2022年6月4日(土)に東京・紀伊國屋ホールにて舞台『恭しき娼婦』が開幕した。本作は、20世紀最大の哲学者にして、現代思想の巨人ジャン=ポール・サルトルの戯曲に、奈緒と風間俊介が挑む意欲作。演出は栗山民也が担当する。前日にはプレスコールおよび取材会が行われ、奈緒と風間が登壇した。
物語の舞台はアメリカ南部。冤罪を被せられて逃走する黒人青年をかくまう娼婦のリズィーは、その街の権力者の息子であるフレッドから、その黒人青年か由緒ある家系の白人の男かどちらを救うか選べと迫られる。街全体で黒人が犯人と決めつける状況の中で、リズィーが決断を下す。フォトコールでは、奈緒が演じるリズィーと、風間が演じるフレッドがともに朝を迎え、リズィーの家で語る場面が公開された。
会見レポート
会見で、奈緒は「紀伊國屋ホールは初めてですが、お稽古で重ねてきたものとまた新しいことに、初日で出会えることを楽しみに、緊張はありますが一生懸命やりたいと思います」と意気込む。一方、風間も「僕自身もこの作品に出会えてよかったと思う素晴らしい作品になっていると思いますので、ただただ一生懸命やっていけたらと思っています。多くの人にこの作品を見てもらいたいと思っています」と思いを語った。
これまでTVドラマでの共演経験はあるものの、同じシーンはなかったという2人。奈緒が「いつか同じシーンでと思っていました。こうして2人でのお芝居場が多い作品の中で、濃厚な時間を過ごさせていただいていて、信頼しかありません。感情をぶつけたるシーンもあるんですが、そこにフレッドとして立ってくださるので、胸をお借りして飛び込んでいこうと思っています」と発言。
風間も「僕も信頼以外の何者でもないので、お互い思っているならばありがたいです。奈緒ちゃんは柔らかくて素敵な笑顔という印象が強いんですが、リジィーには今まで(風間が)抱いていた奈緒ちゃん像が微塵もなくて、役柄としてむき出しの感情のリジィーがいることに惚れ惚れします。僕も、役として対峙する時間をしっかり作らないとという背筋が伸びる思いです」と応じた。
また、演出の栗山について聞かれると、奈緒は「栗山さんからいただく演出の言葉一つ一つが胸に染み入ります。栗山さんが『台詞がないところで人は嘘をつけない』とおっしゃっていたのですが、お芝居をする上でものすごく大きい言葉をいただいたと思いました」と絶大な信頼を寄せる。
風間が「奈緒ちゃんが稽古中にカレーパンのようなものを突然食べ出したことがあって。それを栗山さんに指摘されたら『カレーパンじゃなくて、フィナンシェです』って答えていたのが印象的」というエピソードを披露すると、奈緒は「お話を聞いている最中に食べたから怒られるのかなと思ったら、栗山さんも一つ食べたかっただけだったようで(笑)」と真実を明かして笑いを誘った。
また、本作にちなんで「選択を迫られても、譲れないものは?」という質問が上がると、奈緒は「自分が自分として生きていけるかということは、選択をする時に大切にしています。今後、誰かのせいにしてしまわないかというのは自問自答しています。このお仕事を始めた時も、母は反対していましたが、私はきっとこの道を選択しなかった時に、挫けたら誰かのせいにしてしまうと思って、この仕事を選びました。“カレーパンじゃなくてフィナンシェだ”と訂正したこともそうですが(笑)、小さなことでも人の責任にせず、自分の責任で選択できるかというのは大事にしながら生きています」と回答。
反対に、風間は「きっとあると思いますが、あまりそれを核にしないで生きています。僕は常にぶれていたいという気持ちがあって。その都度、言うことが変わってもいいんじゃないかと思っています。きっと核にはギュッとした固いものがあると思いますが、その周りを柔らかいもので包められればと思います」と持論を展開した。
最後に、改めて奈緒は「今回は色々なテーマがある作品で、あらゆる差別が舞台上で起こります。お稽古を重ねていく中で、自分の中でも新しい発見がたくさんありました。きっと客席の皆さんたちは、私たちが想像し得ないような受け取り方をしてくれる方もいると思います。選択をしなければいけない時に、皆さんもどんな選択をするのかを考えて、何か感じ取って帰っていただけたらと思います」とアピール。
風間も「昨今、多様性と言われますが、それは『生きているこの世の中は色々なことが混ざっている』ということだと思います。男女の物語だと思ってくださる方がいていいし、人種の物語、階級の物語と思ってもいい、すべてが入っていると思ってくださってもいい。今を生きる人たちに見ていただきたい作品だと思っているので、ぜひ観に来ていただきたいと思います」と呼びかけた。
なお、開幕に向けて、演出の栗山も以下のコメントを寄せた。
◆栗山民也
とても開かれた、刺激的な稽古場でした。本当にあのサルトルが残した台本なのかと疑いたくなるほど、人間の感情を残酷に解剖していくダイアローグが綴られ、それを語る俳優たちのぐんぐんと裸になっていくむき出しのキャラクターが、面白く自由でした。
このコロナとロシアという信じられない暴挙の中、こんなことが起こるのか、これを許してしまっていいのかといった究極的な問いを何度も繰り返しながら、いつもよりグッと近い距離からドラマを見つめていました。ちょっとでも目をそらすと、とても大事なものを見失ってしまいそうな、そんな気がしていたからでしょう。人間について、この世界についての物語を、一人でも多くの人に人間の声で届けることができると、信じていたいのです。
『恭しき娼婦』は、6月4日(土)から6月19日(日)まで東京・紀伊國屋ホール、6月25日(土)・6月26日(日)に兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール、6月30日(木)に愛知・日本特殊陶業市民会館ビレッジホールにて上演。上演時間は、1時間40分(休憩なし)を予定。
(取材・文・撮影/嶋田真己)
『恭しき娼婦』公演情報
上演スケジュール
【東京公演】2022年6月4日(土)~6月19日(日) 伊國屋ホール
【兵庫公演】2022年6月25日(土)・6月26日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
【愛知公演】2022年6月30日(水) 日本特殊陶業市民会館ビレッジホール
スタッフ・キャスト
【作】ジャン=ポール・サルトル
【翻訳】岩切正一郎
【演出】栗山民也
【出演】
奈緒 風間俊介
野坂弘 椎名一浩 小谷俊輔 金子由之
【公式サイト】https://www.tbs.co.jp/uyauyashiki_shofu/
【公式Twitter】@uyauyashiki