「リッヅィー、あなたが殺したの?」スタジオライフ『BLOOD RELATIONS~血のつながり~』公演レポート

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スタジオライフThe Other Life Vol.9『BLOOD RELATIONS~血のつながり~』が、2016年10月2日(日)まで東京・新宿シアターモリエールにて上演されている。劇団スタジオライフといえば、『トーマの心臓』『アドルフに告ぐ』『夏の夜の夢』など文学的ロマンあふれる舞台で人気の劇団だが、今回の作品は通常行われている本公演とは趣を異にし、海外で生まれた秀逸な戯曲を東京の小劇場で上演する「The Other Life」シリーズの一つ。いわば、スタジオライフのB-SIDEだ。

『BLOOD RELATIONS~血のつながり~』公開ゲネプロ_2

登場人物の数も本公演よりはぐっとコンパクトに、今作の場合は7人。家族という密閉された箱の中でドロドロと渦巻く愛憎の物語を、ミニマムなキャストで濃密に見せる。『Blood Relations』はカナダ発の戯曲。19世紀の末にアメリカで起きた凄惨な殺人事件、リッヅィー・ボーデン事件をモチーフに、その容疑者でありながら無罪を勝ち取ったリッヅィーのその後をサスペンスフルに描く。

『BLOOD RELATIONS~血のつながり~』公開ゲネプロ_9

同戯曲については、これまで日本でもいくつかの劇団が手掛けてきたが、女性を中心に展開されるこのストーリーを、すべて男優のみで演じるのは、スタジオライフならでは。女たちが内に秘めた嘘と真実、欲望、葛藤、絶望までを、男優たちがどのように体現するかが見ものだ。

『BLOOD RELATIONS~血のつながり~』公開ゲネプロ_3

物語はリッヅィー・ボーデン(青木隆敏)とその友人のとある女優(松本慎也)による、事件の回顧から始まる。親友同士でありながらピリついた空気の中で牽制し合い、しかも何やらただならぬエロティックな関係性を醸し出す二人の女の佇まい。リッヅィー役の青木から時折こぼれ出る、静かにドスの利いた地声がいい。
「リッヅィー、あなたが殺したの?」
あの日この家で一体何があったのか――。紡がれる無駄のない台詞たちは、客席全体を「一言も聞き漏らすまい」という緊張で包んでゆく。

『BLOOD RELATIONS~血のつながり~』公開ゲネプロ_6

二人の会話劇にいざなわれ、舞台はいつしか事件数日前のボーデン邸へと移る。女優がリッヅィー役に、リッヅィー本人がメイドの役に扮し、事件のあらましを再現していく劇中劇。いかにも舞台戯曲らしい巧みな構成によって、小さな舞台空間はどんどん奥行きを増していく。そして明かされる事件の核心。冒頭のシーンでは、リッヅィーをやや翻弄していたかに見えた女優が、物語が進むにつれ彼女の心の闇へと引きずり込まれていく。松本の演技のグラデーションにも注目だ。

癇癪持ちで、利己的な理由から家族に殺意を抱くリッヅィーというダークヒロインであるにも拘わらず、観劇していると、作者・演出家ともにある種の敬意と共感を持って彼女に引き寄せられていることがよく分かる。きっとそこに本作の不気味なパワーがある。

『BLOOD RELATIONS~血のつながり~』公開ゲネプロ_5

しかし、それを許さないかのようなリッヅィーの姉・エンマ(大村浩司)や義母・アビゲイル(石飛幸治)といったベテラン勢演じる役柄のエレガンスさがまた素晴らしい。二人ともリッヅィーから見れば嫌な女だが、役者の魅力も相まって、彼女らの気持ちのほうに寄り添いたくなる観客も多いのではないか。登場人物の誰に親しみを覚えるかによって、観客に残されるインパクトは全く別の色合いになるだろう。多くの優れた戯曲がそうであるように、観終えたあと、感想を交わし合う甲斐のある一本だ。

『BLOOD RELATIONS~血のつながり~』公開ゲネプロ_7

そうしたことを思うとき、これを「The Other Life」として小劇場で上演した意味がよく分かる気がした。暗くて恐ろしいストーリーではあるが、役者の体温が伝わってくるほどの緊迫空間の中で駆け抜ける2時間を、ぜひじっくりと味わってみてほしい。

『BLOOD RELATIONS~血のつながり~』公開ゲネプロ_8

スタジオライフThe Other Life Vol.9『BLOOD RELATIONS~血のつながり~』は、10月2日(日)まで東京・新宿シアターモリエールにて上演。なお、上演はWキャストで行われる。詳細は、公式ホームページにてご確認を。

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