吉本興業とオフィスPSCがタッグを組んだ俳優育成プロジェクト「モチモチプロジェクト」。その記念すべき第一弾公演となる舞台『PROPS!』が、2025年12月4日(木)に東京・吉祥寺シアターにて開幕した。本記事では、開幕に先駆けて行われた公開ゲネプロの模様をレポートする。

「餅は餅屋」の最強タッグで “笑いの聖地”の裏側を描く

お笑いの最大手・吉本興業に所属する「俳優」たちのポテンシャルと、数々の演劇作品を世に送り出してきたオフィスPSCの「制作力」。その両者が「餅は餅屋」を合言葉に、互いの強み(=餅)を掛け合わせて新たなエンターテインメントを生み出そうと始動したのが、この「モチモチプロジェクト」である。
これまで水面下でワークショップを重ね、クリエイションを共にしてきた彼らが、満を持して世に放つ第一弾公演としてテーマに選んだのは、お笑い界最大の賞レースの「裏側」。スポットライトを浴びる芸人たちと、その影で胃を痛め、走り回り、それでも彼らを支え続けるマネージャーたちの姿を、リアルで熱い人間ドラマとして“演劇”という表現方法に込めた。
実際の賞レース戦線でもこんなことが?現実と重なる“生々しい”緊張感

(ゲネプロ)オープニングネタ披露芸人:ボブのコーラ
本作の舞台設定のモデルとなっているのは「NEW PIER HALL」。「前説」に登場するのは、第一線で活躍する芸人たち。彼らがマイクの前に立ち、客席を温め始めた瞬間、観客は一気に“熱き戦いの最前線”という世界観へと引きずり込まれる。日替わりで人気芸人が登場するのは、本プロジェクトならではの強みだろう。
「お笑い界最大の賞レース会場」のバックステージは、薄暗いながらも異様な熱気に満ちた空間だ。歓声や拍手を遠くに聞きながら、出番を待つ芸人たちの緊張感、「絶対に決勝へ行く」という執念が静かに渦巻いている。

物語の冒頭、契約社員の若手マネージャー・浦寺(高本学)が担当するコンビ「ポッツォ」のツッコミ・大我(北乃颯希)が何とも言えない表情で現れる。ボケ担当・後藤が、入り時間を過ぎても現れないという大トラブルが起こっていたのだ。
奇しくも、本作の初日は現実の賞レース期間中。そんなリアルとリンクする状況が、トラブルのはじまりにさらなる臨場感を与える。「今、本当のニューピアホールでも、こんなドラマが起きているのではないか?」――そう思えるほど、舞台上の焦燥感は生々しい。
稽古場から数段ギアを上げてきた役者たち醸し出す説得力

本作のキャスティングには、観る者の感覚を揺さぶる面白い仕掛けがある。それは、本職の芸人があえて「マネージャー役」を演じている点だ。
松田大輔(東京ダイナマイト)や九条ジョーといった、普段は舞台のセンターで笑いを取る彼らが、本作では「支える側」に回っている。彼らが舞台に登場し、言葉を交わし始めた瞬間、一瞬「バグる」ような感覚に陥った。
しかし、物語が進むにつれて、彼らの佇まいがじわじわと「ベテランマネージャーのリアル」として浸透してくるのが面白い。きっと、彼らもいろんなマネージャーの姿を見てきたのだろう。長年現場の空気を吸ってきた芸人だからこそ出せる説得力が、作品の土台を支えている。

対照的に、俳優である高本学と北乃颯希は、互いに華やかな外見を持ちながらも、舞台上では完全に「若手マネージャー」と「新進気鋭の尖った芸人」として存在していた。高本演じる浦寺の、困り果てた表情から滲み出る「人の良さ」。北乃演じる大我の、尖った言動の裏に見え隠れする「相方への渇望」。完全あて書きによって生まれたキャラクターたちは、地に足がついたリアリティを持ち、観る者の共感を誘う。

さらに特筆すべきは、女性キャスト陣のパワフルさだ。「オカン」気質のベテランマネージャー・紫苑(樋口みどりこ)、飄々としたライバル芸人担当の“出る系”マネージャー・綾羅木(高野渚)、中途採用の新人でお弁当の手配が得意な坊園(福冨タカラ)と、それぞれ稽古場から三段階ぐらいギアを上げたような熱量で、物語を煽っていく。


トリックスター的な動きをするデスク担当のベテランスタッフ・寒川(菊池美里)、現場一筋の職人気質を感じさせる舞台監督・別所(有薗芳記)が要所要所で物語に緩急をもたらしてくれる。
誰かのために、心を燃やす――愛を込めて描かれた「為事」と「仕事」の物語

舞台用語の「小道具」と、スラングの「Props to you(尊敬する)」という意味が込められている本作のタイトル。ドタバタコメディとして笑える本作だが、その根底に流れているのは普遍的な「お仕事ドラマ」としてのテーマだ。
一口にマネージャーと言っても、そのスタンスは人それぞれ。献身的な者、ビジネスライクな者、共に夢を見る者。それは、芸能界という特殊な世界の話だけでなく、「仕事」をするすべての人のスタンスとも照らし合わせられる。観客はきっと「自分に近いな」「自分の周りにもこういう人いるよな」と気持ちを寄せられる登場人物がいるだろう。

同時に、芸人とマネージャーは「家族でもないし、恋人でもないし、友達でもないのに、四六時中一緒にいる」という、他の職種にはない特殊な関係でもある。
“しごと”というのは、「自分のために何かを成す(為事)」という意味と、「誰かの役に立つために仕える(仕事)」という意味、両方の側面がある深い言葉。そこには、何かしら「愛」がなければ成り立たない。「愛」にもいろんな形があるけれど。大変でもつらくても、「終わりよければすべてよし」というその一点に向かってがんばる姿は、「愛」という名の矜持以外の何でもない。

大我という尖った芸人に「お笑い」「コンビ」への想いを潜ませる北乃と、それを見守る真っすぐで献身的でポンコツな浦寺を体現する高本。それぞれすべてを込めたラストの表情を見た時、胸の奥がすっとする想いがした。
開催真っ只中の現実の大会裏でも、きっとこれと同じような芸人コンビとマネージャーたちの熱いドラマが繰り広げられていることだろう。そんな「リアルフィクション」が劇場で待っている。
舞台『PROPS!』は、12月8日(月)まで東京・吉祥寺シアター、12月14日(日)に大阪・扇町ミュージアムキューブにて上演。上演時間は約1時間50分を予定。
(取材・文・撮影/エンタステージ編集部 1号)
舞台『PROPS!』公演情報
| 公演情報 | |
|---|---|
| タイトル | 舞台『PROPS!』 |
| 公演期間・会場 | 【東京公演】 2025年12月4日(木)~12月8日(月) 吉祥寺シアター 【大阪公演】 2025年12月12日(金)~12月14日(日) 扇町ミュージアムキューブ |
| スタッフ | 脚本・演出:保坂萌(ムシラセ) |
| キャスト | 高本学 北乃颯希 九条ジョー /松田大輔/ 樋口みどりこ 菊池美里 福冨タカラ 高野渚 /有薗芳記 |
| チケット情報 | 【取り扱い】 FANYチケット・チケットぴあ・ローソンチケット・カンフェティ <オープニング出演芸人> 12月4日(木) 19:00開演 トータルテンボス 12月5日(金) 19:00開演 ガクテンソク 12月6日(土) 13:00開演 EXIT 12月6日(土)18:00開演 ナイチンゲールダンス 12月7日(日) 13:00開演 からし蓮根 12月7日(日)18:00開演 ケビンス 12月8日(月) 14:00開演 ロングコートダディ★アフタートーク 12月6日(土) 18:00公演 高本学・松田大輔・菊池美里・保坂萌 12月7日(日) 18:00公演 北乃颯希・九条ジョー・福冨タカラ・高野渚・保坂萌 〇カーテンコール撮影会 △全キャストお見送り会 <大阪公演> ★アフタートーク 〇カーテンコール撮影会あり △全キャストお見送り会 |
| 公式サイト | https://live.yoshimoto.co.jp/live/live-22569/ http://props-stage.com/ |
| 公式SNS | 公式X:https://x.com/props_stage 公式Instagram:https://x.com/props_stage |







