2017年2月27日(月)に東京・帝国ホテルで開催された、第24回読売演劇大賞の授賞式。登壇の後半では、ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』(最優秀作品賞)に出演した中川晃教(最優秀男優賞)、演出の藤田俊太郎(優秀演出家賞)、そして、大賞・最優秀スタッフ賞を受賞した美術の堀尾幸男が、それぞれ喜びを語った。
※以下、登壇順。
◆最優秀男優賞 中川晃教
(ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』の演技)
最優秀男優賞を受賞したのは、ミュージカル俳優の中川晃教。満面の笑顔で登壇しつつ、しばし声を詰まらせた中川に、会場からは「アッキー!」と多数の声援が飛んだ。涙をぬぐい、語り始めた中川は「この『ジャージー・ボーイズ』というミュージカルと出会い、たくさんのことを経験し、今ここにいます。かなりかいつまんで言うと、今のような感じです(笑)」とジョークを交え会場を沸かせた。
続けて「18歳でシンガーソングライターとしてデビューし、翌年にミュージカル『モーツァルト!』で杉村春子賞をいただきました。あれから15年、ずっと大切にしてきていることがあります。それは、芝居のクオリティと同じセンスを、歌で表現できないだろうかということです。ミュージカルは、歌や芝居やダンスなど、他にも様々な手法や表現でお客様に感動を届けていきます。なんて素晴らしい仕事なんだろうと、一作一作向き合えば向き合うほどに強くなっていきました」とミュージカルへの愛を語り、これまで出会った人々に感謝の気持ちを述べた。
そして、天使の高音を持つフランキー・ヴァリという役について「あの役を手中に収めるためには、自分でも聞いたことのない自分の声が必要でした」と振り返り、「お客様に盛り上げていただき、私たちも負けじと盛り上げ、カンパニー全員でいただいた最優秀作品賞が、男優賞よりも嬉しいです!」と、皆で創り上げた喜びを高らかに述べると、会場には大きな拍手と歓声が響いた。最後に、2年8ヶ月一緒に過ごしてきた亡き祖母を思い「初日に観ていただけたら良かったな」と涙に揺れる声を絞り出し、力強い感謝とともに深々とお辞儀をすると、会場は大喝采に包まれた。
◆最優秀作品賞 藤田俊太郎
(ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』)
最優秀作品賞の『ジャージー・ボーイズ』を代表して、演出の藤田俊太郎が登壇。藤田は、まず「ミュージカルが初めて最優秀作品賞をいただきました。ありがとうございます!」と喜びの声を上げた。そして、『ジャージー・ボーイズ』の演出を受けた際、藤田の師匠であり、、2016年になくなった蜷川幸雄氏と交わした言葉を振り返り、「蜷川さんは、たくさんのことを話してくださいました。70年代以降、東宝との数々の仕事、商業演劇の演出、それによってご自分の劇団が解散したこと。そして『藤田、優秀な人たちと戦ってこい。戦って、戦って、もしボロボロになったら、また俺のところに帰ってくればいいから』と言ってくださいました。僕にはもう帰るところはないかもしれませんが・・・出会ったのは、日本のミュージカルを愛し、創ってきた、たくさんの人たちでした」と、新たな戦友たちと出会った喜びを語った。
そして「僕はこの作品で、演出は蜷川さんの魂を引き継ぎ、作品は世界演劇の最前線に立つミュージカルを創ろうと決意しました。・・・皆さんのおかげでけっこういい線いけたんじゃないかなと思っています」とニヤリ。「これから日本版『ジャージー・ボーイズ』は、再演、新しい出会いを重ね、テーマである“終わらない青春”の物語を描き続けていきたいと思います。そのことが、日本のミュージカルのさらなる発展の先駆けとなることを願っています」。最後に、千秋楽の朝に急逝したホーンセクションメンバーの名を呼び、涙をかみ殺したような声で喜びを報告した。
◆芸術栄誉賞 吉井澄雄(照明家)
芸術栄誉賞は、照明家の吉井澄雄が受賞した。1953年の劇団四季創立に参加した吉井は、その後、日生劇場の建設に参画。同劇場の技術部長などを経た後、演劇、オペラ、ミュージカル、舞踏など照明デザインの第一線で活躍してきた。
登壇した吉井は、「60数年、演劇の獣道を歩いてまいりました」と振り返り、演劇への扉を大きくあけてくれた方として、仏学者の諏訪正、俳優の水島弘、演出家の浅利慶太の名を挙げた。最後に「私の後ろに、今なお獣道を一生懸命歩いている後輩たちがたくさんおります。これからもこの獣道を歩いている、光を扱う職人たちに、芸術のため、どうぞ光を当ててくれるようお願いいたします」と後進の願いを込めた。
◆大賞・最優秀スタッフ、堀尾幸男
(NODA・MAP『逆鱗』、『遠野物語・奇ッ怪 其ノ参』 舞台美術)
大賞に輝いたのは、舞台美術課の堀尾幸男。3度目の最優秀スタッフ賞と共に同時受賞した。「大賞はもらったことなく、ちょっと信じられなかったので、何度も確認しました」と嬉しそうに語り、場を和ませた。続けて「私は三浦雄一郎さん(プロスキーヤー・登山家)に似ていて、シェルパこそが舞台美術家・スタッフなんだと思っているんです。登山家は目立つが、シェルパは写真出てこない。これはまさに舞台美術、あるいはスタッフだなと思いました」と、表に立つ者をサポートするシェルパに自身を例えた。また、『逆鱗』のスタッフである故・小川幾雄氏(照明)や、服部基(照明)、ひびのこずえ(衣装)らをはじめ、数十年共に演劇界を支えてきた盟友らの名を挙げた。
贈賞後の懇親会では、喜びを分かち合う声でもりあがる中、『ジャージー・ボーイズ』出演者たちがパフォーマンスを披露。Wキャスト総勢7名(中川のみシングルキャスト)バージョンの「Sherry」や、中川がソロで熱唱するパフォーマンスなどで、観客を『ジャージー・ボーイズ』の世界に引き込んだ。同賞作品賞をミュージカル作品が受賞したということで、音楽溢れる懇親会となった。
(取材・文・撮影/河野桃子)