12年ぶりの再演となるミュージカル『二都物語』の公開ゲネプロと会見が2025年5月6日(火・祝)に東京・明治座が行われた。会見には主演を務める井上芳雄、浦井健治、そして新ヒロインの潤花が登壇し、チャールズ・ディケンズの名作を原作に、フランス革命下の激動の時代を描く本作への意気込みやお互いの印象などを語った。
12年ぶりの再演で話題に!ミュージカル『二都物語』
本作は、『オリバー・ツイスト』や『クリスマス・キャロル』で知られる文豪チャールズ・ディケンズの代表作の一つであり、全世界で2億冊以上の発行部数を誇る『二都物語』を原作とするミュージカル。2007年にアメリカでミュージカル化され、ブロードウェイや韓国でも上演。日本では2013年に帝国劇場で初演され、多くの観客に感動を与えた。
物語の舞台は、18世紀後半のロンドンとパリ。フランス革命の嵐が吹き荒れる中、無実の罪で長年バスティーユ牢獄に囚われていた父と再会した娘ルーシー・マネット、フランスからの亡命貴族チャールズ・ダーニー、そして彼と瓜二つの容姿を持つ弁護士シドニー・カートン。この3人を中心に、二つの都市をまたぎ、愛、自己犠牲、そして再生をテーマにしたドラマティックな人間模様が描かれる。
翻訳・演出は、初演に引き続き鵜山仁が担当し、キャストには初演からの続投となるメンバーと、新たな才能が名を連ねている。主人公の弁護士シドニー・カートン役は井上芳雄、フランスの亡命貴族チャールズ・ダーニー役は浦井健治。この二人が再び、愛と友情に揺れる複雑な関係性を演じる。
そして、二人の男性から想いを寄せられるヒロイン、ルーシー・マネット役は新キャストとして、元宝塚歌劇団宙組トップ娘役で、本作が退団後初のミュージカル出演となる潤花が務める。
このほか、貴族を憎むドファルジュ役の橋本さとし、エヴレモンド侯爵役の岡幸二郎、小悪党バーサッド役の福井貴一、墓掘りのジェリー・クランチャー役の宮川浩がそれぞれ初演から続投。
そして、ルーシーの父ドクター・マネット役の福井晶一、ドファルジュの妻マダム・ドファルジュ役の未来優希が新たに参加し、重厚な物語を支える。
井上芳雄「まさか再演できると思っていなかったので、びっくりしました」
5月7日(水)の開幕に向けて、公開ゲネプロと会見を実施。会見には井上芳雄、浦井健治、潤花が登壇した。まず、12年ぶりの再演決定を聞いた時の心境と、初日を目前にした今の気持ちを問われたキャスト陣。井上は「まさか再演できると思っていなかったので、びっくりしました」と率直な驚きを語り、帝国劇場より客席との距離が近い明治座での上演について「濃密なドラマがあるので、劇場空間がキュッと濃密であればあるほど(お客様に)お届けできるのでは」と、作品と劇場の相性の良さに期待を寄せる。
井上と同じく初演から続投となる浦井は、初演から参加する先輩キャストに触れ「12年という時を経て、先輩方が培ってきたお芝居の深みを(役に)投影されているのを感じる。自分も追いつけるようにやっていきたい」としみじみ。また、「個人的にはダーニーのソロ曲が新曲であるので、頑張りたいと思います」と意気込んだ。
そして今回、初参加となる潤花は「初演から出演されている方々が多くいらっしゃる中で、今回初めて参加させていただきます」と挨拶し、「12年前に出演されていた方々、鵜山さんも含め、だからこその(良い)空気がお稽古場からすごくありました」とカンパニーの雰囲気の良さを明かす。さらに、明治座について「客席との距離がすごく近くて。お芝居をしていても、お客様との一体感がより深まるのではと感じたので、この劇場でこのお話ができることが本当に楽しみ」と笑顔を見せた。
井上芳雄×浦井健治「無駄な話しなくなった?」 12年間の変化と信頼
公私ともに親交が深いことでも知られる井上と浦井。久しぶりの本格的な共演となるが、浦井は「僕はすごく光栄です!」と笑顔で語りだし、プロデューサーから井上が“ダーニーは浦井健治じゃないと!”と言っていたと聞いたようで、「相思相愛だ!」と思ったことを嬉しそうに明かした。
そんな浦井に対し井上は「近いようなことは言いましたけど、それだと僕が全部の権力を握っているみたいじゃないですか…」と笑いながら軽く否定しつつ、「鵜山さんや他のキャストも含めて、できる限り12年前のメンバーでできたらという話はしました。もちろん浦井くんだと嬉しいなとは思っていました」と真相を明かす。そして「帝国劇場(建て替え後)に繋ぐ大事な5年間、そのスタートを彼と一緒にできるのは心強い」と、浦井への信頼を語った。
また、この12年間でのお互いの変化について聞かれると、浦井は井上について「肩の力が抜けて、常に進化を続けていらっしゃる。我々の世代にとっては、ずっと第一線で走り続けている兄貴のような存在」と語り、「その背中の大きさがカートンともリンクしていて、皆がついていきたいと思うような存在」と評した。
一方、井上は「12年前だったら、もっとワーッとなっていたと思うけど、魅力はそのままに大人になって。立派な俳優さんになられて、頼もしいなと」と“兄”のような目線で浦井の印象を語る。続けて「付き合いが長くなって、無駄な話しなくなったよね?」と問いかけると、浦井も同意。井上は「あんまり喋らなくても心は伝わってるだろう、と思ったら伝わってなかったり(笑)。でも、その分かったような、分からないようなところが、また浦井くんの面白さ」と、長年の付き合いならではの関係性を覗かせた。
12年を経て深まる『二都物語』への解釈
12年ぶりにシドニー・カートン役と向き合う井上は、「12年前は若かったな、と思います。当時はこういう影のある弁護士役はあまり経験がなくて」と振り返る。「カートンは、ある種、聖人のような最後の選択をしますが、ずっと聖人だったわけではなく、僕たちと同じように色々感じながら生きている。やけになったり、恋をしたりしながら、一つ一つの選択の積み重ねが、最後の大きな行動に繋がったという風に感じています。自分たちとの距離が縮まった気がします」と、役への理解の変化を明かした。
また、作品タイトル『二都物語』について、「もちろんパリとロンドンの二都ですが、シドニーとダーニーという二人の男性という意味もあるでしょうし、フランス革命期の貴族と民衆など、色んな相反するふたつのものがあって。ふたつのものがあると争いになってしまうけれど、僕の解釈だと、彼らはその間を取り持つことができる存在なのではないか」と語った。
浦井も「状況や環境が異なる二人の男性が、同じ志を持ってどう生き抜いたのか。犠牲も含めて、そういう生き様を描いている」と語り、「ふたつのものが対立する中で、家族の物語でもあると感じています。カートンもダーニーも、そしてルーシーや他の登場人物たちも。血は繋がってなくとも、一緒に過ごした時間の中で家族になっていくこともテーマになっているのかなと」と、作品のテーマ性について言及した。
そして潤花は、「まずは客観的に(役を)捉えましたが、自分の中で固めすぎず、皆さんのご意見を聞きながら柔軟に変えられるようにと思いやってきました。お稽古場でもたくさん聞きに伺って、皆さんがヒントをくださいました」と語った。井上も「ぴったりですよね。みんなから愛されて。難しい役どころで、なかなか共感を得にくい部分もある役ですが、説得力を持ってやってくださってるんじゃないかなと思います」と太鼓判を押した。
最後に3人からメッセージが。潤花は「お客様と劇場でお会いできることを心から楽しみにしております。千秋楽まで役として精一杯生きていきたいと思います」と真摯に語り、浦井は「今の僕たちにできる最善の表現方法で、お客様とこの物語を共有できることを僕も楽しみにしています。12年ぶりに新たな気持ちでカンパニー一丸となって臨みたいともいます」と決意を述べた。
そして井上は「12年ぶりに再演できることが本当に嬉しいです。帝国劇場が一度クローズした後の、これからの5年間を繋ぐ大切な公演のスタートの一つとして、しっかり務めたい」と力を込め、「フランス革命を扱った作品が多いのは、自分たちの力で世の中を変えられるんだ、ということを思い出させてくれるからだと思っています。毎日生きてるだけでも大変だけど、過去を変えてきた人たちの姿を見て、いろんな人たちの生き様を見ていただいて。来る前よりも劇場を出た後の方がエネルギーがみなぎるんじゃないかと思い余す。僕たちも一生懸命エネルギーが溢れる舞台をお届けしたいと思っております」と熱いメッセージを送り会見を締めくくった。
ミュージカル『二都物語』は2025年5月7日(水)から5月31日(土)まで東京・明治座で上演。その後、6月7日(土)から大阪・梅田芸術劇場メインホール、6月21日(土)から愛知・御園座、7月5日(土)から福岡・博多座で上演予定だ。上演時間は第一部・1時間30分、第二部・1時間15分(休憩30分)を予定。
(取材・文:エンタステージ編集部3号)