稲垣吾郎が主演する舞台『多重露光』が2023年10月6日(金)に東京・日本青年館ホールにて開幕した。初日前には舞台挨拶と公開舞台稽古が行われ、出演する稲垣吾郎、真飛聖、相島一之、演出の眞鍋卓嗣が思いを語った。
本作は、稲垣が演劇界で注目を受けている脚本の横山拓也と演出の眞鍋と初タッグを組むオリジナル作品。憧れの女性への思いや家族への思いなど多くの思いが重なり合い、一気に表出するとき、驚きの結末を迎える。
主人公の山田純九郎を演じる稲垣は、演出の眞鍋について「今回初めてですが、とても俳優さんに寄り添ってくれて優しいです。怒った顔を見たことがない。本当に穏やかな現場で、みんなでディスカッションしながら進めていました」と振り返る。稽古ではワークショップも行ったそうで、稲垣は「僕は初めての経験だったんですよ。ちょっと恥ずかしかった(笑)。お客さんもいないのに誰に向けてやっているのかって。パントマイムで大縄跳びをしたり、連想ゲームとか色々とやりました」と明かした。
一方、写真館を訪れる菱森麗華役の真飛は「(眞鍋は)演じたことに対して否定をせず、必ず肯定をしてくださり、プラスアルファ眞鍋さんの意見を言ってくださるので、道標をくれてわかりやすかったです。暖かい方なので、みんなを大きな船に乗せてゆらせてくださっているような感覚を覚えていました」と話した。
純九郎の父・建武郎役の相島も「気がついたら世界が立ち上がっている。眞鍋マジックだよね。すごく繊細に作られているんですが、『いいですね』と言われているうちに出来上がっている」と稽古を回想すると、稲垣も「無理にパズルをはめているのではなく、はめられている感じがある」とその演出力を絶賛した。
そんなキャストたちの言葉を聞いて、眞鍋は「非常にやりやすかったです。一緒になって考えてくださって、人柄も皆さん良くてチームワークもバッチリです。皆さんが作品に向かってああだ、こうだと話している時間があって、創作現場としてもいい時間でした」と思いを述べた。
今回、町の写真館の2代目店主という役柄を演じる稲垣だが、プライベートでも大のカメラ好き。この日も、相島が小道具として首から下げていたカメラを「1950年代のライカのM3という伝説の(カメラ)。名機です」と説明すると、相島からは「(稽古場でも)稲垣さんがレクチャーしてくれるんですよ。専門的な言葉がポロポロ出てくる。どれだけカメラが好きなんだか」と笑う。さらに熱弁を繰り返す稲垣は、「僕の家にも暗室があるんです。フィルムカメラが好きすぎて。赤色灯に包まれながら、写真を現像して楽しんでおります」と告白していた。
最後に稲垣は、「この作品は誰もが抱えている過去への思いみたいなものに優しく寄り添ってくれる物語だと思います。見終わった後、改めて家族の大切さ、自分を愛することの大切さを感じていただける作品になっていると思います」とアピールして会見を締めくくった。
母の跡を継ぎ、写真館の2代目店主となった山田純九郎は、戦場カメラマンだった父にはあったことがなく、街の写真館の店主として人気のあった母からは理不尽な期待を背負わされて育ってきた。彼にとって写真は、常に周りにあるものであると同時に、自分を苦しめてきたものでもあった。
ある日、写真館に、幼い頃に愛に溢れた家族写真を撮っていた裕福な同級生一家の“お嬢様”出会った麗華が訪ねてきた。息子との家族写真を撮って欲しいのだという。
物語の全ては写真館の中で起きる。ワンシチュエーションではあるものの、物語は決して単調ではない。言葉の掛け合いによってどんどんとその世界が広がっていくのを感じた。
45歳になっても、未だ母の言葉にとらわれ続けている純九郎は、麗華とその息子との関わりの中で、自分が求めていたものを自覚し、少しずつ変わっていく。しかし、その先に待ち受けていたのは衝撃的な展開だ。
稲垣の伸びやかな演技が光る本作。本人もカメラ好きと公言しているだけあり、カメラの扱いやカメラについて説明する姿はなんとも自然。そもそも純九郎という役は、横山によるあてがきだそうなので、稲垣の素顔を彷彿とさせる。また、真飛が演じる麗華は、シングルマザーとして独り立ちをしようと奮闘しつつも、明るさを絶やさない魅力的な女性に仕上がっていた。
相島演じる建武郎も強烈。登場シーンは決して多くはないものの、そのセリフの端々に彼の人生観が透けて見えるほど、背景を背負った人物に作り上げられていた。稲垣が会見で語っていたとおり、家族の在り方や自身の生き方について考えさせられる作品となっている。
舞台『多重露光』は、10月6日(金)から10月22日(日)に東京・日本青年館ホールにて上演。
(取材・文・撮影/嶋田真己)
モボ・モガプロデュース『多重露光』公演情報
上演スケジュール
2023年10月6日(金)~10月22日(日) 日本青年館ホール
スタッフ・キャスト
【脚本】横山拓也
【演出】眞鍋卓嗣
【出演】
稲垣吾郎/真飛聖 竹井亮介 橋爪未萠里/石橋けい 相島一之
ほか
あらすじ
「生涯かけて撮りたいものを見つけなさい」
親からの漠然とした言いつけに、僕は呪われている。
町の写真館を細々と営むカメラマンに、本当に撮りたい写真なんかあるわけない。
鬱々とした日々の中、突如現れたのは、あの家族写真に写る“お嬢様”だった。
山田純九郎(稲垣吾郎)は、写真館の2代目店主。戦場カメラマンだった父(相島一之)には会ったことがなく、町の写真館の店主として人気のあった母(石橋けい)からは理不尽な期待を背負わされた子供時代。
写真館で育ち、写真に囲まれた人生は、常に写真に苦しめられてきた人生でもあった。
毎年、愛に溢れた家族写真を撮る裕福な同級生の一家があった。
45歳になった純九郎の元に、その憧れの一家の“お嬢様”であった麗華(真飛聖)が訪ねてきた。
純九郎は、かつて強く求めた家族の愛情に触れられそうな予感をもつ。親の威光、無関心、理不尽な期待、そして、隠し持った家族写真・・・それらが多重露光の写真のように純九郎の頭の中に常にあって、幸せという未来の焦点がなかなか合わない。幼馴染(竹井亮介)や、取引先の中学校教員(橋爪未萠里)が何かと気にかけてくれるが、純九郎に欠落した愛情が埋まることはなかった。純九郎は、自分の求める愛を、人生の中に収めることができるのだろうか。
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