳の山下聖菜を抜擢。また、地下空港がCoRich舞台芸術まつり!2016春にて準グランプリ&制作賞W受賞を受賞した音楽劇『赤い竜と土の旅人』にてリイ役を演じた逢沢凛がヘレナ役を、そして映画、ドラマなど、映像でも活躍中の庄野崎謙がディミトリアス役を務めている。
オベロン、タイタニアなどの用語や、登場人物の名称とその関係は『夏の夜の夢』をベースにしているため、複雑なSF設定を分かりやすく感じさせる構成になっている。さらに、劇中ではレクチャールームでの世界設定の説明や、分からないことがあればグループリーダーが質問に答えてくれるなど、SFが苦手な方でも楽しめる配慮もされているので安心だ。
上演時間は約2時間15分の途中休憩なし。また、上演中は着席ではなく、観客も各会場を移動しての観劇となる。スマートフォンがなくても参加可能だが、本作を存分に楽しむためには用意されることをオススメする。
気鋭の演出家・伊藤が届ける新時代の演劇体験。1回の観劇でも十分に本作を楽しむことができるが、リピートすることで色々な視点から物語をさらに楽しむことができるため、何度でも劇場に足を運んで体験してほしい。
移動参加型演劇『SAFARING THE NIGHT/サファリング・ザ・ナイト』は3月12日(日)まで東京・すみだパークスタジオ特設会場にて上演。
(取材・文/櫻井宏充)
(撮影/岡田雷平)