梅田芸術劇場創立20周年と作曲家モーリー・イェストン生誕80周年を記念した『Life’s A Joy! Life Goes On!!』。その東京公演が、2025年7月19日(土)・7月20日(日)の2日間、東京国際フォーラム ホールAにて開催された。そのステージは「コンサート」という言葉のイメージを遥かに超える、全く新しい体験だった。

音楽史博士号を持つ、ブロードウェイの異才
そもそも、モーリー・イェストンとは何者か。彼はアメリカの作詞家・作曲家であり、『NINE』と『タイタニック』で2度トニー賞最優秀作詞作曲賞に輝いた、現代ミュージカル界を代表する巨匠の一人だ。
特筆すべきは、彼がイェール大学で音楽史の博士号を取得し、教鞭をとっていたという異色の経歴。そのアカデミックな知見に裏打ちされた、複雑で美しいハーモニーと、クラシックからポピュラー音楽までを網羅する多彩な音楽性は、彼の作品に深い奥行きを与えている。何よりも、登場人物の心の叫びや喜びを、聴く者の心を鷲掴みにするドラマティックなメロディに乗せて描き出す「物語る音楽」こそが、彼の真骨頂と言えるだろう。
20年来のパートナー、梅田芸術劇場との軌跡
そして、大阪・梅田で2005年より「メインホール」と「シアター・ドラマシティ」の2つの劇場の運営する梅田芸術劇場は、今年で20周年を迎えた。モーリー作品と梅田芸術劇場の間には、長年にわたる深い関係がある。
梅田芸術劇場は、宝塚歌劇団によって日本に紹介された名作を、新たな形で日本のミュージカルファンに届ける役割を担ってきた。特にイェストン作品との関わりは深く、2014年の『ファントム』商業演劇初演を皮切りに、2019年、2023年と上演を重ね、大ヒットシリーズへと育て上げた。
ほかにも『タイタニック』(2015年、2018年)、『グランドホテル』(2016年)、『NINE』(2020年)と、モーリーの代表作を次々と日本の観客に紹介してきたのが梅田芸術劇場である。今回のコンサートは、モーリーの生誕80周年と、モーリー作品を愛し、上演し続けてきた梅田芸術劇場の20年の歩みが重なり合う祝祭なのである。
それを証明するような、濃密な時間が流れるコンサートだった。劇中歌を歌い継ぐのではなく物語のハイライトシーンを丸ごと切り取る、いわば“公演の追体験”。その世界観を支えるように、コンサート公演とは思えないほど作り込まれた舞台セットが観客を迎える。ある時は『グランドホテル』の煌びやかなロビーとなり、またある時は『タイタニック』の船内へと観客を誘う。
この濃密な追体験したからこそ、改めてモーリー・イェストンが紡いできた一つひとつの物語の奥深さに触れたくなる。本記事では、この記念すべき公演で披露される5つの代表作を、その歴史と共に振り返ってみる。
人生が交差する、豪華ホテルのある一夜を描いた『グランドホテル』
『グランドホテル』は、1989年にブロードウェイで初演され、トニー賞5部門を受賞。1920年代ベルリンの豪華ホテルを舞台に、落ちぶれた男爵、引退間近のバレリーナ、死期の近い会計士など、様々な事情を抱えた人々の人生が一夜のうちに交錯していく様を描いた画期的な群像劇だ。モーリーは本作に、追加の作詞・作曲家として参加している。
日本では1993年に宝塚歌劇団が月組公演(主演:涼風真世)で日本版を初演、2017年には珠城りょうのトップお披露目公演としても上演している。そのほかも2006年(主演:小堺一機)、2016年(GREEN 主演:中川晃教/RED 主演:成河の2チーム制)で上演されるなど、時代を越えて繰り返し上演されてきた作品だ。
才能と愛に苦悩する、天才映画監督の物語『NINE』
『NINE』は、1982年にブロードウェイで初演され、同年のトニー賞で最優秀作品賞を含む5部門を受賞した傑作。イタリア映画界の名匠フェデリコ・フェリーニの自伝的「8 1/2(はっかにぶんのいち)」を原作に作られた。
主人公は、フェリーニ自身を投影したとも言われる天才映画監督グイド・コンティーニ。新作の構想に行き詰まり、妻や愛人との関係にも悩んだ男は、幻想の世界へと逃げ込んでいく。彼を愛し、その創造力の源となった女性たちの記憶が交錯する中で、グイドが見つけ出す答えとは――。
モーリーにとっては、初めてトニー賞最優秀作詞作曲賞に輝いた出世作。日本では1983年に宝塚歌劇団雪組によって初演され、近年では2020年に演出・藤田俊太郎と主演・城田優のタッグで上演されたことも記憶に新しい。

オペラ座の地下に生きた、もう一人の怪人の物語『ファントム』
『ファントム』は、アンドリュー・ロイド=ウェバー版とは異なる視点から、ガストン・ルルーの小説「オペラ座の怪人」をミュージカル化した作品。怪人エリックの人間的な側面に深く焦点を当てており、醜い顔ゆえにオペラ座の地下で孤独に生きる青年エリックと、彼に見出された若き歌姫クリスティーヌの悲恋を、より人間的かつエモーショナルに描く。
初演は、1991年に米・ヒューストンで迎え、日本では2004年に宝塚歌劇団宙組が初演し、その後も度々再演されてきた。2019年・2023年には、城田優と加藤和樹がファントム役をWキャストで演じた。ファントムの出生の秘密や親子愛など、人間ドラマに重きを置いた物語は、不動の人気を誇る作品の一つとなった。

それぞれの希望と夢を乗せた、巨大客船の人間ドラマ 『タイタニック』
『タイタニック』というと、実際の出来事をベースにフィクションとして描いた映画を思い浮かべる方も多いだろう。ミュージカル版は映画とは別物で、史実に基づき、実際にタイタニック号に乗船していた様々な階級の人々の群像劇となっている。新大陸アメリカでの未来を夢見る三等客の移民たち、富と名声を手にした二等客、そして世界の栄華を疑わない一等客の富裕層。それぞれの希望と絶望が、壮大な楽曲に乗せて紡がれる。
1997年にブロードウェイで初演され、その年のトニー賞で最優秀作品賞を含む5部門を独占。モーリーが2度目のトニー賞最優秀作詞作曲賞をもたらした作品でもある。2013年にはトム・サザーランドによる新演出版がロンドンで誕生した。日本でも繰り返し上演されているが、梅田芸術劇場では、2015年、2018年に新演出版を上演している。
死神が知った、“生きる”ことの意味と“愛”の輝き『DEATH TAKES A HOLIDAY』
『DEATH TAKES A HOLIDAY』は、第一次世界大戦直後のイタリアを舞台に、休暇を過ごすため人間の姿を借りた死神が、公爵令嬢グラツィアと恋に落ち、初めて“愛”という感情を知る物語。「なぜ人間はかくも生に執着するのか」を知るはずが、死神自身が生命の輝きに魅了されていく様を、美しくロマンティックな楽曲で彩った。
原作は、イタリアの劇作家アルバート・カゼッラによる戯曲『La morte in vacanza』。1998年にブラッド・ピット主演でリメイクされた映画『ミート・ジョー・ブラック(邦題:ジョー・ブラックをよろしく)』としてご存じの方も多いかもしれない。
2011年にオフ・ブロードウェイで初演。日本では2023年に宝塚歌劇団月組が月城かなと主演で初演し、2024年には小瀧望主演で上演された。モーリー作品としては比較的新しいミュージカルである。
総勢21名!各回異なる組み合わせで魅せる一夜限りのパフォーマンス
出演者は総勢21名。モーリー作品に縁のあるキャストたちが、各回違う組み合わせで登場し、約40曲を二幕に渡って、一夜限りのパフォーマンスとして披露する。
セットリストの一部が公開されているが、1993年の宝塚版『グランドホテル』に出演した涼風真世が「At the Grand Hotel」を、2004年の宝塚版『ファントム』に出演した和央ようかが「Where In The World」を、同作の2006年の公演に出演した彩吹真央が「You Are My Own」を披露するのも見どころの一つだ。
(※公演回によって出演者、歌唱者は異なる)
美しくドラマティックなメロディの連続。かつての記憶が蘇る方も、まだ観ぬ方の中に物語を想起させるにも充分な、特別な時間。コンサートとして個々の名曲・名場面という「ハイライト」の連続でありながら、全体として物語の「ダイジェスト」としても感じられる、非常に贅沢な構成だった。
東京公演は終了したが、7月26日(土)・7月27日(日)には本拠地、梅田芸術劇場 メインホールでの公演が待っている。モーリーと梅田芸術劇場の歩みがクロスオーバーする瞬間をお見逃しなく。7月27日(日)の2公演では配信あり(アーカイブはなし)。
【7月27日(日)12:00 日替わり出演者】
彩吹真央 安寿ミラ 伊礼彼方 海乃美月 岡田浩暉 加藤和樹 昆夏美 佐藤隆紀
城田優 涼風真世 珠城りょう 月影瞳 真彩希帆 皆本麻帆 屋比久知奈 和央ようか
【7月27日(日)17:00 日替わり出演者】
彩吹真央 安寿ミラ 伊礼彼方 海乃美月 岡田浩暉 加藤和樹 昆夏美 佐藤隆紀
涼風真世 珠城りょう 月影瞳 真彩希帆 皆本麻帆 屋比久知奈 和央ようか
(取材・文/エンタステージ編集部 1号)
(撮影/岩田えり)
※集合写真は7月20日昼公演のもの
モーリー・イェストン生誕80周年を記念した『Life’s A Joy! Life Goes On!!』公演情報
公演情報 | |
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タイトル | モーリー・イェストン生誕80周年を記念した『Life’s A Joy! Life Goes On!!』 |
公演期間・会場 | 【東京公演】※終了 2025年7月19日(土)・7月20日(日) 東京国際フォーラム ホールA【大阪公演】 2025年7月26日(土)・7月27日(日) 梅田芸術劇場メインホール ※7月27日(日)12:00公演/17:00公演にて配信有り |
スタッフ | 構成・演出:生田大和(宝塚歌劇) |
キャスト | 彩吹真央 安寿ミラ 伊礼彼方 上口耕平 海乃美月 岡田浩暉 加藤和樹 昆夏美 佐藤隆紀(LE VELVETS) 城田優 涼風真世 成河 珠城りょう 月影瞳 中川晃教 東啓介 真彩希帆 皆本麻帆 屋比久知奈 山下リオ 和央ようか(五十音順) ※公演回によって出演者は異なる伊藤稚菜 篠崎未伶雅 鈴木満梨奈 中嶋尚哉 西尾郁海 畑中竜也 |
チケット情報 | 【東京】 [S+席]21,000円[S席]15,000円 [A席]10,000円[B席]6,000円(全席指定・税込) 【大阪】 [S席] 16,000円 [A席]10,000円 [B席]6,000円 (全席指定・税込) |
公式サイト | https://www.umegei.com/maury80-umegei20-anniv/ |


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