9月20日(土)よりパルコ劇場で上演される『イット・ランズ・イン・ザ・ファミリー ~パパと呼ばないで』は、三谷幸喜が影響を受けた人物としても知られる喜劇作家、レイ・クーニーの傑作戯曲。医師・デーヴィッドのもとに突然現れたかつての愛人。実は彼女とデーヴィッドとの間にできた息子がいる、しかも今、病院に来ていると聞かされてさあ大変! てんやわんやの騒動が始まって…というストーリー。
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お互い、意外な役を演じています
インタビューにご登場いただいたのは“愛人”ジェーン役のはしのえみさんと、“本妻”ローズマリー役の瀬戸カトリーヌさん。役柄は対立しているものの、お二人は撮影時からずーっと仲良く話し続けていて…。
瀬戸「私たち、舞台での共演は初めてなんですね。NHKの情報番組で以前ご一緒したくらいで」
はしの「そうなんです」
瀬戸「でもお話してたら、家が近所だということが判明して」
はしの「しかも昨日、行きつけのマッサージ店で一緒になったんです!偶然ですよ!?隣の部屋にいて(笑)」
瀬戸「犬も飼ってるし、今稽古場で席も隣だという(笑)」
――それもすごい話ですね(笑)でもお二人は、舞台上だと本妻と愛人、という立場ですよね。
はしの「最初オファーを頂いたとき、なんで私なんだろう?って思ったんです。愛人の役って、こなさそうじゃないですか?どちらかというと本妻タイプかなと思ったので(笑)。だから意外でした」
瀬戸「私も、これまではどちらかというとかき乱す役やアクの強い役が多かったんですね。でも今回は上流階級のマダム役で。新鮮で、意外でした。お互い意外な役をやってる気がしますね」
――キャストもいろいろな分野で活躍されている方が揃いましたね。
瀬戸「10年前にも今回の演出をされている山田和也さんの演出で上演されているんですけど、『キャストが変わると違いますか?』と聞いたら『新しい発見も多いし、すごく新鮮』とおっしゃられて。だからすごくいいメンバーが揃ったんじゃないかな、と思ってます。空気感もすごくいいですよね」
はしの「みんな大人な感じですよね」
瀬戸「デーヴィッド役の錦織一清さんの人柄もあるんじゃないかと思います。いつもにこやかに良く喋ってくださって、笑いの絶えない現場になってます」
はしの「錦織さん、休憩明けの『じゃあ、稽古を再開しましょう』の声に誰よりも早く反応しますしね!誰よりもすっごい喋って動いて、疲れてるはずなのに。『稽古を再か…』くらいでもう立ち上がってますから(笑)」
瀬戸「『家に帰ってまで台詞を覚えない』っておっしゃってましたけど、私、絶対嘘だと思ってるんですよ。だってあの台詞の量なのに、数日で台本持たずに稽古されたんですよ!?」
はしの「私も不思議で『どうやってるんですか?』って休憩中に一度聞いてみたんですけど『家に帰ってまで台本を開きたくないから、この場で覚える』って…でも絶対やってますよね!?」
瀬戸「私もそう思います(笑)。でも昨日も一人、一番最後まで残って稽古されていて。誰よりも演劇が好きな目をされてますよね。まさに“少年”のような目!(笑)」
はしの「それでいて、自分以外の役のこともすごく見てらっしゃるんですよね」
瀬戸「私たちが少しでもやりにくい台詞や動きがあると、『こういう風にしたらどうですか?』とエスコートしてくださるんですよ。本当にすごい」
はしの「塚田(僚一)さんも面白いですよね。今どきの若者っぽくないというか」
瀬戸「天然な部分もあってね(笑)。私たちが見ててもすごく面白い。あとビル役の綾田俊樹さん! 10年前も出演されているんですけど、この世界観を熟知されていて、ほんとうに自由(笑)」
はしの「毎回アドリブで変えてきますから。1回も同じことをやらないんですよ!」
瀬戸「私たちも笑いを堪えるのが大変です(笑)」
――先ほどお二方ともご自身の役柄が“意外”という話がありましたが、他にこの作品で新たに挑まれていることはありますか?
瀬戸「この作品では、日本人にはあまり馴染みのないような“イギリスの階級社会”が描かれてるんですよね。だからローズマリーという役は必要以上に人を心配するんですけど、でもそれが本心じゃないからこそ、ジェーンに対してぽろりと本音が出てしまう。それを上辺だけでやってしまうとダメですよね、という話を山田さんとしていて。シンプルな役なんですけど、難しいな…と思ってます」
はしの「私はこれまで、欽ちゃんの演出する舞台以外の経験は、まだ3回くらいしかないんです。だから他の演出家の方の舞台はあまり馴れていないので、ジェーンとかヒューバートとか横文字の出演者の舞台も初めて! 大体『お絹ちゃん』とか『おハマちゃん』とかでしたから(笑)。だから戸惑うことも多いんですが、欽ちゃんの言葉で『笑わそうとするんじゃなくて、しっかりやっているとそれが笑いに変わるから』というのがあって。だから一生懸命やっていれば、お客さんが笑ってくださるんじゃないかなと」
瀬戸「この作品って、喜劇の中でも“ファース”という分類なんですよね。ウェルメイドコメディとはまた伝え方が違うんです。山田さんも言われたように、なるべく隙間を入れないように、でも心情が流れていくとお客さんに伝わらない可能性がある。そのテンポを自分なりにつかむまでが大変で…あとは上流階級マダムの立ち振るまいをどうしたらいいか。映画などを観て研究してますけど、やりがいはありますね」
はしの「でも、コメディだと思ってやってます?」
瀬戸「確かに、“笑わせる”って感じじゃないんですよね」
はしの「お客さんがどこで笑うのかなー、って思うんです。だからそういう意味では、本番がどうなるのかすごく興味あります」
――もうまもなく本番ですね。
はしの「(ため息をつきながら)舞台終わったあと、生きてるんだろうか…」
瀬戸「生きてますよ!(笑)」
はしの「本番中に死ぬんじゃないかと思って(笑)」
瀬戸「お互い新境地になりそうですよね。実は一緒に絡むシーンが少ないから、結構お互いの出ている場面を観ることができるんですよ。はしのさんの真っ直ぐで真面目なところが私にはキラキラし輝いて見えるんです」
はしの「あはは(笑)」
瀬戸「いい意味で芸能界にはまってないというか、衣食住がしっかりされている方。錦織さんも『今どき珍しい、お育ちのしっかりした人』って言われてましたから」
はしの「みんなで食事会に行ったんですけど、その時に言われました」
瀬戸「同じ席に居たのに、私は言われなかった(笑)」
――でもこのタイプのコメディですと、精神的にも肉体的にも大変そうですね。
瀬戸「緊張と開放ですよね、コメディは」
はしの「だから身体が痛いんだ(笑)。なんかおかしいな、と思ってたんですけど」
瀬戸「一杯マッサージを頑張らないとですね(笑)」
はしの「でもほんと、素晴らしい作品だと思うんです。ここがこうなってこうなるんだ!みたいな」
瀬戸「お客様にはとにかく、日々のストレスを開放しにきて欲しいですね。あと、舞台上に時計があって。実際に時間が進行していく作品も珍しいと思うんですよ。そこも要注目です!」
稽古場レポ
本番まで2週間を切った、とある日の稽古場。前日に通し稽古を終えたとのことで、ここからは細かい部分をブラッシュアップしてゆく作業に入るようだ。まずは土屋裕一演じる医師・マイクが錦織演じるデーヴィッドの前からクリスマスの出し物用の小道具を持って去る場面で、どうやって小道具類を持つかを細かくチェック。さりげない場面だが、演出の山田と錦織と3人で何度も微妙なニュアンスを確かめている。
ようやく固まったようで、オープニングから稽古を開始。権威ある記念講演でのスピーチを頼まれ、原稿を覚えるデーヴィッド。そこに現れる同僚や上司、部下、妻、そして愛人…ある程度通してチェックするのかと思えば、この日は細かく止めて山田がその都度微調整を繰り返してゆく。前日の通し稽古で掴んだ“何か”がそこにはあるようだ。
1シーンを終えた後、錦織が土屋に「これ、やんない?」としぐさの提案。山田とも真剣な顔で演技プランを詰めながら、細部細部でさりげなく提案も出している。この作品の主人公・デーヴィッドはとにかく動きもセリフ量も膨大なかなりの難役!時折ユーモアを交えて周りを笑わせつつも、その表情は常に真剣そのもの。集中力と気迫に気圧されそうな勢いだったのが印象的。
愛人と妻、そして突然の息子の登場にてんやわんやになるとある冬の日の物語。舞台上の時計と一緒に観客も時を過ごす仕組みなので、その騒動をよりリアルに楽しめそうだ。
パルコ・プロデュース『イット・ランズ・イン・ザ・ファミリー ~パパと呼ばないで』
東京・パルコ劇場
9月20日~10月3日