2017年3月2日(木)に東京・天王洲 銀河劇場にて開幕したミュージカル『アルジャーノンに花束を』。本作は、アメリカの作家ダニエル・キイスの同名小説を原作としたミュージカル。これまでに、2006年に初演(第31回菊田一夫演劇賞受賞)、2014年と上演を重ねてきた。キイスの生誕90周年にあたる本年は、主演の矢田悠祐をはじめ、キャストを一新。初日前に行われた囲み会見には、矢田と共に水夏希が登壇し、取材に応じた。
矢田は、これが自身初の主演作となる。主演を務めることについて、矢田は「初めての主演ということで、意識しないようにしていても、どうしても意識してしまって(笑)。ようやく初日を迎えますが、正直まだ想像がつかなくて、 終わった時“どう思うんだろう”という心境です」と率直な気持ちを語った。
再演ということについては「自分から変えようとしたわけではなかったのですが、キャストも新しくなっておりますし、(脚本・作詞・演出の)荻田浩一さんがそれぞれの個性に合わせた演出をしてくださったので、自然と違う形になったかなと」と印象を明かした。
そんな矢田の稽古場での様子について「出番も歌もたくさんあるのに、矢田さんはいつも和やかでした」と評した水。さらに「私も矢田くんと同じ歳の頃に初めて主演をさせていただいたんですが、(主演になると)急に出番も増えて、いつも誰かに呼ばれていて、稽古場で椅子に座る暇もないんですよ。 でも矢田くんは、昨日もヘロヘロだっただろうに、笑って帰っていかれました(笑)。本当に素晴らしいなと思って。 初主演を盛り立ててがんばっていかないと、と思っていたんですが、むしろ矢田くんに引っ張ってもらっています」と讃えた。
矢田の演じるチャーリー・ゴードンは、劇中で大きく変化を遂げていく。演じる上で苦労した点を問われると「チャーリーはすごいスピードで階段を登るように成長するので、最初はそれについていくのが大変でした。でも、荻田さんに『知能が高くなっていくというよりも、 子どもから老人になるまでを想像すれば分かりやすい』と言われて、理解しました」と振り返った。
最後に、水は「身につまされるたり、嬉しかったり、悲しかったり、励まされたり、誰もが体験したことのあるエピソードがつまっているので、その一つ一つの瞬間が、お客様の心を揺さぶると思います。そして、爽やかで優しい矢田くんをぜひ観に来てください」と呼びかけ、矢田は「長い間稽古し、色々なことを積み重ね、ようやく幕を開けることができました。素敵な作品に仕上がっているので、楽しみにしてください」と締めくくった。
32歳になっても、幼児並みの知能しかないパン屋の店員チャーリー・ゴードン。そんな彼に、夢のような話が舞い込んだ。大学の偉い先生が頭をよくしてくれるというのだ。この申し出にとびついた彼は、白ネズミのアルジャーノンを競争相手に、連日検査を受けることに。やがて、手術によりチャーリィの知能はみるみるうちに発達し、天才へと変貌したが・・・。
矢田が見せるチャーリーは、どこまでもピュアだ。「ぼくわかしこくなりたいです」彼の紡ぐ“ことば”の先には、夢があり、希望がある。手術を受け、夢や希望が直面する現実、知能の発達と精神の成長が釣り合わないアンバランスさ・・・。急速に変化を遂げていく中で訪れる葛藤などを、矢田は透明感のある歌声に“感情”を色づけながら聴かせる。矢田に気負った様子はないが、その歌声には、これまでに様々な作品で築き上げた確かな表現力を感じさせた。
キニアン先生を演じる水は、そんなチャーリーに常に寄り添う。先生として、女性として。彼女もまた、戸惑い、迷いや悩みを抱えながら、彼の行く末を見守っていく。研究室、パン屋などのチャーリーを取り巻く人々は、蒼乃夕妃、皆本麻帆、吉田萌美、小林遼介、和田泰右、戸井勝海が演じ分け、アルジャーノンはバレエダンサーとしても活躍する長澤風海がマイムで表現する。
SF的でありながら、リアルでな心に迫る人間ドラマとなっている本作。チャーリーの辿る運命は、とても切ない。切ないが、彼が何を求め、何を考え、何を望んだのか。美しい音楽と温もりあるストーリーが、観る者に胸いっぱいのかけがえのない感情をもたらしてくれるだろう。
ミュージカル『アルジャーノンに花束を』は、3月12日(日)まで東京・天王洲 銀河劇場にて上演。その後、3月16日(木)に兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホールにて公演を行う。
(取材・文・撮影/エンタステージ編集部)