『キネマの天地』趣里×『竜宮 りゅうぐう』米沢唯 対談――人と人、芸術と芸術が交わる地点「劇場」

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東京・新国立劇場にて、2021年6月に演劇作品『キネマの天地』、7月にバレエ作品『竜宮 りゅうぐう』が上演される。同時期に稽古が行われていたこの2作品について、『キネマの天地』に出演する趣里と、『竜宮 りゅうぐう』に出演する新国立劇場バレエ団プリンシパル・米沢唯の対談が実現した。

『キネマの天地』は、井上ひさしが映画人を描いた傑作喜劇。映画出演のために集められた4人の女優が、殺人事件をめぐる推理に巻き込まれていく様を、新国立劇場の演劇芸術監督でもある小川絵梨子が紐解く。趣里は、登場する女優たちの中で最も若くて人気急上昇中の新人を演じている。

『竜宮 りゅうぐう』は、日本を題材とし、子どもも楽しめるバレエ・ファンタジーとして2020年に新制作された作品の再演。御伽草子「浦島太郎」をモチーフに、森山開次の独創的な振付と、プロジェクションマッピングを取り入れた斬新な演出で、バレエの新たな魅力と可能性を引き出した。米沢は「プリンセス 亀の姫」を演じる。

違う表現のジャンルで活躍する二人だが、趣里は幼少期からバレエに親しみ、15~16歳の頃にはイギリスにバレエ留学もしていたという経歴の持ち主。そして、米沢も父親が演劇の演出家で、幼い頃から演劇を身近に感じる環境にあったという。互いのフィールドへのリスペクトもあり、対談をするのはこれが初めてだったがすぐに意気投合していた。

新国立劇場では、オペラ・舞踊・演劇の稽古が同時に同じ建物の中で行われているということもあり、二人は対談前にも顔を合わせる機会があったという。「休憩中に自販機で飲み物を買おうとしたら、電子マネーがうまく反応してくれなくて。困っていたら『大丈夫ですか?』と声をかけてくださったのが米沢さんだったんです」と趣里。

当時、『コッペリア』の通し稽古中だったためチュチュ姿だった米沢に、思わず心の中で「唯様!」と叫びそうになったそうだ。米沢がローザンヌ国際バレエコンクールに出場されていた頃からのファンだという趣里の心境が伺える。

また、米沢もこの対談が決まる前から『キネマの天地』のチケットを購入するほど公演を楽しみにしていたそうで、「その前にお話できて嬉しいです」と顔をほころばせた。米沢自身も、新国立劇場バレエ団に入団して最初に驚いたことに「環境」を挙げていたが、「オペラ歌手の方から演劇の俳優さん、皆さん普通にそこにいらっしゃるんですよ。特にこの一年は換気のためにどのスタジオもドアを開けて稽古をしているので、中の空気感がより伝わってくるようになりました。私自身、演劇やオペラを観るのも好きで、その創作現場にも興味があるので、稽古場の前を通る度につい想像を膨らませてしまいます」と、新国立劇場ならではの環境の豊かさを語った。

幼い頃からバレエと演劇に親しんできた二人だが、それぞれの表現で学んできたことは、現在の自分にいい影響を与えているという。趣里は「バレエをやっていてよかったなと思うことは多く、特に精神力が養われたことはすごく大きいことだなと思います。一つの舞台に立つために、ものすごくエネルギーを集中させなければいけないのですが、それは自分との戦いだったりします。バレエの経験はその基礎を教えてくれたと思います」と自身の経験を振り返る。

バレエと演劇の大きな違いの一つに“言葉の有無”がある。米沢は、「私は父が演出家であることもあり、バレエを観るよりも演劇を観てきた回数の方が多いと思います。バレエには言葉はありませんが、私の内にはたくさんの言葉が必要です。言葉の海に投げ出されて、そのエネルギーの中で進んでいく物語を感じる体験は私にはなくてはならないものです。だから、どうしても演劇を観ずにはいられない。バレエも演劇もつながっています。舞台芸術は、人間が作り出す最も美しいものなのではないかと思います」と、言葉の有無に関わらない共通点を感じていると明かした。

役作りについて、趣里は「実は以前絵梨子さんとご一緒した舞台の稽古中、絵梨子さんに台本を没収されたことがあったんですね。『もう台詞は入っているから大丈夫』って。それがすごくいい経験になりました。芝居って、その瞬間に生まれるものをお客様に観て楽しんでいただくものだから、台本や自分のプランにとらわれてしまうと、ただ台詞を言っているだけの人になってしまうんですね。絵梨子さんの一言は、私を初心に返らせてくださいました」と、気づきを得たそう。

これに、米沢も「私も同じような体験経験があります。(舞踊芸術監督の吉田)都さんから『踊りもステップも出来ているから、遊んで』と言われて。でも、私は遊び方が分からないかったんです。美しくきれいに踊ることを極めることに価値を見出していたのですが、求められるのは私自身のリアルな踊り。『プロフェッショナルな踊りを見せてほしい』という都さんの言葉がとても刺さりました」と同調していた。奇しくも、二人ともが新国立劇場芸術監督たちの言葉に新しい発見を得た形となった。

先に開幕したのは『キネマの天地』だ。「すごく強烈なキャラクターたちが出てくるんですが、その表面的なおもしろさを超えて、人間の心のやりとりを、絵梨子さんが現代にも通じるような演出で描いています」と趣里。井上ひさし作品はとても台詞量が多いが、台詞をより“会話”に崩して再構築することにトライしているとのこと。

そして、『竜宮 りゅうぐう』は7月24日(土)から7月27日(火)まで上演される。「浦島太郎」の物語のため、言葉がなくとも大概の人は物語を知っているし、大人のみならず子どもも楽しめるだろう。米沢は見どころの一つとして「ポップな衣裳や美しいプロジェクションマッピング」を挙げた。「そういった新たな角度からバレエを楽しんでいただける作品だと思います。プロジェクションマッピングの上で踊るのは、私もこの作品が初めてで。床が波になったりするので、少し怖くなったりするんですよ(笑)」と裏話も。

そして、森山の振付については「子どもが真似したくなるような振りが出てきたかと思いきや、とてもかっこいい動きもあって。森山さんがお手本を見せてくださった時の印象がすごく強烈でした。かっこよさとかわいらしさが両立されていて、とても見応えのあるものになっていると思います」と語った(米沢のオススメは「イカす三兄弟のタンゴ」)。

どちらの作品も丁寧に紐解かれていることが伺えた対談。二人は、互いの公演を観に行くことを楽しみにしていると終始伝え合っていた。劇場は、人と人、芸術と芸術が交わる地点。ひょんなことから、広がる興味と先に待っている新たな世界。そんなことを改めて感じさせられる対談だった。

(『キネマの天地』舞台写真/撮影:細野晋司、提供/公益財団法人 新国立劇場運営財団)
(こどものためのバレエ劇場 2020『竜宮 りゅうぐう』公演より/撮影:鹿摩隆司)

目次

人を思うちから 其の参『キネマの天地』公演情報

上演スケジュール

2021年6月10日(木)~6月27日(日)
※6月10日(木)19:00、11日(金)19:00、18日(金)19:00公演は開演時間を18:00に変更

スタッフ・キャスト

【作】井上ひさし
【演出】小川絵梨子

【出演】
高橋惠子 鈴木杏 趣里 那須佐代子
佐藤誓 章平 千葉哲也

【公式サイト】https://www.nntt.jac.go.jp/play/kinema/

新国立劇場バレエ団
こどものためのバレエ劇場 2021『竜宮 りゅうぐう ~亀の姫と季ときの庭~』
Ballet for Children 2021 RYUUGUU – The Turtle Princess

公演期間:2021年7月24日[土]~7月27日[火]
予定上演時間:約2時間(休憩1回含む)

【公式サイト】https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/turtle-princess/

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