Kバレエ カンパニー『クレオパトラ』公演レポート!飯島望未が体現する絶世の美女と波乱の人生


Autumn Tour 2022と題し、全国3都市にて全幕『クレオパトラ』を上演中のKバレエ カンパニー。原作や音楽が存在しないゼロの状態から、芸術監督を務める熊川哲也の手によって新しく創り出されたこのグランド・バレエが披露されるのは、なんと4年ぶり。そんなファン待望の全9公演の中から、東京・渋谷Bunkamuraオーチャードホール、10月29日(土)昼の公演(クレオパトラ:飯島望未)の模様をレポートする。

Kバレエ カンパニー『クレオパトラ』レポート

カール・ニールセンによる「アラジン組曲:祝祭行進曲」が流れると、舞台上には天まで続くような階段上に妖しげなクレオパトラのシルエットが浮かびあがり、物語のはじまりを観客に知らせる。本作では、最初と最後にこのドラマティックな曲が使われるのだが、バレエ『クレオパトラ』が誕生するきっかけとなったのは、熊川がこの曲に魅せられたため、すなわち“この音楽ありき”だったのだそうだ。

「クレオパトラ」と聞いていくつかの有名なエピソードが思い浮かぶ方も多いだろう。本作には、そういった印象的なシーンが散りばめられている。例えば、ローマの英雄ジュリアス・シーザーの元に絨毯が届けられ、その中からクレオパトラが登場したという逸話。本作でも1幕の第2場で、男性ダンサーたちが丸められた絨毯を掲げて登場し、本当にその中からクレオパトラ役のダンサーが登場するのだ。全編通した中でも非常にアイコニックなシーンである。

今年3月にプリンシパルに昇格した飯島は、とても初めてとは思えないほど魅惑的なクレオパトラを披露してくれた。官能的な場面や野生的な振り付けも決して下品になることはなく、どうしても視線を外すことができないような優美さをたたえていた。くわえて、いわゆる“クラシック・バレエ”的な動きとは少し異なる振り付けをいとも簡単そうに踊りこなす身体能力の高さは、まさに圧巻。

ひときわ印象的だったのは、愛する夫(ジュリアス・シーザー)を亡くし、喪失感と深い悲しみに暮れながら踊るソロ。ひとりで静かに泣いている女王の頬をハラハラと伝う涙のような軽やかさ、たおやかさのある表現で、切なくも美しい情景を舞台上に創り出していた。

また、バレエ『クレオパトラ』の見どころの一つとして、こだわりの衣裳やセットははずせないだろう。クレオパトラの侍女4人がヴァリエーションを披露するシーンでは、それぞれが全く違う衣裳を身に着けている。ディズニーアニメの「アラジン」に出てくるジャスミンのようなパンツスタイルのものや、スカート丈がアシンメトリーになっているもの、チャイナドレスのように左右に大きなスリットが入っているものなど、どれも個性的で見た目に楽しい。そしておそらく振り付けに合わせてデザインされたのだろう、衣裳によって一層ダンサーの踊りが際立つように感じられる。

もちろん、クレオパトラの衣裳も面白い。我々の頭の中に共通認識としてある“クレオパトラ像”を保ちつつ、場面によって異なる姿を見せてくれるし、紅白歌合戦で見るような舞台上で衣裳の形態が変わるような演出もある。

舞台セットは比較的シンプル。舞台上に多くの余白を残し、それをダンスやお芝居が埋めていくような構成といえる。しかし、最初と最後に登場する大きな階段をはじめ、セットのひとつひとつはダイナミックで独特な存在感を放っており、絵画で言う額縁のような役割を担っているように感じた。

音楽、ダンサー、振り付け、衣裳、そして舞台セット。公演パンフレットに載っている熊川のコメントに、2017年の初演時、「極めて完璧に近い領域に到達したと感じ得た」とあるように、今回の公演でも作品全体の完成度の高さに改めて気づかされた。全世界の人が知っているようで、その実態は謎に包まれた女王クレオパトラ。周囲を翻弄し、自身も数奇な人生を歩んだ絶世の美女に、バレエを通して思いを馳せてみては。

Kバレエ カンパニー『クレオパトラ』

Kバレエ カンパニー次の全幕公演は『くるみ割り人形』

今年も残すところあと2か月をきったが、Kバレエ カンパニーは、年内にも楽しみな全幕公演の用意をしているようだ。それは、クリスマスを彩るファンタジー超大作『くるみ割り人形』。12月14日(水)から12月18日(日)にかけて東京・渋谷Bunkamuraオーチャードホールで、12月23日(金)に富山・オーバード・ホールで上演される。

(文・取材/エンタステージ編集部 バレエ担当 写真/(C) K-BALLET COMPANY)

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Kバレエ カンパニー『クレオパトラ』飯島望未
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