2022年12月、劇団アレン座の舞台『点滅』が都内3か所の劇場で上演された。場所は新宿サンモールスタジオ、アトリエファンファーレ高円寺、下北沢の小劇場楽園。師走の約一か月間全20ステージを、栗田学武、磯野大、竹中凌平、來河侑希の劇団員のみで駆け抜けた。
來河侑希が主宰する劇団アレン座第9回本公演となる本作は、劇団の人気シリーズである舞台『いい人間の教科書。』(以下、イイショ)をベースに、座付演出・脚本家の鈴木茉美が書き下ろした戯曲である。エチュードで作られる台本のないイイショとは対照的で、共通する部分もあるが登場人物やストーリーは大きく異なっている。
物語は、4人の男が狭い空間に閉じ込められているところから始まる。閉じ込められた一ノ瀬桔平(栗田)、広田慎治(磯野)、川上健太(竹中)、藤野靖明(來河)ら。突然、祝詞のような言葉を発し、宗教めいた謎の儀式を始める。あやしげな動きを終えたあと、彼らは“そこにいない何者か”の反応をうかがう。この部屋から解放される条件は「いい人間を決める」こと。男たちは大げさに、時にコミカルに、あの手この手をつかって脱出を試みていくことになる。
川上と藤野がくり広げる漫才に一ノ瀬が笑いながらツッコミを入れるシーンが印象的で、これはアレン座のイベントなどで彼らが見せている普段の姿に近いように思う。役どころと本人に共通項があることで演技がより自然体に感じられる場面だ。
極限状態の中にいるのかと思いきや、4人に切羽詰まったような焦りは見られない。ささいな小競り合いはあるものの、我先に出ようと揉めたりもしない。異様な状況をどこか他人事のように受け入れる男たち。スマホもパソコンもない外の情報が遮断された空間で、トランプでもしませんかと声をかけたり、ゆっくりコーヒーを飲んだりラーメンを作ったり、淡々とした時間が過ぎる。
外へ出ることを渇望し、「いい人間とはなにか」を必死に絞り出そうとするイイショと最も異なる点はここだ。出られないならそれでもいいとあきらめ、ここで暮らすのも悪くないと言い切ってしまえるのはなぜか?奇妙な違和感を覚えつつ、先の展開に引き込まれていく。
そうして時間を持て余した4人は雑談交じりに仕事や家族のことを話し始める。コラムニストの一ノ瀬、教師の広田、元バンドマンの川上、映画を作りたい藤野。彼らがなぜ外に出ることに消極的なのか、それぞれの抱える事情が明かされ、次第に「出なくてもいい、出たくない理由」が見えてくるのだ。
回想シーンで俳優はメインの人物以外にそれぞれ三役を担当している。中でもロック風の衣装でエアバンドをする場面は観客の笑いを誘い、竹中凌平の生歌は小劇場をライブハウスのような感覚にさせた。他にも竹中の祖母役、磯野大の母親役などは、他ではあまり観られない自劇団ならではの役どころだ。竹中がアレン座に加入後、この4人では初となる劇団員のみの公演であり、下北沢では初上演となった。年末特有の盛りだくさんなイベント感もありつつ、これまでの自分を振り返るのにぴったりの作品といえる。
なぜこの4人が集められたのか。彼ら自身も驚き、歓喜するラストシーンはぜひDVDで確かめてほしい。劇中に流れるキャッチーな曲を思わず口ずさんでいる自分に、クスっと笑ってしまうに違いない。日頃、自身のことを無力な人間だと感じている人にとっては、「また頑張ってみよう」と思えるだろう。
劇団アレン座第9回本公演舞台『点滅』はDVDが発売中。本編95分のほか、141分の特典映像として稽古場を撮影したメイキングと、公演後のアフターイベント「Allenのスジナシトーク」が収録されている。
(文:スギウラ ユカ/舞台写真:オフィシャル提供)
劇団アレン座 第九回本公演『点滅』DVD情報
2022年12月公演DVD発売中
本編+特典:メイキング
【演出・脚本】鈴木茉美
【キャスト】栗田学武、磯野大、竹中凌平、來河侑希
【公式サイト】http://allen-co.com/allen-tenmetsu/
【公式通販ショップ】Allen suwaru Official Online Shop