2015年10月4日(日)に、東京・帝国劇場にてミュージカル『ラ・マンチャの男』が幕を開けた。本作はスペインの国民文学である『ドン・キホーテ』を原作に、デール・ワッサーマンがミュージカル化した作品で、ブロードウェイでは1965年に初上演。日本では1969年から46年間、松本幸四郎主演で繰り返し上演されており、9月に行われた大阪公演・長野公演を経て上演回数は1,235回を記録している。
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帝国劇場での開幕を前に同日行われた囲みインタビューには松本に加え、霧矢大夢、駒田一が応じた。帝国劇場での初日を迎えるにあたり、松本は「初日は何十回迎えても興奮して緊張します」と話す。1,236回目の幕開けを迎えることについては「回数より、何回最高の舞台があったかということをいつも考えています。そんなことを考えているうちに1,200回以上になっちゃった」と笑った。
新キャストとして迎えたアルドンザ役・霧矢については「彼女の歌を聴いた時に、“彼女はカルメンだな”と思ったんです。ハバネロのようなカルメン。宝塚出身で男役のトップスターを務めてきた方が女性をやると、こういう魅力が出るんですね」と絶賛。霧矢が「(松本との共演は)夢みたいだなって思っています」と述べると、松本からは「それはいい意味でなの?」とお茶目なツッコミが。「そうです!時々役柄としてではなく観客として感動してしまうことがあるので…それではダメだと日々闘いです」と恐縮しきりな霧矢に、松本は優しい微笑みを向けていた。
一方、1995年に初めて出演して以来、20年間にわたり松本と共演し続けてきたが「今だに緊張する」というサンチョ役・駒田。すると、再び松本は「それはいい意味?」と問いかけ。「もちろんですよ!昔は触れることすら出来なかった(笑)今はもちろん触れられますし、言えなかったことが年々言えるようになったかなと」と笑い合う二人の姿からは、積み重ねてきた絆が滲み出る。
26歳から演じ続けている松本自身の役セルバンテス/ドン・キホーテについては、「ドン・キホーテの歳にだんだん近づいていてね。ひとつひとつの歌や踊りの中に、今までの人生経験みたいなものが垣間見える感じがします」と語る。前回の上演から3年を経て、松本は現在73歳。これは『屋根の上のバイオリン弾き』で帝国劇場座長を72歳で務めた森繁久彌を上回る記録となる。これには本人も「笑うしかない」と驚いた様子。森繁との思い出についてモノマネを交えながら語り、懐かしんだ。
「歌舞伎の役者の癖か、古いものとか過去とかあまりピンとこないんですよ。今、この時がすべて。(いつまで続けるかは)神のみぞ知る。役者というのは、苦しみを勇気に、悲しみを希望に変えるのが仕事だと思うんですね。それが出来なくなった時がおしまいの時。そういう日がいつかは来ると思うんですけど。でもいい共演者に恵まれて、またラ・マンチャの火が灯るわけですから、そんなこと言っていられない。がんばります」という松本の言葉には、力強い熱がこもっていた。
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最後に「この『ラ・マンチャの男』というお芝居は、役者だから、女優だから演じなければいけないというお芝居じゃないんです。人間だからどうしてもお客様にお見せしたいお芝居なんです。本当のあるべき姿ってなんなんだろうと、どうかご覧になって考えてみてください。お待ちしています」と松本が呼びかけ、和やかなムードの中インタビューは終了した。
初日には、ワッサーマンの夫人も観劇に訪れるという。作品とともにあるべき姿を求め、歩み続けてきた松本。彼の生き様そのものにも思える“見果てぬ夢”は、新たな仲間を得てまだまだ続く。ミュージカル『ラ・マンチャの男』は、2015年10月4日(日)から10月27日(火)まで東京・帝国劇場にて上演される。