新演出で魅せる!劇団四季『ウェストサイド物語』観劇レポート!

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(撮影:下坂敦俊)

2016年2月14日(日)に四季劇場[秋]で開幕した劇団四季のミュージカル『ウェストサイド物語』。1974年に浅利慶太氏の演出により上演されて以来、四季のレパートリー作品として多くの観客に愛されるミュージカルの金字塔だ。今回は劇団との関係も深いジョーイ・マクニーリー氏を演出に迎え、新演出版を初上演。開幕から一か月半を経て、ますます熱く深化する舞台の模様をレポートしたいと思う。

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劇団四季『ウェストサイド物語』観劇レポート_2

(撮影:下坂敦俊)

ニューヨークの片隅で暮らす若者たち。街では欧州系移民・ジェット団のメンバーと、プエルトリコから海を渡って来たシャーク団のメンバーとが毎日小競り合いを続けている。荒れるばかりの状況を見かねた大人たちは、二つの集団を仲良くさせようと体育館でのダンスパーティーを開催するのだが、彼らの感情のぶつかり合いは止まらない。そんな中、ジェット団のリーダー・リフの親友で、今はドラッグストアで真面目に働くトニーと、シャーク団のリーダー・ベルナルドの妹、マリアが運命の恋に落ちる。街のはずれのハイウェイの下で決闘するジェットとシャーク…それを止めようと現場に駆けつけるトニー。しかし最悪の事態が起き、若者たちの運命は大きく狂い始める…。

劇団四季『ウェストサイド物語』観劇レポート_3

(撮影:下坂敦俊)

今回の新演出でまず感じたのがテンポの良さとスピード感だ。場面転換のスムーズさ等もあり、全体的にソリッドな印象になっている。さらに特筆したいのが登場人物のエモーショナルな表現。今回、演出のマクニーリー氏が特にこだわったのもその点で、若者と大人たちがどんな感情を抱えて生きているのかが全編において非常にビビッドに伝わってきた。

例えば、同じ不良でも欧州系移民のジェット団と、彼らの半分の賃金で働かされるプエルトリコ出身のシャーク団とでは目のギラつき=日々抱える怒りの強さに差があるし、彼らを抑えようとする警察の人間も幸福な人生を歩んでおらず、ネガティブな感情を特にシャークの若者たちに向けているのが良く分かる。そんな“負”のエネルギーが満ちている環境だからこそ、ピュアな気持ちでただ互いを愛するトニーとマリアの恋がとても純粋に美しく見えるのだ。

劇団四季『ウェストサイド物語』観劇レポート_4

(撮影:上原タカシ)

とは言え、新演出でのマリアはただ可憐なヒロインという位置付けではなく、愛する人を守る為に、魂を燃やす芯の強さを誰よりも秘めているという造形。山本紗衣の美しく、そして伸びやかに響くソプラノと、ラストの感情を振り絞っての演技に心打たれた。今回、客演として四季の舞台に初めて立つ小野田龍之介は、安定感のある歌声と素直な芝居でトニーの心の変化を繊細に魅せていく。

シャーク団のリーダー・ベルナルドを演じる萩原隆匡は『アラジン』ジーニー役とは全く違った一面を存分に発揮。憧れていたアメリカの生活で現実を目の当たりにした苦悩や不満、リーダーとして仲間や家族を引っ張って行くという責任感…さまざまな感情が体全体から立ち昇ってくる演技に新しいベルナルド像を見た。ジェット団のリーダー・リフを演じる松島勇気は、仲間の前で見せる顔と、親友であるトニーの前で見せる佇まいを上手くチェンジしながら、長くこの役を演じる俳優として作品全体をきっちり締めており、アニタ役の岡村美南の華やかでキレのあるダンス、揺れる心の表現もストレートに胸に響く。

劇団四季『ウェストサイド物語』観劇レポート_5

(撮影:上原タカシ)

80年代から四季の『ウェストサイド物語』を観てきた一人の観客として、今回の新演出でキャラクターの感情の方向がより明確になった分“憎しみの連鎖からは何も生まれない”という作品のテーマの一つが更に強く表出したように感じた。若者たちが白い衣装をまとい、憎しみや苦しみのない世界で踊る「サムホエア」の場面があそこまで刺さったのは今回が初めてかもしれない。

1970年代から上演されているミュージカルでありながら、現代の私たちの心に不変のメッセージと人間ドラマを突きつけてくる新演出の『ウェストサイド物語』。未見の方はもちろん、すでにこの作品と出会っている方にもこの“新たな衝撃”を体感して欲しい。

(※文中のキャスト名は筆者観劇時のもの)

劇団四季『ウェストサイド物語』は5月8日(日)まで四季劇場[秋]にて上演中。
[秋]での公演終了後は6月25日(土)より全国公演スタート。

(取材・文 上村由紀子)

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