20年以上続く「彩の国シェイクスピア・シリーズ」も、ついに第36弾『ジョン王』を迎える予定だった。シェイクスピア全作品を上演するというシリーズ完結まで残り2作となったところだったが、新型コロナウイルスの影響で、残念ながら全公演中止に。
『ジョン王』は、英国史上最も悪評の高い王であろうジョンの治世を描いた歴史劇だ。エンタステージでは、数々の俳優たちが挑んできたこのシリーズに初参戦となる玉置玲央と白石隼也に話を聞いていた。公演は中止になってしまったが、いつかの上演に向けてその意気込みを掲載する。
※本取材は公演中止前に実施されました
国の争いの中、身近な人を大事にする「感情移入しやすい役では」
───「彩の国シェイクスピア・シリーズ」への初参加ですね。この『ジョン王』への出演を聞いた時は、いかがでしたか?
玉置:『ジョン王』という作品は、どれくらい知られているんでしょうね。僕は、作品自体は知っていたけれど読んだことなはなかったですし。イングランドで最も悪王だという史実と、シェイクスピアが書いた『ジョン王』がそれぞれどのような認知度なのか分からなかったので、何をたぐり寄せたらいいのかは少し迷いがあります。
それでも、役に魂を吹き込むのが俳優の仕事なのでやっていかなきゃいけない。ただ、登場人物の対立関係や派閥がわかりやすいので、読みやすいとは思います。そこをどう紐解くか、ですね。
───確かに登場人物は個性的だし、関係性もハッキリしていますね。その上で、皆さんの配役がおもしろいなと思います。
玉置:そう、配役の組み合わせがおもしろいんですよ!僕も脚本を読みながら「この組み合わせで大丈夫なの!?」って思いましたもん。どうでした?
白石:僕、そもそもオールメール(男性キャストのみ)でやるって聞いてなかったんですよ。
玉置:え、そうなの!?
白石:恋するシーンもあるので「どんな綺麗な女優さんとやるんだろう」と期待していたんですけど・・・まさかの全員男性でした(笑)。僕が演じる役は、植本(純米)さんの役に一目惚れをするんですよね。コメディかと思うくらいの一目惚れ。実際の年齢が20歳くらい離れているので、どういう雰囲気になるのか・・・。
玉置:純米兄さんは美人よ!キレイ!
白石:そうですよね、だからすごく楽しみにしています。自分がどういう気持ちになるのか。思わずキスしてしまうくらいになれたらいいな。
玉置:そうだね!純米兄さんの女形楽しみだなあ。僕も女役ですしね。
───玉置さんの演じられるコンスタンスも、なかなか味の濃い役ですよね。
玉置:やっぱりそう思いますか(笑)。演出次第でコメディタッチで笑える方にも振れるし、真剣で真摯な作品にも振れる。翻訳をしてくださる松岡和子先生が「おかしな話なので、オールメールでやるとなおさらおもしろいと思う」と仰っているそうなので、どうできるかな。
僕が演じるコンスタンスは、男たちが自分の国や権力や覇権や利益のことで争っている中、愛情について争っていると思うんです。息子に対する愛情をずっと訴え続け、強く怒る。男性が演じたとしても、どう人間味が出せるかが大事なんでしょうね。
───コンスタンスも、白石さん演じる皇太子ルイも、誰にでも身近な感情を大事にしていますよね。観ていて感情移入しやすい登場人物かもしれないです。
白石:そうかも。
玉置:ルイもお客様が寄り添いやすい役ですよね。・・・やっぱり小栗旬さんや吉田鋼太郎さんや横田栄司さんは人間としての魅力がものすごくあるので、どんな役をやっても輝き続けられる。僕はたぶんそこまでの人間的な魅力がないので、俳優として役の魅力に頼りながら、何ができるかを探していかないといけない。お客様と共演者の方々とどれだけ一緒に作っていけるか、がんばります。
脈々と受け継がれてきた「彩の国シェイクスピア・シリーズ」へ飛び込む
───彩の国シェイクスピア・シリーズも第36弾を迎えます。このシリーズに出演するのはお二人とも初めてですね。
白石:長いシリーズですし、彩の国さいたま芸術劇場のファンの方も多くいらっしゃると思うんです。劇場にファンがついているというのは健全な気がしますし、日本の中でもたくさんの方に愛されている劇場だと思います。今回『ジョン王』への出演が発表になった時には、SNSで「さい芸(彩の国さいたま芸術劇場)へようこそ」といったコメントもいただきました。
玉置:おお~!
白石:劇場やシリーズの歴史を知っているお客様に「さあ、あなたどうやるの?」と言われているようで、脈々といろんな先輩方が受け継いできたものを受け継いでいくんだなという気持ちになりました。俳優のファンの方はひいき目に見てくれることもあるかもしれないですが、僕のことをよく知らない人たちがフラットに真剣に観てくれる経験は数少ないと思うので、そういうお客様の前に立てるのはすごく嬉しいです。より特別感を感じますね。
玉置:鋼太郎さんの演出を受けられたり、小栗さんや横田さんと共演できたりするのも楽しみですね。キャラメルボックスの阿部丈二さんのほか、さいたまネクスト・シアターの竪山隼太さんとは何度か共演もしていて、「ここで集まれたね、俺たち」と感慨深いです。僕は小劇場出身なので、80人くらいの規模でやっていたところから今に至って、様々な規模の舞台に立たせていただけるようになった。その間にいろんな演劇や映像の現場で出会った人達がここに集合している尊さを感じます。しかも「彩の国シェイクスピア・シリーズ」という脈々と続けられてきたなかに入れていただけるのは、なおさら嬉しいです。
白石:知り合いが多いんですね!僕は鋼太郎さんだけなんですよ・・・だから芝居で緊張するというより、その空間に入ることへの緊張の方が遥かにあるんです。すごく礼儀正しくしなきゃいけないのかな?とか、何時間前に入ったらいいのかな?とか、いろいろ考えちゃう。
玉置:そんなに考えているんだ(笑)。きっと大丈夫だし、楽しいですよ。さい芸の歴史を見てきている生き証人たちと一緒に戦えるのは、すごいことですよ。お客様が「ようこそ、さい芸へ」と言うように、ずっと蜷川さんの演出を受けて来た隼太たちもそう思っている気がする。そこに飛び込むのは怖いけれどワクワクするし、「じゃあ全然違う空気入れたるわ!」とも思いますね。
───吉田鋼太郎さんの演出については、どんな期待がありますか?
玉置:まず、ありがたいですし、嬉しい。最近「人っていつ何時一緒にいられなくなるかわからないな」という経験が多かったので、今一緒に演劇ができる、というご縁を大切にしたい。鋼太郎さんとは最近まで大河ドラマで共演していたんですが、その時は「俳優としてきちんと戦おう」という気持ちでした。でも演出を受けるとなると「この人がやりたいことをとにかく徹底的に表現できるような存在でいたい」と思います。どんなことがあってもしがみついていきます。
白石:僕は『ジョン王』のオーディションで、鋼太郎さんがすこし演出をつけてくださったんです。その時、俳優にすごく寄り添った言葉をかけてくださるなと感じました。ご本人が俳優だからかもしれないですが、とても演じやすいんです。その瞬間、「鋼太郎さんの演出を受けたいな。このオーディションに受かりたいな」と強く思いました。
ジョン王は“悪王”だったのか?
───戯曲を読まれて、『ジョン王』の見どころは?
玉置:オールメールだということと、現代に通じる部分がいっぱいあるところかな。描かれているのは国同士の対立においての人間模様ですが、身近なことに置き換えられます。コンスタンスの台詞で「法律そのものが完全な不正だというのに」とか、ドキッとしました。息子のアーサーが「鉄で目を焼いてえぐり出さねばなりません」と言われたことに対して、「そんなことをするのはこの鉄の時代だけだ」と答えるシーンも刺さりました。
そういった言葉だけでなく、登場人物の関係性でも胸に残る瞬間がいくつもあります。ですから決して難しい話ではなく、人間と人間がお喋りしてお互いの主張をぶつけ合っているという、今とまったく変わらないことをやっていることが伝わればいいな。
白石:どのキャラクターもおもしろいですよね。小栗さんの役以外はほぼみんなすごくビビっていて、肝がすわっていない。すべてのキャラクターを愛せそうです。物語としてはフランスとイングランドの利権争いが大きいですけれども、想像はしやすいと思うんです。身近などこかの企業やコミュニティでもあることですし。
玉置:人が集まるとね(笑)!
白石:国と国との争いだと思うと壮大ですが、ちゃんと観てくれたら伝わると思う。本当に立派な人はどこにもいなくて、みんな人間味あふれた素敵なキャラクターたちです。俳優としては、お客様を引き込ませる熱量や、伝えるということを大事にしていければいいですね。『ジョン王』はシェイクスピア作品のなかでは上演の機会が少ない作品だと言われてもいますけれど、大化けする可能性を感じています。おもしろいんじゃないかな、と。
───今この時代に上演されることで、改めて作品のおもしろさが知られるといいですね。
白石:どんな演出で、俳優がどのように演じるかで、まったく変わる作品だと思うんですよ。ジョン王のキャラクターがかなりフラットに描かれているので、いろんなパターンが考えられる役。横田さんがどう演じるのか、どんな人物としてジョン王を作っていくのか、すごく楽しみですね。
玉置:何とでもできるもんね!嫌われようと思えば嫌われるし、愛されようと思えば愛されるし、なんでもなくただ存在することもできる。
白石:ジョン王がどんな人物になるかによって他のキャラクターも変わってくるから、僕の演じるルイも、戯曲を読んだ印象とは違った役になるんだろうと期待しています。今はまだどんな舞台になるか想像しづらいですが、役者が考える余地のある作品なのですごく楽しみです。
───ジョン王は“英国史上最も悪評の高い王”とも言われますが、「悪王」とはいったいなんなのか、「悪」とはどういうことかも考える作品になりそうです。
玉置:そうなんですよね。ジョン王は悪行を繰り広げたというより“ことなかれ主義”かなと思うんです。劇中でも、ジョン王だけでなく誰もが主導権を握らない。民意か、時勢か、何かに必ず委ねて確定をしない。そんな描写が何度か出てきて、読んでいて「決めろよ!」と思う(笑)。誰かが「こうするんだ」と動けば進むことが、そうしないところがミソかも。
白石:その先に、結果的に負けた人が歴史の上では悪いことになっちゃうんですよね。イングランド人からすれば、ジョン王は争いに負けてイングランドを良い状況にしなかったから悪王とされているけれど、戦争に負けたら悪なのか?と。日本人からすると悪い人だと思えないんじゃないでしょうか。悪い人というより、弱い人なのかもしれない。いろんな人の思いがあるので、誰の視点で見たかでも印象が変わりそうです。
玉置:観終わって「どう思った?」と話し合える作品になるとおもしろいですね。僕もぜひお客様の感想を聞きたいです。
公演情報
彩の国シェイクスピア・シリーズ第36弾『ジョン王』(全公演中止)
【埼玉公演】6月8日(月)~6月28日(日) 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
【名古屋公演】7月3日(金)~7月6日(月) 御園座
【大阪公演】7月10日(金)~7月20日(月) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
【作】W.シェイクスピア
【翻訳】松岡和子
【演出】吉田鋼太郎(彩の国シェイクスピア・シリーズ芸術監督)
【出演】
小栗 旬 横田栄司
中村京蔵 玉置玲央 白石隼也 植本純米
間宮啓行 廣田高志 塚本幸男 飯田邦博 二反田雅澄
菊田大輔 水口てつ 鈴木彰紀 竪山隼太 堀 源起
阿部丈二 山本直寛 續木淳平 大西達之介 坂口 舜
佐田 照/心瑛(Wキャスト)
吉田鋼太郎
【公演詳細】https://www.saf.or.jp/arthall/stages/detail/7700
【ホリプロHP】https://horipro-stage.jp/stage/kingjohn2019/
【公式Twitter】@Shakespeare_sss