ミュージカル俳優・東啓介の“過去・現在・未来”、そして夢・・・初のコンサート『A NEW ME』公演レポート


東啓介が、ミュージカル俳優としての“過去・現在・未来”を詰め込んだ1st Musical Concert『A NEW ME』を、2020年11月28日(土)に東京・山野ホールにて開催した。東のミュージカルへの愛と夢がたっぷり感じられた初めてのコンサート。本記事では、昼夜2公演行われたうち、夜公演の模様をレポートする。

舞台上には、大きな時計のセット。バンドのセッションに乗せて、黒いシックなスーツの胸にきらりと銀の飾りを光らせた東が登場。オープニングは、「君住む町角」(『マイ・フェア・レディ』より)で飾った。『マイ・フェア・レディ』は、1963年に、ブロードウェイミュージカルとして日本で初めて上演された作品。“初めて”のコンサートの1曲目にこの曲を持ってきたことにも、東のミュージカル愛を感じる。

自然と沸き起こった手拍子や、リズムに合わせて客席で揺れるペンライトの光に顔をほころばせる東。軽やかに歌い上げると、満面の笑みで「皆さん、お越しいただきありがとうございます!」と挨拶した。「昼、めちゃくちゃ緊張したんですけど・・・(笑)」と昼公演を振り返りながら、「今、コロナの影響で舞台が中止になったりいろいろある中で、このコンサートに足をお運びいただきありがとうございます」と、集まったファンに感謝の気持ちを捧げた。

この日、観客には全員フェイスシールドが配布され、マスクと共に着用するよう協力が呼びかけられていた。入場者数も限られていたが、「僕から見える景色は最高ですよ!」と、東は本当に嬉しそうに笑顔で客席を見回していた。

『A NEW ME』・・・東が“自身の新たな誕生”という意味を込めてつけたこのタイトル。「最近知ってくださった方にも、このコンサートを通じて僕のことをいろいろ知っていただけたらいいなと思います。それではまず、時を“過去”に戻しましょう」という東の言葉に、頭上の時計の針がゆっくりと逆回転を始めた・・・。

“帝国劇場に立つ”ことを目標にしていると公言していた東。そのきっかけは、16歳の頃に観た『レ・ミゼラブル』で大変な感銘を受けたことだったという。その後レッスンを重ね、2013年に俳優デビュー。そして、2017年に『スカーレット・ピンパーネル』で初のグランドミュージカル出演を果たす。

「分厚くてよく分からない譜面に、毎日いっぱいいっぱいでした。自分はやっていけるんだろうか・・・と思っていた時、声をかけてくれたのが(パーシー役の)石丸幹二さんでした」

「大丈夫、僕も最初はそうだった。でも、舞台はカンパニーだから。僕はパーシーだから、僕についてきてほしい」と優しく声をかけてくれた石丸。その言葉に勇気をもらったという東は、「この人についていこう!」と、石丸に憧れ、よりミュージカルが好きになったそうだ。

そこからさらに経験を積み、2019年、ついに東は『ダンス・オブ・ヴァンパイア』で帝国劇場に立つこととなる。東が演じたアルフレート役には客席から登場するシーンもある。「帝国劇場の後ろの扉を開けて客席を歩いた時は、本当に嬉しくて」と、当時の心境を振り返った。

そんな“過去”から東が選んだのは、「僕は負けない、ひとかけらの勇気がある限り――」というパーシーの台詞と共に、様々な困難が立ちはだかる“今”をも鼓舞するような「ひとかけらの勇気」(『スカーレット・ピンパーネル』より)と、夢の一歩を踏み出したという思い入れたっぷりの「サラへ」(『ダンス・オブ・ヴァンパイア』より)の2曲。さらなる成長を感じさせる、伸びやかな歌声を響かせた。そして、偉大な先輩たちとの出会いを経て、東は新たな目標を抱くようになる。

「時を“未来”へと進めましょう――」東が指をパチンと鳴らすと、頭上の時計が大きく針を進めた。

「未来はどうなるか分かりませんし、今は先のことを考えても・・・と思うかもしれませんが、僕には夢がありますし、皆さんにも希望を持って夢を叶えてほしいです。これから先の役者人生も、皆さんと共に歩んでいけたらなと思っておりますので、僕がおじいちゃんになるまでついてきてくださったら嬉しいです」とはにかみながらもしっかりと言葉を紡ぐ東に、会場からはあたたかな拍手が沸き起こった。

これに、東は「皆さん、フェイスシールドをつけていらっしゃるから、暗くても光の反射で頷いてくださっているのが分かります。この時代ならではですね」と、さらに嬉しそうな笑みを浮かべた。不自由も悪いことではないと、どこまでも前向きな一言が印象的だった。

そして、「できることなら全部出たいし、歌いたい!」という数多のミュージカル作品の中から選んだのは、「僕こそ音楽」(『モーツァルト!』より)、「Your Song」(『ムーラン・ルージュ!』より)、「For Forever」(『Dear Evan Hansen』より)の3曲。英語で歌唱した「For Forever」は、東が昨年初めてブロードウェイを訪れた際に観劇し、激しく心を揺さぶられた作品だそう。ニューヨークでの経験を楽しそうに話す東は、ミュージカル俳優であると同時に、ミュージカルが大好きでたまらない少年のような顔をしていた。

時は“現在”へ・・・。2020年、東は『ホイッスル・ダウン・ザ・ウィンド』と『ジャージー・ボーイズ』、2つのミュージカル作品への出演が決まっていた。しかし、コロナ禍の影響で『ホイッスル・ダウン・ザ・ウィンド』は数公演で中断・中止、『ジャージー・ボーイズ』も全公演が中止となった。

しかし、『ジャージー・ボーイズ』は『ジャージー・ボーイズ イン コンサート』と形を変えて開催。東は、昼公演にサプライズゲストとして登場した尾上右近や、中川晃教らとの出会いを通じ、「貴重な体験で、成長させてもらえた」と語り、と「My Eyes Adored You」(『ジャージー・ボーイズ』より)で、しっかりとその成長っぷりを示した。

続いては、「しあわせ」(『Color of Life』より)をピックアップした。『Color of Life』の脚本・作詞・演出を手掛ける石丸さち子は、東にとって「あの人なしではここまで来られなかった」という、恩師の1人。「あたたかくて、何度も口ずさんでしまうぐらい、僕はこの曲がとても好きで。今後もずっと歌っていきたい曲です」と語った。

そして、ここで事前に募った質問コーナーへ突入。「これまで出演した役で、ほかの役を演じるとしたら?」「好きなおでんの具は?」「コロナが終息したら真っ先に何がしたい?」「もし女性だったらどんな曲を歌いたい?」「自粛中は何をしていた?」などの質問に、東らしい答えを返していく。その中で「コロナが終息したら、改めてコンサートしたいですね。みんなで声出して盛り上がって」と、さらなる夢も生まれていた。

ここで、舞台上に新たなギターが持ち込まれ東に手渡された。実は東は、自粛期間に楽曲作りに挑戦したことで、ギターを始めていた。始めてから約1ヶ月半。公演に立つ時期も、夜な夜な練習したそうで、阿部真央の「うそつき」をバンドと共に弾き語り、歌い上げた。

閑話休題、再び“現代”の選曲へ。東は、「すべてが宝物」という稽古中のエピソードを語りながら「独白」(『ホイッスル・ダウン・ザ・ウィンド』より)を歌唱。ザ・マンの歌う壮大なナンバーに、東は“今”感じているミュージカル俳優としての「覚悟」と「決意」をにじませた。

ラストは、「普通の人生」(『マタ・ハリ』より)。2018年、東はこの『マタ・ハリ』でアルマンという大きな役を得た。Wキャストの相手は、加藤和樹。プレッシャーの中でがむしゃらに取り組んだが、自分では納得ができるレベルには到達できなかった。だからこそ、「時が経った今、成長を皆様に聞いていただきたい」と、最後にこの楽曲を選んだ。その言葉どおり、東が重ねてきた時間がしっかりと感じさせる歌声を響かせた。

鳴りやまぬ拍手に呼び込まれて迎えたアンコール。「このコンサートもできるのかどうか・・・そういう状況下で、皆様と会えて、歌を聞いていただき、同じ時間を共有できた。こんな貴重なことはないです。楽しい楽しい、1日でした。感謝してもしきれません」と、少し声をつまらせながら、改めて感謝の気持ちを言葉にした。

「最後も、僕がいつか出演したい作品から選んだ曲です」と、紹介したのは「時が来た」(『ジキル&ハイド』より)。「夢を持ちながら、皆様と歩んでいけたら。成長を見せ続けることが皆様に喜んでもらえることかなと思うので、その“時が来る”のを僕と共に、楽しみに、楽しみにしていてください!」という誓いと共に、自身初のコンサートを締めくくった。

ミュージカル俳優としての、東啓介の“過去・現在・未来”。そして“今”しか見ることのできない25歳、等身大の、ミュージカルが大好きな青年の素顔が垣間見える・・・そんな、貴重なファーストコンサートとなった。ミュージカル俳優として、成長し続ける東の今後に、さらなる期待が高まる。

(取材・文/エンタステージ編集部 1号、撮影/岩村美佳)

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