三浦宏規が苦悩の美青年を熱演!フレンチロックミュージカル『赤と黒』公開ゲネプロレポート

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三浦宏規が苦悩の美青年を熱演!フレンチロックミュージカル『赤と黒』公開ゲネプロレポート

2023年12月8日(金)、東京・東京芸術劇場プレイハウスにて、フレンチロックミュージカル『赤と黒』が開幕する。スタンダールの傑作『赤と黒』を原作とし、主演を三浦宏規が務め、その開幕が待たれていた本作の公開ゲネプロが12月7日に行われた。

2016年にパリで初演されたのち、今春『Le Rouge et le Noir ~赤と黒~』と題して宝塚歌劇星組で日本初演を果たしたばかりの本作。演出を、世界各国で話題のミュージカル『SIX』の共同演出家として注目を集め、本作が日本初演出となるジェイミー・アーミテージが務めている。

舞台はナポレオンによる帝政が崩壊し、再び王政となった19世紀初頭のフランス。野心家で繊細な美青年ジュリアン・ソレル(三浦宏規)は、貧しい製材屋の末息子として虐げられながら育ち、町を支配するブルジョワへの激しい憎悪や嫉妬に燃えている。黒い僧服に身を包み、聖職者として出世する野望を抱いていた。

家庭教師としてムッシュー・ド・レナール(東山光明)に雇われると、レナール家の夫人ルイーズ(夢咲ねね)と禁断の恋に溺れ、その秘密がムッシュー・ヴァルノ(駒田一)によって暴かれ町を出たのちパリでラ・モール侯爵(川口竜也)の秘書として働くようになると、そこではラ・モール侯爵の令嬢マチルド(田村芽美)と関係を持つことになるジュリアン。愛による葛藤、苦悩、そして情熱。それらは、人々を、ジュリアンをどう変えていくのか。ストーリーテラーのジェロニモ(東山義久)が語る、ジュリアンの物語に目が離せない。

三浦宏規が苦悩の美青年を熱演!フレンチロックミュージカル『赤と黒』公開ゲネプロレポート

主人公ジュリアン・ソレルは、類まれなる美貌と頭脳を持ち、支配階級への嫉妬と憎悪に燃える、野心家で繊細な青年。その落ち着いた振る舞いからは、平民の出でありながら品すら感じさせるが、内には情熱の炎をめらめらと燃えたぎらせている。そこに「愛」という大きな力が加わったことで、ジュリアンは激しく苦悩することとなる。

どうしても人を惹きつけてやまないその魅力を、三浦宏規が彼自身の魅力をもってして登場からありありと見せつける。寡黙なジュリアンの苛烈な心理描写を、あらゆる舞台パフォーマンスであらわす三浦が素晴らしい。

芝居はもちろんのこと、三浦の最大の持ち味はなんといってもその華やかながら深みのある歌声と華麗きわまるダンス。それらをフレンチロックにのせて、アンサンブルを従えて、激情渦巻く内的世界を表現するさまはなんとも鮮烈で、呼吸を忘れてしまうほどだ。

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そんなジュリアンと最初に恋に落ちるのは、信心深く貞淑な夫人、夢咲ねね演じるルイーズ・ド・レナールである。可憐で品がありながらどこか陰のあるたたずまいのルイーズ。ジュリアンと禁断の愛を育む場面では、情熱的な姿や可愛らしさも見せるが、彼と別れ、物語が進んでいくなかで、不思議な厳かさや危うさなど、どこか独特の空気感をも纏っていく。夢咲は、そんな彼女の複雑な魅力を、透き通っていながら凛とした歌声と芝居、彼女しか持ちえない特有の雰囲気で余すことなく表現する。

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ジュリアンに恋をするもうひとりの女性、田村芽美演じる令嬢マチルド・ド・ラ・モールは、聡明で気高く、そして賢いがゆえに少し高慢な態度も見せる女性だ。そんな彼女のパーソナリティを、作中屈指のポップなロックで、鮮やかに、そして大胆に魅せる登場シーンでは、田村のパフォーマンスがきらりと光る。

そんなマチルドも、ジュリアンに恋をすると、うぶな可愛らしさを見せる。貴族社会に退屈する彼女の見る夢は周囲に比べると少々特殊だったかもしれないが、それでも夢見る少女のような純真さがとても印象的である。そんなマチルドの、ジュリアンへの愛により移り変わる心中をあらわす田村の表現力には舌を巻いてしまう。

作中で愛に葛藤するのはジュリアンだけではない。このふたりの女性も、ジュリアンへの愛によって、葛藤し、苦悩し、そして変容していく。ふたつの恋愛、ふたりの愛は、それらの持つエネルギーが小さからぬものであることは共通していながら、その特質や、変容の方向性が違っているのが面白い。

三浦宏規が苦悩の美青年を熱演!フレンチロックミュージカル『赤と黒』公開ゲネプロレポート

ルイーズとの恋においては、愛に溺れ激しく葛藤するジュリアンだが、マチルドとの恋では、秋の空のような女性の心に翻弄され、その理解の難しさに苦しむこととなる。そんな彼へ、女心を掴む極意を説得力たっぷりに手ほどきするのは、東山義久演じる人気歌手のジェロニモだ。ストーリーテラーとして客席をも導くジェロニモは、実は原作の『赤と黒』ではほとんど出番がない。非常に戯曲らしい、ユニークな役どころであるが、東山義久は圧倒的な存在感をしてこれを見事につとめ上げる。

舞台の幕開けを率いる彼の、物語へと客席を誘う底知れぬパワーと、艶やかで妖しげな魅力に、思わず心を奪われる。そのまま、気が付けば、客席は『赤と黒』の世界に連れていかれてしまうのである。

三浦宏規が苦悩の美青年を熱演!フレンチロックミュージカル『赤と黒』公開ゲネプロレポート

物語中に登場する男性は、ジェロニモのほかに貴族が3人。そのひとりは、ルイーズの夫であり、小さな町ヴェリエールの町長でもあるムッシュー・ド・レナールだ。東山光明演じるレナールは、常に他者の目を気にしており、見栄を張りたがり、それゆえにいつもパタパタと慌ただしい。そのさまが傍から見るとなんだか笑ってしまうのだが、彼とて好きでそのように振る舞っているわけでもなく、その肩書ゆえ、時代ゆえの窮屈さに苛まれ、生きづらさを感じているようだ。

余裕の無い在り様に面白おかしさを感じさせながらも、客席だけに見せる彼の葛藤に思わず寄り添ってしまうのは、東山光明の精緻で人間味溢れる演技に因るものだろう。また歌手でもある彼の歌声は、フレンチロックに非常に映える。こちらも必聴である。

ところで、ジェロニモを演じる東山義久と、レナールを演じる東山光明兄弟は、意外にも本作がミュージカル初共演。2人が舞台上で並ぶ姿に、にやりとしてしまう人も多いことだろう。

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マチルドの父であり、ジュリアンを秘書として迎え入れるラ・モール侯爵を演じるのは川口竜也。ジュリアンの知性を認め、彼を気に入っている。ヴァルノいわく「大きすぎる」学を持つ人物であるが、その大きさは学問のみならず、娘を思う父の器においても示される。しかしながらラ・モールは、娘に対してもジュリアンに対してもただ甘いだけではなく、折につけて毅然とした態度をも辞さない、威厳のある人物でもある。川口のゆたかで重厚かつ迫力のある歌声と演技は、そんな彼の魅力を体現したかのようである。

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町長レナールと犬猿の仲であり、レナール家を嫉妬してやまない貴族、ムッシュー・ヴァルノを演じるのは駒田一。無節操ではあるが、人心操作に長け立ち回りがうまい彼からは、同じ賢さでもラ・モールとは性質を異にした、時代を生き抜くための賢さを感じる。コメディ的要素を担い、そのコミカルさで客席の笑いをさそう場面も多いが、ときには底が見えず一筋縄ではいかない恐ろしさをも滲ませる彼を、高い実力で鮮やかに演じきる駒田の芝居は流石の一言。物語を動かしていく重要な人物として、作品に奥行きを与えている。

同じ貴族でありながら、時代への対応のありかたが三者三様であるのがとても興味深い。実力派の俳優たちが演じるからこそ、その違いが面白く、納得感があるのだろう。

舞台上の多くが「赤」と「黒」で彩られる光景にも注目したい。照明や衣装すべてが、『赤と黒』の独特な世界観を特徴づけ、色付けている。とくにショーアップされたナンバーではそれが顕著で、作品に没入してしまうこと請け合いである。またこの舞台ではアンサンブルの存在が欠かせない。彼らの彩りがなければ『赤と黒』の世界が完成しないことは、舞台のどこをみても明らかだ。

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そしてもちろん、物語を前へ前へと進めていくフレンチロックの曲の数々は、作品において最も重要な要素のひとつ。胸のうちにある極めて大きな感情、愛のかたらい、物語が動く大きな契機など、物語中で重要なことがらや場面の多くは、歌と音楽で奏でられ、それがまた作品を抒情的なものにしている。

洒脱さや粋を感じさせると同時に情熱的でもあるフレンチロックを、実力派のキャストたちが魂を込めて歌い上げるさまに、心を震わせたい。

本作について、演出のジェイミー・アーミテージは「私たちが作った新バージョンの『赤と黒』を楽しんでいただけることを願っています。私たちはこの美しい物語の核心に迫るスリリングな作品にしたいと思い、お芝居、歌、そしてダンスそれぞれに焦点を当てて素晴らしいキャストの皆様と創作してきました」と振り返る。

さらに、「キャストの皆様一人一人が、心震わせる上質な作品を作るために懸命に取り組んできてくれました。私はすべてのキャストの皆様そして最高のチームの皆様を誇りに思います」と感謝の思いを込めて語った。

三浦宏規が苦悩の美青年を熱演!フレンチロックミュージカル『赤と黒』公開ゲネプロレポート

また、主演の三浦宏規は「ようやくこの日がやって参りました! 演出家のジェイミーを筆頭に信頼のクリエイター陣、強烈な個性を放つ出演者、最高にロックなバンドメンバー、そしてそれらを全て支えてくださるスタッフの皆様。この人達と一緒なら初日も全く怖くない!そう思える方々と出会えたことを今とても幸せに感じています」としみじみ語り、「この作品は19世紀初頭、ナポレオン失脚後、王政復古の時代となったフランスが舞台のお話です。それが現代を生きる皆様の目にどう映るのか。何を感じ取っていただけるのか。それでは、どうぞ『赤と黒』の世界をお楽しみください」とメッセージを送る。

愛は美しいだけでなく、ときにとんでもなく愚かしいのかもしれない。しかし我々は、それを否定することができるのだろうか。いずれにせよ、愛が生むエネルギーはたいへんに大きく、この物語が動いていく原動力は、間違いなくこの力である。

フレンチロックミュージカル『赤と黒』は、2023年12月27日(水)まで東京・東京芸術劇場プレイハウス、2024年1月3日(水)からは大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて上演。上演時間は1幕60分、休憩20分、2幕75分の計2時間35分を予定。

19世紀初頭、時代の潮流に抗い、燃え盛る情熱を抱え、愛に苦悩し葛藤するひとりの青年を、あらゆる舞台芸術で表現した本作は、現代を生きる我々の目にも強烈なものとして映り、何かを残すことだろう。

(取材・文・撮影/矢島春花)

目次

フレンチロックミュージカル『赤と黒』公演情報

スケジュール

【東京公演】2023年12月8日(金)~12月27日(水) 東京芸術劇場プレイハウス
【大阪公演】2024年1月3日(水)~1月9日(火) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ

スタッフ・キャスト

【原作】スタンダール
【演出】ジェイミー・アーミテージ
【上演台本・訳詞】福田響志
【音楽監督・ピアノコンダクター】前嶋康明
【振付】アレクザンドラ・サルミエント

【キャスト】
三浦宏規/夢咲ねね 田村芽実 東山光明 川口竜也/東山義久 駒田一 
遠藤瑠美子 池尻香波

斎藤准一郎 竹内真里 今野晶乃 増山航平 髙橋莉瑚 松平和希 荒川湧太 吉井乃歌

スウィング:齋藤桐人

【公式サイト】 https://www.umegei.com/rouge-noir2023/
【公式X(旧Twitter)】@rougenoir2023

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