016年4月9日(土)に山形公演を皮切りに幕を開けた、ミュージカル『わがまま』。渡辺えりが新作を書き下ろし、舞台、映画、テレビドラマと縦横無尽に活躍する戸田恵子と二人だけで演じきる。近藤達朗のオリジナルの楽曲、生演奏に合わせ、還暦前の女優二人が年相応の悩みを憂い、歌って踊る本作は、山形、兵庫、福岡、鹿児島公演を経て、4月20日(水)より世田谷パブリックシアターで上演。初日前日の19日(火)には、公開舞台稽古と囲み取材が行われた。
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物語の舞台は、とある劇場のステージと奈落の中間にある楽屋。二人の役は共に大部屋の女優で、若手演出家によるミュージカル『セルフィッシュ(“わがまま”の意)』にアンサンブル役で出演しながら、本番中の楽屋にて中年女性としてのリアルなグチを語り合う。
公開稽古直前の囲み取材で、渡辺は本作の概要を聞かれ「この舞台は、俳優が本番中に立ち止まっていろいろなことを考えるという芝居」と語った通り、両親の介護、老後の不安、飼ってた犬や親友の死など、苦労や痛みを抱えた俳優が戸惑いながらも、前向きに生きていこうと決断する等身大の姿が描かれている。
一見、シリアスなテーマを扱っているように思えるが、そこは流石の渡辺作品。戸田との軽快なやり取りにはニヒルなギャグが満載で、陽気な音楽に合わせて唄う自虐的な歌詞がなんとも面白い。
本作の見どころは、目まぐるしく展開する場面転換だ。戸田は囲み取材で見どころを聞かれ「舞台上でお化粧を直したり、着ぐるみを着たりと・・・渡辺えりさんが出られているシーンはすべて見どころです」と明かしていたが、七変化とも思えるような戸田と渡辺の華麗なる衣装チェンジや、それに合わせて演じ分けられるキャラクターは変幻自在。
同時に展開するステージは、漫才劇場から果てはヒマラヤ山脈までと観客の想像を遥かに超えて、遠くの世界へ連れて行かれる。渡辺えり、二人の大物女優のこれまでのキャリアをすべて詰め込んでひっくり返したような、演技力や陽気さ、年相応の哀愁がスパークする痛快な舞台であった。
また、福岡の公演中に熊本地震にあった二人は、囲み取材の中で被災地へエールを送ると共に、本公演で販売されるトートバック(渡辺が還暦記念にデザインしたもの)の売上を全額熊本に寄付することを明かした。
苦労や痛みを抱えながらも、俳優はステージの上で生きていかなくてはならない。等身大で語られる本作は、笑いと共に観客の心を勇気づける傑作ミュージカルだ。
ミュージカル『わがまま』東京公演は、2016年4月20日(水)から4月25日(月)まで、世田谷パブリックシアターにて上演。その後、北海道、福井で公演が行われる。日程は、下記のとおり。
4月20日(水)~4月25日(月) 東京・世田谷パブリックシアター
4月27日(水) 北海道・ニトリ文化ホール
4月28日(木) 北海道・幕別町百年記念ホール大ホール
5月1日(日) 福井・越前市いまだて芸術館