4月27日(土)~4月29日(月・祝)東京芸術劇場 プレイハウスにて、K-BALLET Opto『シンデレラの家』が上演される。
K-BALLET Opto『シンデレラの家』とは?
K-BALLET Optoとは、Kバレエ トウキョウのダンサーを基盤に、最高峰の振付家によるオリジナル作品や、他ジャンルとのコラボレーションなど、ダンスの魅力を多角的に捉えた作品で、ダンス界に新たな光(=Opto)を生み出し、より多くの人々に鮮烈なライブ体験を提供する試み。今回で第3弾となる。
作品の原案は、現代の日本を代表する詩人である最果タヒによる書下ろし詩集「シンデレラにはなれない」。この作品をひとつのステージに昇華させるべく、各方面で活躍するクリエイターたちが集結した。
振付および演出を担当するのはヨーロッパで注目を集めるジュゼッペ・スポッタ。古い電化製品を「電磁楽器」に蘇らせ演奏する和田永が音楽を奏で、衣裳はジェンダーレスブランド「MIKAGE SHIN」のデザイナー進美影が手掛けるほか、公演ポスターのメインビジュアルはヒグチユウコによる描き下ろしのイラストが使用されている。さらに、日本を代表するバレエダンサーである森優貴や酒井はな、白石あゆ美が、Kバレエのダンサーたちと共演する。
この豪華すぎるコラボレーションで創り出される『シンデレラの家』で、主人公に据えられているのは、ヤングケアラーのシンデレラ。はたして、どのような舞台になるのだろうか…?
K-BALLET Opto『シンデレラの家』リハーサルレポート
「プティ・コレクション」「プラスチック」に続く、K-BALLET Opto第3弾となる『シンデレラの家』。公式サイトやKバレエのYouTubeチャンネルをチェックすれば、本公演に関する情報が色々と得られるのだが、いかんせんよく分からない。もちろん、宣伝や紹介の仕方に文句をつけているのではなく、この新しい試みがどのような形で舞台に昇華されるのか、いまいち想像がつかないのだ。きっと私のように感じているバレエファンも少なくないはず!ということで、一足先に関係者に向けて公開されたリハーサルの様子をレポートしたい。
リハーサルで披露されたのは、普段ヤングケアラーとして家族を支えているシンデレラが、年に一度だけ開かれる学校のパーティーに参加するシーン。『シンデレラの家』という作品のごく一場面でありながら、振付・演出を手掛けるジュゼッペ・スポッタ氏がテーマの一つとして掲げていた「葛藤」が、そこには凝縮されていた。
後ろ髪をひかれながら、ケアを必要とする家族たちをおいてパーティーへ繰り出すシンデレラ。今しか味わうことのできない青春があるだろうし、家族のために毎日を捧げてきたのだから、今日くらいは楽しんでもいいじゃないかと自身を納得させつつも、決して払拭できない罪悪感とともにパーティーに身をゆだねる。罪悪感の一部が背徳感に変わるような感覚もあったかもしれない。
舞台作品において、視覚的な面白さは最も重要な要素のひとつ。本作で使用される無機質な木枠は、場面によってあらゆる役割を担う。角が削れた四角の形をした木枠は、学校の机になったり、子どもたちがこっそり抜け出す家の窓枠になったり、ドレスのスカートになったり。滑り台のような形の木枠は、同じ形の二台を組み合わせることで、病気の祖父が横たわるベッドになったり、家族が暮らす家になったり、シンデレラを囲い込む檻のようになったり。ただの無機質な木枠が、ダンサーたちと交わることでその都度意味合いを変えていき、物語の一部になっていく。
また、本作はシンデレラを主人公とした物語ながら、ある二つのものが登場しない。一つ目は「ガラスの靴」で、代わりにシンデレラが履いているのは長靴。家族のために働く運命を強いられるシンデレラの足にまとわりつく足枷のようだ
登場しないものの二つ目は「王子様」。“シンデレラストーリー”という言葉があるように、普通、シンデレラには輝かしい愛と未来が用意されているが、本作ではそうはいかない。このシンデレラには、自らの明るい未来を想像する余地はなく、毎日ひたすらに目の前のことをこなすだけで精一杯。当然のように「王子様」という存在がシンデレラの物語から抹消されていることが、彼女の感じている虚無感や諦観を示唆しているのかもしれない。
今回のリハーサルでシンデレラ役を務めたのは小林美奈(過去に、彼女が出演した『カルメン』や『くるみ割り人形』の公演レポート記事も掲載しているので、ぜひチェックしてほしい)。安定感のあるテクニックはもちろん、大人びてしまった少女の儚さが感じられる素晴らしいアプローチを見せてくれた。
そして、ゲストとして参加している酒井はなの表現する母親役も素晴らしかった。シンデレラの家族のうち、“希望”や“ポジティブ”の象徴を担う叔母に対して、母親が担う要素は“ネガティブ”。それに合わせて振付も鋭い動きが多くなっているが、酒井の持つ独特な雰囲気と類まれな表現力もあいまって強烈な個性を放っていた。個人的には、メドゥーサが睨んでいるかのような、鋭い視線の使い方も印象的だった。
そんなこんなで『シンデレラの家』のリハーサルを見てきたわけだが、実は正直、まだよく分からない。全編を見たわけでもないし、稽古場でのリハーサルなので衣裳や舞台セットもなかった。そもそも、今はまだクリエイティブの真最中だ。ただ、きっと面白いものに仕上がるのではないかという希望を感じさせるリハーサルだった。
この『シンデレラの家』が、舞台上でどのような新たな光(=Opto)を放つのか。ぜひ劇場に足を運び、それぞれの感性で体感してほしい。
(文・取材/エンタステージ編集部 バレエ担当 写真/©Hajime Watanabe, エンタステージ編集部)
K-BALLET Opto『シンデレラの家』公演概要
会場:東京芸術劇場 プレイハウス
日程:2024年4月27日(土)~4月29日(月・祝)
主催:Bunkamura/K-BALLET
特別協賛:PwC Japanグループ
公式HP:https://www.bunkamura.co.jp/orchard/lineup/24_opto_cinderella
K-BALLET Opto『シンデレラの家』あらすじ
愛すればこそ憎む、逃れられない家族の絆。
祖父、母、義妹の世話に明け暮れる少女が見つけた切ない愛の物語。
日本のいろいろな街でシンデレラは生きている。
たとえば、認知症の祖父、こころを患い怒りを制御できない母、そしてその母と新しい男との間にできた義妹の世話に明け暮れる日々のシンデレラがいる。
家族のためだけに生きる彼女は、自分を愛すすべを知らない。「幸せになりたい」と願うことすら贅沢で、どこか家族に後ろめたさを感じてしまう。そんな彼女の頭によぎるのは、祖父も義妹もいなくなった母との安住、全てから解放され自由を手にした姿。
ある日、義妹を寝かしつけるために「シンデレラ」を呼んであげていると…そこは舞踏会。亡き父、そして幸福に包まれた家族の姿が楽し気に。が、午前零時の鐘が鳴るや…。