12月1日(月)より、舞台『鼬(いたち)』が、東京・世田谷パブリックシアターにて上演される。劇作家・小説家である真船豊の出世作であり、東北を舞台に肉親の骨肉の争いを赤裸々に抉り出した昭和初期の快作を、主演の鈴木京香と、峯村リエ、山本龍二、佐藤直子、塚本幸男ら芝居巧者たちが、物語さながらに火花を散らすパワフルな舞台である。この舞台の初日に先立ち、11月30日(日)に通し稽古が世田谷パブリックシアターにて行われ、演出の長塚圭史、そして鈴木京香、白石加代子、高橋克実からコメントが寄せられた。
演出:長塚圭史
真船豊は初めて出会った作家です。一読して、「生き抜くためには手段を選ばず」のようなところが、以前手がけたマーティン・マクドナー(『ウィー・トーマス』『ピローマン』ほか)にもつながるところがあって興味深く感じました。三好十郎にしてもそうですが、この戯曲の一語一語から、昭和初期の作家たちが死にもの狂いで言葉と向き合ってきた執念のようなものを感じます。だから、本で読んでいた以上に舞台に立ちあがってからの方が面白いと稽古に入って強く思いました。今回、戯曲をたどるのではなく、作品がもつエネルギーを抽出していくような向き合い方で演出しています。
鈴木京香
肉体的には大変でしたが、憧れの白石加代子さんや舞台の先輩たちとご一緒できるのが嬉しくて、稽古も楽しく充実していました。でも、白石さんの圧倒的な存在感の前では、敵対する役柄としてしっかり向き合わなければ、という緊張感は強くなります。「おとり」は狡猾でひどい人間ですが、死にもの狂いで生きてきた凄みがある。でも、感情をむき出しにして悪態ばかりついているのに、小気味よさや爽快感があるのが不思議です。これが方言の面白さなのかもしれません。方言のほうがストレートに感情を乗せられる気がします。今、普段の生活でも「おとりさん」がときどき顔を出すんです。急に方言になったり、目つきも悪くなってます(笑)。
白石加代子
「おかじさん」の心には、これまでの苦しみや恨み、家への固執が渦巻いていて、その毒をものすごい言葉の羅列で吐き出すんです。とても激しい悪態なんですが、作家さんが書かれた台詞が非常に魅力的なのが救いです。長塚演出はこれが3作目です。いつも穏やかで楽しい方ですが、稽古場での彼はものすごい集中力と持久力の持ち主。じっくりと役者を見て何があっても揺るがず、辛抱強く待ってくれる。そして、スバッと本質を突いて厳しいことも言ってくださる。そんな稽古を通して、細やかで丁寧に創り上げることができました。
高橋克実
初めて台本をいただいたときは「鼬」って字が読めませんでした。イタチ、見たことないですし、思わず図鑑で調べました(笑)。この「鼬」に象徴されているのが人間のズルさや浅ましさで、本当にどうしようもない人間たちが罵詈雑言の限りを浴びせあうんです。でも、「鼬」の文字から受ける陰湿な印象は舞台では大きく変わって、どこか痛快さがありますね。僕が演じる萬三郎は、その場しのぎのズルい人間だけど憎めないヤツ。だからタチが悪い(笑)。そんな人間の愚かしさや可笑しみが、突き抜けた笑いにつながるくらいまで、振り切った芝居できたら面白くなるのではないかと思っています。
舞台『鼬(いたち)』は、12月1日(月)~ 12月28日(日)、東京・世田谷パブリックシアターにて上演される。 全ステージ開演1時間前より当日券の販売あり。
Photo:(c)加藤孝