三谷幸喜の書き下ろしとなる喜劇『江戸は燃えているか TOUCH AND GO』が、2018年3月に東京・新橋演舞場にて上演される。幕末真っ只中の慶応四年を舞台に、江戸を戦火から守ろうと、一世一代の大芝居を打とうと画策する、歴史に名を残した偉人と名を残さなかった庶民たちを、三谷は「新橋演舞場史上、もっとも笑えるコメディ」として描くという。
本作に登場する勝海舟(中村獅童)の妹・順子役を演じるのは、元・宝塚歌劇団星組トップ娘役の妃海風(ひなみふう)。2016年に退団して約1年で三谷作品に大抜擢となった妃海に話を聞いた。
――三谷さんの作品への出演が決まったときのお気持ちはいかがでしたか?
本当に嬉しかったです。三谷さんと初めてお会いした時は、今回の役についてどうこうという話はなく「私はこういう人間で、こういうことが好きで・・・」といったプライベートの話ばかりしていました。ですから、三谷さんがどこで私を知ったのかはまだ伺えていないんです(笑)。
――三谷さんの印象については?
TVなどで見るイメージよりもっと気さくな方で、私と同じ目の高さで話をしてくださるので、最初は緊張しましたが、大好きになってしまいました。
――三谷さんの作品はこれまでにご覧になっていますか?
舞台作品で初めて拝見したのは『国民の映画』(2014年)でした。あとは映画やTVドラマを多く観ていました。宝塚歌劇団にいた頃は稽古稽古の毎日でなかなか外部の舞台を観る機会がなく、しかも舞台って私がいた大阪より東京の方が圧倒的に多くやっていたので、結局、映像作品を目にする機会のほうが多かったですね。
――その頃に感じていた「三谷作品」のイメージはどのようなものでしたか?
「どの作品もおもしろい」「思いっきり笑いたい時に観たい」「明るい気持ちになりたいときに観に行きたい」というざっくりとしたイメージでした。でも今回三谷さんの舞台に出ることになり、改めて過去の作品に触れると、人間のあたたかさや日常に起きている普通のことを描いている点にも興味が湧き、すごく好きになりました。
――ちなみにコメディはお好きですか?
大好きです!「お笑い」も大好きなんです!!・・・お笑いとコメディは少し違うかもしれませんが、シブイ話よりは思いっきり笑える話が好きなんです。私はかなり笑いが大好きな人でして(笑)。お友達の間では「おもしろいお姉さん」キャラじゃないかな?大阪人ですし、誇りを持って、笑いを追求したいです(笑)。
――退団してから一年強、「芝居」という意味での舞台出演というと本作が初となるんですよね?
そうです。しかもこれだけ著名な方々がたくさん出演され、しかも公演期間も長期間となる大きな作品ですから・・・こんな幸せなことはないですね。私もワクワクしています。こんな素晴らしい方々とご一緒できるこの期間って、すべての瞬間が「学び」であり「奇跡」だと思います。人から直接学ぶことが一番身体に入ってくると思うんです。ふと、考えると「このメンバーで一緒にお仕事・・・ちょっと怖いかも?私、大丈夫かな?」などと思うのかもしれませんが、逆に「このメンバーでお仕事できることなんてそうそうない機会だろう」という思いのほうが断然勝っているんです。だからこそ、おおいに学びたいですね。
――共演者の中で気になる方はいらっしゃいますか?
実は昔から高田聖子さんの大ファンなんです。大阪にいた時はよく劇団☆新感線の公演や『月影十番勝負』(※高田自身によるプロデュース公演)をずっと観ていたんです。いい意味で少し気を抜いたお芝居が絶妙で、ご本人は決してぐいぐいと前に出てくるキャラクターではないのに必ず目が止まってしまうような、強烈なインパクトがある方。その上で場の空気を変えていかれる方だと思っています。憧れの人です。今回ご一緒できるのは本当に嬉しくて、本当にご先祖様に感謝したいって思うくらい(!?)ありがたいと思っています(笑)そのくらい興奮しています!
それから「ずん」の飯尾さんも好きですね。うちの親も好きなんです(笑)。「お笑い」好きとして、注目してしまいます!
――よくよく見ると、人を楽しませることに長けている人を集めました!という顔ぶれのように思いました。
飯尾さんもそうですが、前に前に出る、というよりは、少し抜けたところ、シュールなおもしろい笑いを提供させるのが上手な人が多いのかもしれませんね。
――妃海さんが演じる順子と言う女性ですが、史実ですと佐久間象山の奥様になる女性ですよね。でも、本作の人間関係図を拝見したところ、夫の名前が「村上俊五郎」(演:田中圭)となっていて、これは一体どういうことになるんだろう・・・と思っています。
三谷さんは、きっと「この人と言えばこうだ」みたいな固定概念を全部取っ払った上で、改めて人間模様を作ろうとされているんじゃないかな、と推測しています。この後、台本をいただいてからさらに驚くこともありそうですね(笑)。
――固定概念を取り除いた作品になるとはいえ、実在の人物を演じる場合、どのようなことに気を配っていらっしゃいますか?
宝塚時代は、すでにお亡くなりになっている方を忠実に演じる場合、その方がどこかから私たちの芝居をご覧になっている気がして、とことん調べて、お墓参りにも行っていました。でも、今回は三谷さんの作品ですし、三谷さんのアレンジが入ってくると思うのでそこまで調べ尽くさない方がいいのかも?と思っています。
宝塚でしてきたお芝居は、宝塚ならではの伝統芸能だと思っているんです。一から調べて学んで・・・というよりは、逆にあまり予備知識を入れず、こういう時代背景を借りて新しいお芝居をする、というぐらいの心構えで臨む方がいいのかもしれないですね。勝海舟もこれまでのイメージと異なるようですし、あまり過去の作品を参考にして、こんなイメージかな、と思い込んで稽古場に行くよりは、まっさらな自分で行った方がいいように思います。
実際のところ、勝海舟さんもきっとどこかから見ているんじゃないですか?失礼のないように演じたいと思います。
――「宝塚歌劇団」という女性だけの世界から、そうではない世界に入っていくことについて、プレッシャーというような感覚はあるのでしょうか?
ありありです(笑)。男役さんと言っても女性ですし。退団して思いましたが普通の男性って同じ人間ではありますが、「違う生き物」なのかな?と思うことが多々ありますね。この後、お芝居した時にどういう感覚になるんでしょうね。
この前、ショーの中のダンスで、ケント・モリさんにリフトしていただいた時に全然違う感覚を味わいました。「男の人だ!うわー!」ってなっちゃいました(笑)。何というか・・・身長の高さとか骨格だけではなく「香り」が違うんですね。驚きました。
――今回の舞台で妃海さんのお芝居を楽しみにしているファンの方、初めて妃海さんを観る方など、様々なお客様が新橋演舞場にいらっしゃると思います。そんな皆様へメッセージをお願いします。
ずっと私を応援してくださっている方は、宝塚の舞台に立っている私とファンの前で話す私との間にちょっとギャップを感じていたかもしれません。でも、より真の私に近い私を、このお芝居ではお見せすることができるんじゃないかなと思っています。皆様と同じぐらい、私もドキドキしているのですが、ガッツリ作り込んだ私ではなく、非常にナチュラルでいる私を楽しみにしていてください。
そして、初めて私を知る皆様へ。私は人間が大好きなんです。だからこの芝居に出てくる様々な人物、そして共演される方々に、いっぱい揉まれてきっと浮かれて楽しくなっていると思います。妃海風っておもしろいな、この人を見ていたらハッピーになれそう、って思っていただけたら嬉しいです。
◆公演情報
PARCO Production『江戸は燃えているか TOUCH AND GO』
2018年3月3日(土)~3月26日(月) 新橋演舞場
【脚本・演出】三谷幸喜
【出演】中村獅童、松岡昌宏、松岡茉優、高田聖子、八木亜希子、飯尾和樹、磯山さやか、妃海風、中村蝶紫、吉田ボイス、藤本隆宏、田中圭
(撮影/エンタステージ編集部)