ウィットに富んだ俳優たちの演技合戦『物理学者たち』笑いと悲哀のサスペンス劇開幕

当ページには広告が含まれています

2021年9月19日(日)に東京・本多劇場にて、ワタナベエンターテイメントDiver Theater『物理学者たち』が開幕した。本作は“グロテスクな誇張”という文体表現を得意としたスイスの劇作家フリードリヒ・デュレンマットの代表作で、1961年に発表された作品。精神病棟に入所する物理学者たちが引き起こした殺人事件が、思わぬ方向に向かう様を描く。

今回、“多様性”を求め、ワタナベエンターテイメントが様々なクリエイターやプロデューサーとコラボレーションする「Diver Theaterプロジェクト」の第1弾として上演される。上演台本・演出はノゾエ征爾。

出演者には、草刈民代、温水洋一、入江雅人、中山祐一朗、坪倉由幸(我が家)、吉本菜穂子、瀬戸さおり、川上友里、竹口龍茶、花戸祐介、鈴木真之介、ノゾエ征爾らが名を連ねる。

舞台は、サナトリウム「桜の園」の精神病棟。そこには3人の患者が入所しており、それぞれ狂人めいた発言をしていた。自分は“アインシュタイン”だと名乗る男、自分は“ニュートン”だと名乗る男、そして「ソロモン王が自分のところに現れた」と言って15年間サナトリウムで暮らすメービウスと名乗る男。彼ら3人の共通点は「物理学者」ということ。

ある日、サナトリウム内で看護師が絞殺されてしまった。犯人は“アインシュタイン”を名乗る男だった。実は、3ヶ月前にも同様に看護師が殺害される事件が起きていたのだが、これにとどまらず、さらなる殺人事件が起きてしまう。

なぜ立て続けにこのサナトリウムで事件が起きるのか。彼らは本当に狂人なのか?サナトリウムに集う物理学者たちと、彼らを取り巻く人々。彼らの謎が徐々に解き明かされ、最後には予想もつかない展開へと進んでいく・・・。

物語は、鮮烈なヴァイオリンの音色とピアノの音で幕を上げる。殺人現場でもあるサナトリウムのリビングと、リビングを取り囲む3つの扉。扉の先は、それぞれの患者の部屋となっている。シンプルな舞台美術と印象的に使われるヴァイオリンやリコーダーの音色が、時に事件性をもり立て、時にユーモラスにこの物語の“歪み”を象徴していた。

戯曲を生んだデュレンマットは、自作のほとんどすべてを「喜劇」と名付けている。本作の最大の魅力も、ウィットに富んだ会話劇であることだ。冒頭で出てくる警部(坪倉)と看護師(吉本)のやり取りは、嚙み合っているようで全く噛み合わない。揚げ足取りの連続だ。

3人の物理学者たちの登場もそれぞれ奇妙で見入ってしまう。道化のようにあべこべなことを言っておちゃらける自称“ニュートン”(温水)、殺人を犯したばかりなのにそれを忘れてヴァイオリンのことばかり考えている“アインシュタイン”(中山)、すべての事柄が絵空事のように言われたことを反復する“メービウス”(入江)。この狂人3人ともそれぞれいい味を出しているのだが、3人が満を持して集う2幕では、膨大な台詞量で1幕の印象をドラスティックにひっくり返す。

また、サナトリウムの住人たちとは対照的に、明るい未来を夢見て旅立つメービウスの元妻(川上)と3人の息子たち(竹口、花戸、鈴木)と、再婚相手となる宣教師(ノゾエ)は、現実的でまっとうなはずなのに、何故か滑稽でシュールに見える。メービウスに好意をもつ若い看護師(瀬戸)もまた、純粋がゆえに滑稽だ。

そして、物語のキーパーソンとなるのが、白衣をまとい、曲がった背に杖をつく院長(草刈)。一見患者や患者家族に寄り添う優しい院長だが、その目の奥には黒くギラっと光る怪しさがある。この物語、登場人物全員が実に奇妙で怪しげ。

3人の物理学者と3つの事件、彼らを取り巻く人々、物理学者たちが抱え持つ秘密とは。真とは。正義とは。“正解”とは何だったのか・・・。60年前の戯曲だが、現代の私たちも直面し続ける問題を、高尚な悲劇に仕立てるのではなく、グロテスクな喜劇として突きつける。

デュレンマットは「ただ笑うしかない、ユーモアでしか耐えられない痛みを私は知っている」という言葉を残している。喜劇、悲劇は、一概には語れない。“多様性”を求めて始まった新たなプロジェクトが、日本における海外戯曲の可能性を広げてくれそうだ。

『物理学者たち』は、9月19日(日)から9月26日(日)まで東京・本多劇場にて上演。上演時間は1幕65分、休憩10分、二幕55分の計2時間10分を予定。

目次

ワタナベエンターテイメントDiver Theater
『物理学者たち』公演情報

上演スケジュール

2021年9月19日(日)~9月26日(日) 東京・本多劇場

ワタナベエンターテイメントDiver Theater『物理学者たち』公演情報
上演スケジュール
2021年9月19日(日)~9月26日(日) 東京・本多劇場

スタッフ・キャスト

【作】フリードリヒ・デュレンマット
【翻訳】山本佳樹
【上演台本・演出】ノゾエ征爾

【出演】草刈民代 温水洋一 入江雅人 中山祐一朗 坪倉由幸(我が家)  吉本菜穂子 瀬戸さおり 川上友里 竹口龍茶 花戸祐介 鈴木真之介 ノゾエ征爾

【公式サイト】https://physicists.westage.jp/
【ワタナベ演劇公式Twitter】@watanabe_engeki
【ワタナベ演劇公式Instagram】watanabe_engeki_staff



この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

エンタステージは、演劇初心者からツウまで、演劇に関する情報、ニュースを提供するサイトです。サイトを訪れたユーザーの皆さんが、情報をさらに周囲に広めたり、気になる作品や人物などを調べたり・・・と、演劇をもっと楽しんでいただける情報を発信していきたいと思います。

目次