2024年2月22日、東京・シアター1010にて舞台『ナイトメアホスピタル2024』が開幕した。レジェンドステージ代表・黒谷通生による総合監修のもと、劇団ホチキス主催・米山和仁が脚本・総合演出を務め、2020年に初演を果たした注目作の2024年バージョンとなる今回。主演をSpesiaLの和田優希が務める他、キャストは一新され、演出もパワーアップしている。
舞台はバレンタインデーが近づく2月、ヤクザ組織に所属するチンピラ・赤井田祐三が入院する、とある隔離病棟の一室。 和田優希演じる祐三は、お腹がまるで妊婦のように大きくなってしまっていた。医者の古賀瑠演じる木野寺実によれば、祐三は想像妊娠をしてしまったという。
だが、男が想像妊娠をするなんて現実的ではない。祐三と同じくチンピラの篠原孝文演じる八千代勇は笑い飛ばし、祐三も医者を訝しんでいる。
祐三のことが心配でたまらないのは、青木志穏演じる妻の赤井田恵だ。とある理由から祐三との結婚を決意した彼女は、始終祐三を献身的に支える。そのけなげな姿が客席の胸を打つが、思わしくない状況にいらだつ祐三は冷たい態度。
そんなある日、祐三は激しいお腹の痛みを訴える。気絶しかける祐三。やがて彼のお腹から飛び出したのは、千井野空翔演じるゴシックな出で立ちの青年!彼はなんと、「魔界の王」であった。
児玉久仁子演じる魔王の母・セリーヌディオンヌ魔蛭は、一人の男に魔王のサポートを任せ、人間界に送った。木村来士演じる露木魔佐人である。彼が知恵の実を与えると、生まれたての魔王はたちまち言葉を話し出す。
いわく、魔界の王が真の王となるには、人間界で生まれなおし、自身を生んだ男に「七つの大罪」を犯させる必要があるという。対価として大金を受け取り、祐三は協力的な態度を見せる。かくして、魔王と露木、そして祐三による奇妙なミッションが始動した。
価値観の違いから最初はいがみ合っていた祐三と魔王。しかし、不器用ながらも、その心中や奥深くにある思いを互いに知り認め合っていく中で、次第に友情を育んでいく。根底にある真っすぐなところは、共に通じるものであったらしい。
この作品の登場人物たちはみな、どこか共感できて寄り添いたくなってしまうような、(悪魔も天使もいるが)なんとも人間的な魅力を兼ね備えている。そしてそんな彼ら一人ひとりの関係性とその変化は、物語の大きなみどころだ。
祐三と魔王だけではない。渡邉心演じる上泉順矢と、医者の木野寺との二人にも着目したい。ひょんなことから神の道に目覚め、科学の道を外れた元天才科学者の上泉。科学と非科学、相反する道を行く彼らの浅からぬ因縁とはいったいどのようなものなのか。木野寺が上泉に抱く思いとは。
また、武藤晃子演じる天使の英聖子は、とある悪魔と繋がりがあるようだ。天使と悪魔、そして人間という、ファンタジックでユーモア溢れる世界観、そして種族間の関わり合いも楽しみたい。
世界観そのものがすでにユーモアたっぷりな本作だが、そのストーリーもまた面白い。ワンシチュエーションであるがゆえのスピード感が気持ちよく、客席はすぐに物語に引き込まれる。登場人物たちのテンポの良い掛け合いも必見。若手キャストたちの場を率いる勢いが頼もしく、経験豊富なキャストたちの実力と安定感に納得させられる。
エンターテイメントとしても非常に高い完成度を誇る本作。世界観にぴったりな春日井貴博による楽曲とそれに乗せたダンスパフォーマンスのタイミングは絶妙。鮮やかでスタイリッシュなナンバーが、客席のボルテージを上げてくれる。ステージを隅々まで活用した舞台演出は、趣向を凝らしたギミックが楽しい。そして世界観は極めてファンタジックなものでありながら、時折「人間界の」俗っぽさがのぞくところにクスリとしてしまう。しかしながら世界観は決して壊れてしまうことがないのが巧みだ。
一筋縄ではいかない登場人(?)物ばかりだが、彼らは溢れる情とあたたかな愛をもって、関わり合うことを諦めない。器用ではないが、そこがまたいとおしい人間・悪魔・天使たちのことを、きっと好きになってしまうはず。カーテンコールを迎えるころには、「推しキャラクター」ができているかも。
舞台『ナイトメアホスピタル』は2月28日(水)まで東京・シアター1010にて上演。上演時間は約1時間50分を予定(休憩なし)。
(取材・文・撮影:遥咲貴)
コメント
◆和田優希
今回僕が演じさせて頂いた赤井田格三くんは、とてもぶっきらぼうで素直じゃなく不器用な男です。でも演じていくうちに、祐三の内にある根の真っすぐさを知りました。祐三の数々の問題行動は根の真っすぐさと、不器用さが釣り合ってないからこそ起こってしまうことなんだなと思っています。「嫌なやつなはずなのに、根の真っすぐさが見えるから、何故か完全には嫌いになれない!」そのように思って頂けたら幸いです。同時に和田優希自身も祐三と共に、自分自身のいろんな感情を知りながら歩いていけたらと。赤井田祐三、和田優希、そしてこの舞台この座組が千穐楽まで無事走り抜けられるよう精進して参りますので、改めて応援の程よろしくお願い致します。
◆千井野空翔
今回、僕自身初の外部作品に出演させていただくので不安でいっぱいでした。温かいスタッフの皆さん、共演者の方々に助けて頂きながら無事今日の日を迎えることができました。今はホッとしています。 魔界の王役と聞いた時は、最初はてなマークが5個ぐらい頭に浮かびました。程古を重ねていくうちに、こんな魔界の王だったら面白いな!と自分なりに役について考えるようになり、演じることが自然と楽しくなっていました。演出家さんを初め、共演者の方々にたくさんのアドバイスをいただき、自分なりの“魔界の王”を作り上げられたと思います。 僕自身17歳になって一発目の舞台作品になります。応援してくださる皆さんに久しぶりにお会いできるので、心からわくわくしています。2024年の良いスタートが切れるように頑張りますので、千井野空翔をこれからもよろしくお願いします。
LEGEND STAGE PRODUCE『ナイトメアホスピタル2024』公演情報
スケジュール
2024年2月22日(木)~2月28日(水) 東京・シアター1010
スタッフ・キャスト
【作・演出】米山和仁
【音楽】春日井貴博
【総合プロデュース】黒谷通生
【キャスト】和田優希 千井野空翔 渡邉心 木村来士 古賀瑠 青木志穏 篠原孝文 小玉久仁子 武藤晃子
【公演公式サイト】 http://legendstage.jp/nh2024/
【公式X】@LSnh2024