『業界~恥ずかしながら、ボクらがこの世をダメにしてます~』稽古場レポート!小御門優一郎が赤裸々に描いた「本流コンプレックス」

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『業界~恥ずかしながら、ボクらがこの世をダメにしてます~』稽古場レポート!小御門優一郎が赤裸々に描いた「本流コンプレックス」

ノーミーツ主宰の小御門優一郎が新たに生んだ新作舞台『業界~恥ずかしながら、ボクらがこの世をダメにしてます~』。「ものづくりで食べていく」人々を描いた物語が、表現を808株式会社が企画・制作するTom’s collection(トムズコレクション)シリーズの第2弾として2025年2月28日(金)から3月2日(日)まで東京・駅前劇場にて上演される。本番間近、大詰の通し稽古を取材した。

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『業界~恥ずかしながら、ボクらがこの世をダメにしてます~』どんな物語?

『業界~恥ずかしながら、ボクらがこの世をダメにしてます~』稽古場レポート!小御門優一郎が赤裸々に描いた「本流コンプレックス」

物語の主人公は、「AI映画」をバズらせ注目を浴びた“メディアクリエイター”を名乗る男。何やら、大きな企業が打ち出す新事業のメディア戦略チームに声をかけられ、映像作品の脚本を任されたようだ。よく分からないポジションの仕切り役の人が、馴染みのない横文字の言葉を乱発するのを聞きながら、本人は「でっかいクライアントと、なんかイケてそうなプロジェクトができている感じが掴めればいいか」と意気揚々としている。

『業界~恥ずかしながら、ボクらがこの世をダメにしてます~』稽古場レポート!小御門優一郎が赤裸々に描いた「本流コンプレックス」

大学で演劇と出会い、サークル活動を通じて劇団を旗揚げ。卒業のタイミングで劇団を続けることは選択せずに就職。「ものづくりで食べていく」という、抱いていた夢がひょんなことから叶った。業界の中でうまく立ち回っていると浮かれていた。しかし、ほどなくして思い知る「本物」との差・・・。

『業界~恥ずかしながら、ボクらがこの世をダメにしてます~』稽古場レポート!小御門優一郎が赤裸々に描いた「本流コンプレックス」

出演は、上谷圭吾、オツハタ、石山蓮華、イトウハルヒ、小早川俊輔、川合諒、上田操、武田紗保、渋江譲二、高野ゆらこ。

小御門優一郎が抱えていた「本流コンプレックス」

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あらすじを読んで、ふと気になって小御門優一郎のプロフィールを確認してみた。小御門は、大学在学中に演劇製作を始め2015年に劇団「21g座」を旗揚げ。大学卒業後は、松竹株式会社に入社し、歌舞伎座の劇場運営や宣伝業務などに従事してきたという。

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そして、2020年4月、コロナ禍の緊急事態宣言下で「劇団ノーミーツ」を旗揚げ。人と人との間に距離が求められ、演劇は不要不急なものとされ、表現者たちが行き場を無くす中、「オンライン演劇」という新たな表現方法を確立し、脚光を浴びた。2021年には「岸田國士戯曲賞」にもノミネート。はたから見れば、テクノロジーを使いこなし「演劇の新たな可能性を切り開く開拓者」として、向かうところ敵なし!という感じだ。

主人公は、まさに小御門のプロフィールそのもの。ご本人もnote(https://note.com/komikado_21g/n/n12098725b0c3)に赤裸々に書いているが、夢が叶うことはゴールではない。本作は、チャンスをものにした一人の演劇人の、等身大の「私小説」だ。そして、各業界で新たな挑戦を求められ、時代の狭間でもがく「はたらきびと」たちに刺さる物語だ。

「ノーミーツ」から始まった「夢」と「現実」の狭間

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通し稽古終了後、小御門と本作のプロデューサーである徳田公華氏に話を聞いた。

小御門は「ノーミーツを旗揚げして、いろんな方に仕事を回していただいて、“脚本家”という肩書をつける夢が叶いました。でも“感謝”はされても“評価”されているわけではないのかなと・・・。多分、僕は人よりちょっと世渡りが上手いだけなんです。そんな僕がプロとして続けることって、もしかしたら業界のためには悪いことなのかもしれない。でも、この気づきや感情を核としてものづくりをするのが、今の僕が作れる一番価値のあるものなんじゃないかと思って、この作品を書きました」と語る。

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ニッポン放送×ノーミーツで上演した『あの夜を覚えてる』『あの夜であえたら』で小御門と一緒に作品作りをし、ノーミーツの一員でもあったプロデューサーの徳田も「温めている作品があると見せてもらったら、あまりにも彼自身のことが書かれていたのでびっくりした」そうだが、一方で「共感して刺さりまくった」という。

2人が口にしたのは「本流コンプレックス」。良かれと思ってやっていることが、いわゆる「本流」「本物」と言われている人たちから見ると邪道に見えるのではないだろうか、という悩み。

『業界~恥ずかしながら、ボクらがこの世をダメにしてます~』稽古場レポート!小御門優一郎が赤裸々に描いた「本流コンプレックス」

一方で、本作はとても“演劇的”に作られている。自分のことを書いた「私小説」なら「文字の作品(小説)」として発表しても作品になるのでは?と思うが、この複雑な心理表現は、「演劇」で表現するからこそ伝わるものなのだと感じた。

また端々に、「この作者は本当に演劇が好きなんだな」と思える表現が詰まっている。この質問をぶつけると「やっぱり・・・演劇が好きなんですよね。劇中劇が出てきますが、そこに劇団ままごとさんやチェルフィッシュさんへのオマージュを入れされていただいたり。でも、やっぱり自分で演劇を作るのは本当難しいです」と笑っていた。

『業界~恥ずかしながら、ボクらがこの世をダメにしてます~』稽古場レポート!小御門優一郎が赤裸々に描いた「本流コンプレックス」

演劇愛を抱え、演劇業界を泳いでいるものの、自分は「本流」ではない。それでも「演劇」という表現が好き。そんな小御門の生み出したものに、俳優たちも共感しながら楽しんで演じているように見えた。

俳優たちは、主人公以外は複数の役を演じ分けるためほぼ舞台に出ずっぱり。舞台の両サイドには椅子が並べられ、衣裳や小道具でめまぐるしくキャラクターを切り替えてくる。大きな企業のプロジェクト会議や、なんとなくの知り合いが集まって人脈作りをするパーティ、大学時代の劇団仲間との関係・・・など、それぞれ解像度がめちゃめちゃ高い。

「登場人物は、僕が実際に見てきた人たちをモデルに描いています。演劇業界の話は、俳優の皆さんもご存じなので最初から解像度が高くて。クリエイティブの方は、打ち合わせシーンは映像を見せたりしてイメージを膨らませてもらいました。今回の出演者の皆さんは、半分ぐらいが僕のやってきたことを知ってくれている人たちなので、いろいろ汲んでいただきながら作れているという感覚があります」と小御門。

『業界~恥ずかしながら、ボクらがこの世をダメにしてます~』稽古場レポート!小御門優一郎が赤裸々に描いた「本流コンプレックス」

「自分の人生をトレースしたようなものを、人を集めて演じ直してもらうってなんかヤバいことなんじゃないかって思ったりもしたんですけど・・・」と言っていたが、徳田プロデューサーは「プロデュース公演なんですが、皆さん劇団員かな?!というぐらい熱が入っていて、稽古休みに『下北沢でチラシ配ってきます!』とか言ってくださっていたんですよ」と教えてくれた。カンパニーとしての結束は強固だ。人に好かれ、人に動かされているようで動かしてしまうところが小御門という“クリエイター”の神髄なのかもしれない。

本番が間近に迫り、作品が完成に近づくのを見て、徳田プロデューサーは「演者さんたちの気持ちが乗ってくると、刺さる角度がどんどん深くなってくるので(小御門が)落ち込んじゃったらどうしようと思ったりしていたんですが、そんな心配は無用で、どんどん生き生きしてきました(笑)。きっと、これからも彼は新しいことに巻き込まれつつ、コツコツ演劇を続けていくんだろうと感じました」と語る。

『業界~恥ずかしながら、ボクらがこの世をダメにしてます~』稽古場レポート!小御門優一郎が赤裸々に描いた「本流コンプレックス」

「本流コンプレックスみたいなものはずっと消えないんでしょうけど。このアウトプットを、客席から見た時素直にどういう感情になるんだろう?とドキドキしています。信じられないぐらい曝け出しているので、見ごたえのある作品になったと思います。サブタイトルやあらすじに僕的にフックをバラまいたつもりなので、ちょっとでも自分の話と思えた方に、ぜひ観ていただけたらなと思います」と小御門は言っていた。

本作のサブタイトルを見て、あらすじを読んだ時「そこまで自分下げしなくてもいいのに・・・」と思ったが、実際に作品を観て“分かって”しまった。

『業界~恥ずかしながら、ボクらがこの世をダメにしてます~』稽古場レポート!小御門優一郎が赤裸々に描いた「本流コンプレックス」

業界は違えど、小御門が描いた「本流コンプレックス」は大なり小なり新しいものを生み出そうとしている人の中にはくすぶっているのではないだろうか。筆者は、めちゃめちゃ刺さった。私の中にもある、こういう感情。思わず小御門に握手を求めたくなった。自分だけではないんだと勇気をもらえた。

生きるための業と書いて「生業」。業を抱えつつ、時代の狭間でタップダンスをするような男を見ながら自分が何を思うのか。ぜひ、劇場で感じてみてほしい。

(取材・文・撮影/エンタステージ編集部 1号)

公演情報

Tom’s collection vol.2『業界~恥ずかしながら、ボクらがこの世をダメにしてます~』
2025年2月28日(金)~3月2日(日) 東京・駅前劇場

【作・演出】小御門優一郎

【出演】
上谷圭吾
オツハタ
石山蓮華
イトウハルヒ
小早川俊輔
川合諒
上田操
武田紗保
渋江譲二

高野ゆらこ

【ローチケチケット購入ページ】
https://l-tike.com/play/mevent/?mid=741147

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この記事を書いた人

ひょんなことから演劇にハマり、いろんな方の芝居・演出を見たくてただだた客席に座り続けて〇年。年間250本ペースで観劇を続けていた結果、気がついたら「エンタステージ」に拾われていた成り上がり系編集部員です。舞台を作るすべての方にリスペクトを持って、いつまでも究極の観客であり続けたい。

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