江口のりこx松岡茉優、松尾諭×千葉雄大で現実と理想が交錯する『ワタシタチはモノガタリ』【レポート】】

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『ワタシタチはモノガタリ』舞台写真

2024年9月8日(日)に東京・PARCO劇場にて舞台『ワタシタチはモノガタリ』が開幕した。初日前日に公開ゲネプロと初日前会見が行われ、江口のりこ松岡茉優千葉雄大、松尾諭、横山拓也(作)、小山ゆうな(演出)が登壇した。

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『ワタシタチはモノガタリ』は横山拓也がPARCO劇場に初めて書下ろす作品

本作は、第27回鶴屋南北戯曲賞を受賞、劇作家としての高い評価を得ている作家の横山(劇団iaku代表)によるPARCO劇場への初書下ろし作品。小説家を目指すアラフォー女性が、学生時代の初恋相手で長年の文通相手だった男性との文通内容を元に書いた小説が大きな話題となるが、現実と理想の虚構が入り交じるその内容によって予想外の事態が巻き起こるファンタジックなラブコメディ。

演出は、2018年、第25回読売演劇大賞優秀演出家賞、小田島雄志・翻訳戯曲賞を受賞するなど活躍中の小山が務める。

出演は、小説家を夢見ながらWebライターの仕事をしている肘森富子に江口、富子の中学時代の同級生で初恋相手の藤本徳人に松尾。富子の理想の自分であるヒジリミコと、人気俳優の川上丁子の二役を松岡、富子のイマジナリー彼氏であるフジトリヒトと、現代アーティストのウンピョウの二役を千葉が演じる。

さらに、映画監督兼プロデューサーの間野ショージ役に入野自由、徳人の妻役などに富山えり子、文芸部顧問の大江田先生役などに尾方宣久、富子の友人ひかる役などに橋爪未萠里が出演する。

『ワタシタチはモノガタリ』舞台写真

舞台初共演の江口のりこと松岡茉優の相性はバッチリ

会見では、最初に初日を迎えた心境として、作・横山は「新作ということで、規模もPARCOさんということで大きいので、普通に緊張しています。新作を書けるというのは、どういう状況でも吐き気がするぐらい緊張します(笑)。このゲネプロで初めて劇場で観させていただくんですけど、ずっと心臓がバクバクしております」と緊張した面持ちで心境を告白。

演出の小山は「この大好きなPARCO劇場で横山さんの書き下ろし、そして本当に素晴らしいメンバーなんですけど、それぞれのちょっと今までと違った一面が見られるんじゃないかなと思っているので、そこをお客様と共有できるのをとても楽しみにしています」と期待を寄せた。

『ワタシタチはモノガタリ』舞台写真

そのキャストたちの違った一面について尋ねられると、小山は「稽古していけばいくほどそれぞれの方のいろんな面が魅力的に、繊細な部分だったりとか、わりとパワフルな部分だったりとか、こんな意外な面もあったんだなと思わされるような瞬間が稽古の中でたくさんありました」と答えた。

江口は「明日から初日なんですけど、体調に気を付けて最後まで頑張ろうと思ってます。よろしくお願いします」と意気込みを披露。

二役を演じる松岡は、その見どころとして「今回、私と千葉さんは2つの役をやらせていただくんですけど、その役がどういうふうに2人がやることで作用するのかっていうところも楽しみにしていただいて、劇場でお待ちしております」とアピールした。

千葉は、背景にもなっており、様々な演出に用いられる紗幕を指しながら「なんかこういうのも面白いです」とあっさりしたコメントをすると、松尾から「言葉が足りない」とツッコミが飛び、会場から笑いが起こった。笑いの中で、改めて千葉は「すみません、今日は早く帰って初日に備えて寝ようと思います(笑)」と気を引き締めた。

松尾は「明日から初日ということで比較的リラックスしてたつもりなんですけど、横山さんが吐きそうな気持ちで公開稽古を観ると聞いて、吐きそうな気持ちで観る人の前でやるのはすごく嫌なので、できたら帰ってもらいたいです」と冗談を飛ばすと、横山も笑顔を見せた。

『ワタシタチはモノガタリ』舞台写真

現実と理想のキャラクターたちが交錯するという作品において、役作りを問われると、江口は「たくさん稽古はしてきたんですけれども、その中でも日々発見することとか、やっぱりわからないなっていう部分も出てきたりとかがあるんですね。なので、全体を通しての話になるんですけれども、本番の中でも毎回何か発見していけたらいいなっていう思いで今もいます」とコメント。

松尾は「想像上の人たちとの芝居をするわけなんですけど、それは映像ではなくて、舞台での表現として、そういう関係性が面白いです。その中で、表現できることがいっぱいあるとやりながら感じるところ多いので、本番中にいろんな発見があったら、どんどん膨らんでいくんじゃないかなと思っています」と答えた。

『ワタシタチはモノガタリ』舞台写真

現実世界の役柄と、江口と松尾が演じる役柄の理想の存在という二役を演じる松岡と千葉。

『ワタシタチはモノガタリ』舞台写真

舞台が久しぶりという松岡は「舞台の台本という1冊の本ををみんなで1ヶ月以上かけて話し合いながら組み立てていくっていうのが本当に楽しくて」と稽古を振り返りながら、「その中で自分は空想上の一応理想の人物というプロフィールではあるんですけど、私の中では富子さんが作家として描かれた登場人物の中で1番お気に入りのヒロインだと思っているので、富子さんと江口さんのことを愛して楽しみたいなと思っています」と思いを明かした。

千葉は、演じる役について「僕が演じる二役で、現実に存在する役の方が空想っぽいなって時もあるので、現実と空想ってわかんないなって思っています。その中でも、お客様の反応がわからないのは現実の方で、難しいです」と解説。

舞台では初共演となる江口と松岡。お互いの印象を尋ねられると、江口は「茉優ちゃんには助けられることが本当に多くて。稽古でも、芝居している時もそうですし、芝居が終わって自分の席に戻った時に隣でさっと何か食べ物を出してくれて、栄養補給してくれる。何か本当に茉優ちゃんがいてくれて助かったなっていうことがとてもあります」と感謝を述べた。

その江口の言葉に、松岡は「嬉しくって、どうしましょう」とほほを赤らめると、江口に対して「役柄的にもよくお話するんですけど、富子さんが喜んでると私たちも嬉しいし、富子さんがしょんぼりしてると私たちもしょんぼりしちゃうんです。あと2ヶ月一緒にいられるので、江口さんが喜ぶことをたくさん考えていきたいです」と打ち明けた。

『ワタシタチはモノガタリ』舞台写真

最後に、キャスト4名からメッセージが送られた。江口は「この作品は難解なものではないので、私としては大人だけじゃなく子どもにも観てもらいたいという思いがあります。劇場に来てもらって、劇場で芝居を観るのって楽しいなって思ってほしいです」と期待を抱いた。

松岡は「この作品では、根っからの悪人みたいな人が1人も出てこなくて、だから慟哭するような苦しいシーンっていうのがないんです。だからこそ、この稽古の1ヶ月間、1度も悲しい気持ちにならず、ポジティブな気持ちで過ごすことができました。なので、劇場に来てくださるお客様にもそんな温かい気持ちで帰っていただけるように努めます」と力を込めた。

千葉は「脚本を初めて読んだ時と今とでは、わりと抱いた印象がどんどん変わっていったので、お客様のご感想がすごく気になります。なので、たくさんの方に観ていただいて、ご感想いただきたいなと思います」と呼びかけた。

そして最後に、松尾が「この作品は思春期を過ごした人なら誰でもちょっと思い当たることがあるなというエピソードがどこかに散りばめられています。もちろん若い人もそうですし、お年を召された方も、ちょっとキュンとするところがあるんじゃないかなと思います。そして、ラブコメなので、クスッと笑うところがあったら、そこは声を出して笑ってほしいなと思います」と本作の魅力を挙げながら会見を締めた。

全編を通してユーモアにあふれる胸キュンなファンタジック・ラブコメディ

中学時代の同級生で、長年に渡って文通を行っている富子(江口)と徳人(松尾)。大学卒業を控えていた2人がお互いに手紙を交わすところから物語が始まる。

富子は大学生のうちに小説家としてデビューできなかったことを悔やみ、東京でフリーライターとして創作活動に励むことと、もしこのまま独身で30歳になってしまったら自分と結婚してほしいと、徳人へ手紙で伝える。

『ワタシタチはモノガタリ』舞台写真

しかし、徳人は30歳を迎える年に別の女性と結婚。その結婚式で再会を果たした2人。富子は徳人への想いを隠しながら祝福し、徳人に宛てた手紙をすべて返してもらう。

富子は、その手紙を元に<富子>を<ミコ(松岡)>に、<徳人>を<リヒト(千葉)>という理想の自分と、人気のイケメン現代アーティストのウンピョウ(千葉)をイメージしたイマジナリー彼氏とに置き換えて、小説『これは愛である』としてネットに投稿する。

これがまさかの大評判となってしまう。さらに、人気俳優の丁子(松岡)もファンと公言するほどの話題となり、いよいよ出版、そして映画化と動き出すのだが・・・。

『ワタシタチはモノガタリ』舞台写真

舞台前後を仕切る大きな紗幕が目を引くステージセット。その紗幕の前が富子たちの現実世界で、奥が小説『これは愛である』の世界と仕切られており、現実と虚構の境界線がストーリーの進むごとに交錯していくという不思議な世界観を作り上げている。さらに、その紗幕への映像投影や、回転舞台などのPARCO劇場らしい豪華なセットも駆使する小山の演出で、横山のファンタジックな物語の世界がステージ上に実現されている。

富子を演じる江口は、夢を求めるピュアなリアルで等身大の女性を好演。イマジナリー彼氏のリヒトとはかけ離れ、家庭を持った40代男性の徳人を軽妙に演じる松尾。この2人の関西弁による絶妙な間の掛け合いは常にクスッとした笑いを誘い、ラブコメディとしての魅力を存分に打ち出している。

そして、確かな表現力を持つ松岡と千葉は、イマジナリーな存在としてラブリーな虚構の世界で生き生きと存在し、一方で現実世界での人物を巧みに演じ分け、物語に大きな幅をもたらしている。

『ワタシタチはモノガタリ』舞台写真

この4人をメインに、入野らキャストが演じるキャラクターたちが交わることで、全編を通してユーモアにあふれる胸キュンなラブコメディとして観客を引き込み、そして登場人物である「ワタシタチ」の「モノガタリ」が、観客一人一人の「モノガタリ」を想起させるような感動のラストへと繋がっていく。

『ワタシタチはモノガタリ』舞台写真

舞台『ワタシタチはモノガタリ』は、9月30日(月)まで東京・PARCO劇場にて上演後、10月5日(土)・10月6日(日)に福岡・キャナルシティ劇場、10月11日(金)から10月14日(月・祝)まで大阪・森ノ宮ピロティホール、10月18日(金)・10月9日(土)に新潟・りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場にて上演。

(取材・文・撮影/櫻井宏充)

舞台『ワタシタチはモノガタリ』公演情報(チケットなど)

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この記事を書いた人

演劇、海外ドラマ、映画、音楽などをマルチに扱うエンタメライター。エンタステージ立ち上げからライターとして参加し、小劇場から大劇場のストレートプレイにミュージカル、2.5次元、海外戯曲など幅広いジャンルにおいて演劇作品の魅力を日々お伝えしています!

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