8月に休館を控えた渋谷・パルコ劇場が贈る『メルシー!おもてなし〜志の輔らくごMIX〜』が、2016年6月4日(土)幕を開けた。本作では、2000年から立川志の輔が発表してきた新作落語4本のエピソードを混ぜ合わせ、演出家G2が一本の演劇にした。『ダブリンの鐘つきカビ人間』など、笑いを散りばめる演出を得意とするG2と落語の相性はバッチリ。登場人物たちが右往左往するほど、客席が大笑いする・・・そのゲネプロの様子をお届けしよう。
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舞台は、ある商店街。その商店街会長のもとに、外務省を名乗る男から一本の電話がかかってくる。「そちらの商店街を、フランス特使の奥様とお嬢様が見学されたいのですが・・・」。突然の申し出に、活気を失っていた商店街は上へ下への大騒ぎ!これを機になんとか商店街を盛り上げようと、いろいろ趣向を凝らし始めるのだが・・・。
落語では、たった一人がすべての登場人物を演じわける。今回はそれを12人の役者で演じるのだから、舞台上は大にぎ賑わい。落語では台詞をしゃべっていない登場人物がどんな顔をしているのかわからないが、演劇では舞台上に本人が存在している。また、場面が変わるごとに舞台セットが変わる仕掛けも落語にはない。勝村が事前の会見で「演劇が落語にどう立ち向かえるのか」と述べていたが、目の前で人が生きているという演劇ならではの空間がそこにある。寂れた商店街の人々が、突然の大物フランス人訪問に「どうしよう?!」と右往左往する滑稽な様子を眺めていると、自分もその商店街に住んでいる気がしてきて、一緒に「どうするよ?!」と焦ってしまう。
商店街の面々とは対照的に、外務省の人間を演じる音尾琢真がいい味を出している。庶民的な人々の善意と、お役所の重大任務の板挟みになり、自分の出世のことも考えつつ、商店街の人達とは違った意味で右往左往しはじめる。
物語が進むごとに、それぞれのアイデアと行き違い、善意が入り乱れる。滑稽に滑稽が重なり、客席でも「なんとか頑張ってほしい!」という応援の気持ちと、「なんでそうなるんだよ?!」という可笑しみとで、笑いながら泣いてしまうという、こちらの心も右往左往状態になる。
会見では、夫婦役を演じる中井とYOUはお互いのことを「YOUさんには女の気遣いがある。本当に惚れるだろうなと思います。一ヶ月(夫婦役を演じられて)幸せです」「中井さんは貴公子調なイメージがあるけれどバンカラで、今までとは違う魅力が見える」と褒め合う。YOUと同世代の勝村は中井の“YOU褒め”に対し、「それだけでは生活はなりたたな・・・」と言い終わらないうちにYOUからバシっ!とツッコミを食らっており、和気あいあいとした仲のいい商店街の雰囲気そのままだった。
上演中も客席から笑いの絶えなかった2時間だったが、中井は「シリアスではないけど、喜劇を演じているつもりはない。商店街で起こることに必死に対応していく」と役の視点で答える。勝村は「市井の人間の営みが喜劇的にうつると成功」と言葉を添えた。
また、笑いの本場・大阪での公演について中井は「大阪でコメディをやるのは緊張します。心配だけど、あったかい時間を持って帰ってもらえるよう努めます」と意気込みを語った。
『メルシー!おもてなし〜志の輔らくごMIX〜』は、2016年6月4日(土)から6月26日(日)まで東京・パルコ劇場にて、6月28日(火)から6月30日(木)まで大阪・メルパルクホール大阪にて上演される。落語が“演劇”という立体になる2時間。その世界に飛び込んで、全力で登場人物と一緒に右往左往する時間を楽しんでほしい。
(取材・文/河野桃子)