2023年9月より東京・新国立劇場 中劇場にてDaiwa House presentsミュージカル『生きる』が上演される。その製作発表が6月20日に行われ、市村正親、鹿賀丈史、村井良大、上原理生、高野菜々(音楽座ミュージカル)、実咲凜音、福井晶一、鶴見辰吾が登壇した(登壇予定だった平方元基は体調不良により欠席)。
本作は、黒澤明監督が1952年に発表した映画『生きる』を原作に2018年に誕生した、日本発のオリジナルミュージカルで、定年を間近にした平凡な男が、死を目前にしながらも最後に見つけた夢を実現するために、残り半年の人生を懸命に生き抜く姿を描く。2018年の初演時には「国産ミュージカルの記念碑的力作」と絶賛を受け、2020年に再演、コロナ禍に翻弄されながらも、全38公演を完走した。そして2023年、待望の再々演を果たす。
初演より引き続き主人公・渡辺勘治を演じるのは、ミュージカル界のレジェンド、市村と鹿賀。さらに、渡辺光男役を村井が続投する。その他メインキャストの多くが一新され、平方/上原(Wキャスト)、高野、実咲、福井、鶴見ら実力派キャストが名を連ねる。演出は日本を代表する演出家の宮本亞門、脚本・歌詞は数々の話題作を手掛ける高橋知伽江、作曲&編曲を昨年度より2年連続トニー賞ノミネートの作曲家・ジェイソン・ハウランドと、クリエイター陣も再集結する。
製作発表は、新キャストも含めた歌唱披露からスタート。上原の「人生の主人になれ」、高野の「ワクワクを探そう」、鹿賀の「二度目の誕生日」、村井の「あなたに届く言葉」、福井「金の匂い」、そして市村の「最後の願い」と名ナンバーの数々が披露。バラエティー豊かなナンバーの数々はそれぞれの役柄の特徴と魅力を見事に描き、本作の初演・再演の感動が蘇るほどの圧倒的な歌唱パフォーマンスによって、会見に集まった一般参加者からも大きな拍手が起こった。
歌唱披露が終了後し、会見では、まず宮本からのコメントとして「いよいよ再々演、ミュージカル『生きる』が始まります。私は本当にこの作品が好きで、毎回心が洗われて、生きるための根源が詰まっている作品だと思っています。ようやくコロナ禍が明けてきました。次の未来に向けて何を大切に、そして何を軸に生きていくか、そんなテーマが入っている作品です。そしてもちろん市村正親さんと鹿賀丈史さんです、再演ごとに深くなっていく2人が今回はどんなアプローチで来るのか。見逃すことができないほど一瞬一瞬、感動に満ちたドラマが繰り広げられます。新しいキャストも増えて新たな『生きる』が生まれます。劇場でお待ちしております」と司会者より読み上げられた。
続いては、役者生活50周年を迎えるミュージカル界のレジェンドである市村と鹿賀からの挨拶が。市村は「初演ではまだコロナもない時で、稽古場では毎日、台本がどんんどん変わっていくという非常にスリリングな稽古でした。いざ幕が開くと、お客さんから爆発的な拍手を頂いて、やっぱりいい作品なんだなとなりました。再演はコロナ禍でございまして、コロナに痛めつけられている雰囲気の中でやっている『生きる』が、それはそれなりに合っているなという感じがしました」と語る。
そして、「今回は、コロナ禍もいくらか収まって、お客様もバッチリ入れる状態になっていますし、何よりも濃いキャストが揃っているので、この濃さに僕が霞んでしまうんじゃないかと(笑)。霞まないようにしっかりやっていきたいと思います」と気を引き締めた。
鹿賀は「再々演ということですけども、3度できるという喜びに本当に浸っております。初演からの世界の情勢や状況の変化に、日本はどうやって生きていくんだろうかとか、直面する“生きる”ということにみんなどうしていいものかと戸惑っているかと思います。それは我々も同じで、そういう中であればこそ“生きる”という非常にシンプルなテーマではありますが、これ以上深いテーマはございません。ぜひ劇場に足を運んでいただいて、この時期に我々日本人はどうやって生きていこうか、前向きに“生きる”ということを捉えていただくと、我々出演者としてもそれ以上の喜びはありません。そういう意味でも、今回も共演者も変わりましたので、お芝居も少し変わったりすると思いますけども、感動の生きる力というものをお持ち帰りいただきたいと思っております」と訴えた。
再演より引き続き渡辺光男を演じる村井は「前回、まさにコロナ禍で上演できるかできないかギリギリの瀬戸際の中、本当にキャスト全員がギリギリまでマスクをして、お客様の収容も50%状態でありましたが、毎日公演ができるという喜びを感じながら上演していたのを覚えています。無事に一日も欠けることもなく、誰一人欠けることなくゴールができた感動を今も覚えております」と振り返る。
そして、「再々演も携わらせていただくことになりまして、あの時代を経たからこそ、これから前へ進んでいくエネルギー、特に渡辺光男はこれからの日本を生きていく青年なので、力強く、そして混沌としている中での明るく前向きに家族の幸せを願いながら毎日生きている青年ですので、特に若い方にも観ていただきたいですが、老若男女に響くメッセージがたくさんある作品ですので、ぜひいろんな方に観ていただいて、この2023年版の『生きる』を皆様の心に届けたいと思います」と意気込みを披露した。
小説家役の上原は「再演を観させていただいていて、素直に感動したのを覚えています。あの黒澤監督の映画を見事に3次元の舞台に作り上げたなと。日本のオリジナルミュージカルとしてすごくクオリティーが高いなと感じて、この作品をやらせていただけるなら小説家の役かなと思ってたところでしたので、お話を頂いてびっくりしました。今はとても嬉しい思いでいっぱいです」と心境を打ち明け、作品の印象を「“生きる”ということを描いた作品で、戦後の復興の途中でもっと豊になっていこうというところで、何を大切にしなきゃいけないのかなというのをストレートに投げかけてくれる作品だなと思います。それは舞台上の世界と混迷の今を生きる我々にもそのまま通じることなんじゃないかなという風に感じています。自分がどう生きていくのかというのを投げかけてくれる作品で、それがすごく大きな魅力です」と語った。
さらに演じる役については「小説家という役はある意味で渡辺勘治さんと180度違う人生を歩んできた人物なのかなというという感じでいます。勘治さんのその生きるという姿勢を浮き彫りにするためにあえて陰の部分を描く人物なのかなと思ってますので、そのあたりを深めていけたらいいなと思っております」と解説した。
音楽座ミュージカルに所属し、今作で外部公演に初出演する高野は「正直、オファーを頂いた時にはすごくびっくりしました。劇団を超えてオリジナルミュージカルを作る現場に携われることはすごく光栄ですので、不安のほうがいっぱいですけれども、作品の一部になっていけるように頑張りたいです」と意気込みを語った。
また、作品については「みんなが何か一つ目標に向かって必ず生きていかなければいけないということを、物語の中でテーマにしているのではなく、どこにでもいる男性が自分の人生をどう生きるかに真正面に向き合った時に、未来というものは開けるんだっていうプレゼントのようなものを感じて、すごくいい作品だなって思いました。死生観をテーマにしているのにもかかわらず、エンターテイメントでダンスあり、歌ありですごく華やかな世界になっていたのが、そのギャップもこのミュージカルの魅力だなという風に拝見させていただいて感じました」とコメント。
さらに役柄について「渡辺勘治さんに大きなきっかけを与える女性ですが、大きなきっかけと言いつつも大層なものではなく、日常のどこにでもすごく大切なものが転がっているんじゃないかということを自分自身もよく感じているので、そういうことも胸に大切に演じさせていただきたいです」と抱負を述べた。
渡辺一枝役の実咲は、本作への出演に「この日本の名作である作品、舞台に参加させていただけると知ったときは本当に光栄に思いました。新しい作品に向き合うということは、やっぱりいつもワクワクします。新しい役、そして人との出会い、そしてまた新しい課題と出会える事って本当に幸せです」と喜びを露わにした。
また、初演を観た時の感想を「ダイレクトに心にメッセージ性が届く作品だなと感じて、観終わって、自然と涙が流れていました。悔いなく毎日一生懸命に生きているのかなというのを自分自身に問いかけたのをすごく覚えています。心へそれぐらい響いた作品でした」と振り返る。役作りについて「とても自分を持っていて、理想があって、意志の強い女性という印象です。これから作り上げていく段階ではあるんですけども、とよと一枝が今回はシングルキャストになって、新しく任せていただくということも新しいことだなと思っていますので、高野さんとは同い年で、同年代の仲間がいるというのはすごく嬉しいなと思いながら対称的な女性を作っていけたらと思っています」と期待を寄せた。
組長役の福井は、作品について「初演の時に観させていただいたんですけど、評判どおりの素晴らしい作品でした。最初は黒澤監督の作品がミュージカルになると聞いた時にどうなるかなと正直思ったんですけど、こんなにもミュージカルの題材に適しているんんだなということに驚きました。エンターテインメント性もあるし、しっかりとしたテーマもあるし、そういう印象があります」と語ると、出演が決まった時の心境を「大好きな作品だったので、お声がけを頂いた時は本当に嬉しかったです。それと個人的に、僕の所属していた劇団四季の大先輩である市村さんと鹿賀さんとずっと共演を願ってきたので、今回ご一緒させていただくことを本当に嬉しく思います。背中を見て、いろんなことを学びたいと思います」と打ち明けた。
そして、組長という役に関して「オファーを頂いた時に、ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』でラオウを演じていたんですけど、また暴力で支配する役なのかと思いました(笑)。全然役柄は違いますけど、普段はわりといい人格の役を演じることが多いので、鶴見さんにいろいろ教えていただきたいと思っています(笑)」とのコメントに、鶴見が「教えることはありませんよ」返すと、会場から笑いが起こった。
助役を演じる鶴見は、歌唱披露で出番がなかったため、突然「ゴンドラの唄」のワンフレーズを歌うと、「すみません。みんなが歌っているから歌いたくなっちゃいました(笑)」と茶目っ気を見せて、会場の笑いを誘った。改めて、初演と再演の感想として「初演の時に市村さんバージョンを拝見し、そして再演の時に鹿賀さんバージョンを拝見いたしました。涙が本当に止まらなくて、関係者席で泣いてるのが恥ずかしいから、カーテンコールでタイミングをずらしてハンカチで涙を拭いていたぐらい感動的な作品でした」と語った。
また、「黒澤監督が亡くなりまして、これで監督の作品には出ることがないんだなと思ってすごく寂しい思いをしました。でも、今こうやって『生きる』がミュージカルとして復活して、こういう形で黒澤作品に携われるとなって、本当に自分の夢が叶ったようですごく嬉しいです。でも、助役の私が歌うナンバーは「夢を見るのは愚かだ」というタイトルなんですね(笑)。本当に役者稼業は面白いもんでして、そういった面白い役者の皆さんの演技であり、歌であり、そういったものを楽しんでいただければと思います」と冗談を交えながら、喜びもひとしおという様子を見せた。
加えて、役柄に対して「コテコテの昭和の時代の役人気質のことなかれ主義で、とにかく渡辺勘治さんの夢を妨害しようとする役なんです。とにかくお二人のパワーに負けないように私もしっかり悪役を福井さんと共に演じていきたいと思います」と意気込んだ。
会場の記者から、渡辺勘治へひと言かけるとしたらどんな言葉をかけたいかと問われると、鹿賀は「人生、笑って笑顔であの世に行けて、よかったですね。ごくろうさんです」と答え、市村は「いいかんじ!です」とお得意のオヤジギャグを披露し、会場は笑いに包まれた。
そして、最後に市村と鹿賀の2人からメッセージが送られた。鹿賀は、黒澤が『料理の鉄人』に出演していた鹿賀を見て、映画に使えると言っていたというエピソードを交えながら、「そういうインパクトの強い仕事だったかなと思いますけど、それ以上に『生きる』もそうですし、ついこないだも、いっちゃん(市村)とゲイの夫婦役をやっていまして、舞台というのは本当に面白いものです。“生きる”ということを正面切っての舞台でして、本当にいろんな方に観ていただきたいという思いでいっぱいです。特にこういう時代だからこそ見ていただきたいと思います」と呼びかけた。
市村も、志村けんが初演を観て絶賛していたというエピソードを披露し、「楽屋に来てくれて、涙を流しながら『これが本当のミュージカルだ』とけんさんが言っていました。けんさんの誕生日のお祝いの会でも、来てる人みんなに『生きる』の宣伝をしてくれて、けんさんのお墨付きです。きっと彼も天国でまたこの芝居を見て、天国の人たちに向かってみんなで『生きる』を観ようと言ってくれると思います。そういうことを思い出しながら今回も演じられることを本当にありがたいなと思っています。生きてこの芝居に参加できるって事はやっぱりこれほど素晴らしいことはないんだなっていうことを皆さんにぜひお目に掛けたいなと思っています」と感慨にふけりつつ、「場所は新国立劇場、みなさん深刻にならないように」とのオヤジギャグに、鹿賀が「言わないと思ったのに・・・」と呆れ顔を見せながら、会場からの万雷の拍手と笑いの中、会見を締めた。
ミュージカル『生きる』は9月7日(木)から9月24日(日)まで東京・新国立劇場 中劇場にて、9月29日(金)から10月1日(日)まで大阪・梅田芸術劇場メインホールにて上演。
あらすじ
定年を間近にした役所の市民課長、渡辺勘治。
早くに妻を亡くした彼は息子夫婦と同居しているが、心の距離は遠い。
そんなある日、渡辺は、自分が胃癌であり残りの命が長くないことを知る。
自暴自棄になった彼は、居酒屋で出会った売れない小説家と夜の街に繰り出し、人生を楽しもうと試みるが、心が満たされることはなかった。
翌朝、市民課で働く女性・小田切とよに偶然出会う。太陽のように明るい彼女に惹かれ、頻繁に誘うようになる渡辺は「残りの人生を、1日でいいから君のように生きたい」と本音を語る。そして、とよが何気なく伝えた言葉に心を動かされ、渡辺は人生をかけた決意をするのだった。
公演情報
上演スケジュール
【東京公演】
2023年9月7日(木)~9月24日(日)
新国立劇場 中劇場
【大阪公演】
2023年9月29日(金)~10月1日(日)
梅田芸術劇場メインホール
出演
渡辺勘治:市村正親/鹿賀丈史(ダブルキャスト)
渡辺光男:村井良大
小説家:平方元基/上原理生(ダブルキャスト)
小田切とよ:高野菜々(音楽座ミュージカル)
渡辺一枝:実咲凜音
組長:福井晶一
助役:鶴見辰吾
佐藤誓
重田千穂子
田村良太
治田敦 内田紳一郎 鎌田誠樹 齋藤桐人 高木裕和 松原剛志 森山大輔
あべこ 彩橋みゆ 飯野めぐみ 五十嵐可絵 河合篤子 隼海惺 原広実 森加織
<スウィング>
齋藤信吾 大倉杏菜
安立悠佑
スタッフ
【原作】黒澤明 監督作品「生きる」
(脚本:黒澤明 橋本忍 小國英雄)
【作曲&編曲】ジェイソン・ハウランド
【脚本&歌詞】高橋知伽江
【演出】宮本亞門
ほか
主催
ホリプロ TBS 東宝 WOWOW
公式リンク
【公式サイト】https://horipro-stage.jp/stage/ikiru2023/
【公式Twitter】@ikirumusical