映像やダンスなどを奔放にコラージュした、ラジカルかつノスタルジックな世界で、小劇場界ではカルト的な人気を集めている「少年王者舘」主宰の天野天街。外部演出を手がける機会も多いが、中でも異色なのが、熊本県で活動する役者たちのユニット「雨傘屋」とのコラボだ。天野は4年前から毎公演演出家として招かれていて、小規模ながらも刺激的な作品を作り続けている。今年は5月1日(金)~4日(月)に上演される、第6回公演『すなあそび』について、天野に直接話を聞いた。
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「なぜ熊本? とよく聞かれますが、自分がからめ取られているパターンから離れて、普段あまりやらないことができるのが大きい。自由度の高い役者たちと集まって、風通しのいい環境で作れるのも嬉しいです。いつもはそれぞれの場所で、バラバラなことをやっている人たちを統合して、何か別のモノにちょっと置き換えることができるのも、好きなところかもしれません」
第5回公演『禿の女歌手』(作:E・イヨネスコ)
平田オリザ作の会話劇から海外の名作まで、古今東西の様々な戯曲を、何かの課題のように天野にぶつけてくるのも雨傘屋の特徴だ。今回の『すなあそび』は、日本の不条理演劇を代表する劇作家・別役実の戯曲。海辺の砂山に様々な人が集まり、その山の中に埋まっている物をめぐって、何ともおかしなやりとりを展開していく。
第3回公演『フリータイム』(作:岡田利規)
「最初に読んだ時、陽の光はあるけど影は見えない、風はあるけど匂いは感じられないという、何かが欠落したような風景が見えました。印画紙にネガ状態で焼き付けられた静止画のように、何も動いてないという。その“始まりも終わりもない”というのに近いかもしれない感覚を、舞台でも出すことができたらなあと思います」
昨年の『禿の女歌手』では、日本人の言語感覚にかなうよう戯曲を大幅に改訂したが、今回は「まずは一言一句変えずに稽古する」という、真逆のアプローチを予定しているそう。
第5回公演『禿の女歌手』(作:E・イヨネスコ)
「出演者が(戯曲の指定より)二人多いんですね。いつもならそれに合わせて最初から書き換えますが、今回はいったん原作を変えずに演じてもらって、そこから自分なりの絵を幻視して、この二人をどう侵入させるかを考えてみます。さらに、いわゆる“演劇の時間”の中に劇場の外の空気を混ぜるような、ある種のメタ性を取り入れてみようかなと。不条理演劇というより、条理が無い演劇…“無条理演劇”にできればと思っています」
第4回公演『わが星』(作:柴幸男)
天野天街を知らない人は「こんな演劇のやり方があったのか!」と驚き、知ってる人は「天野さん、こんなこともできるのか!」とやはり驚くことになる雨傘屋の舞台。遠出には好都合なGW期間中の公演なので、ここは熊本旅行も兼ねて、唯一無二の“無条理の世界”を訪ねてみてはいかがだろう。