2020年12月28日(月)に東京・セルリアンタワー能楽堂にて『狂言男師 ~冬の章【蟹山伏・口真似】~』が上演された。伝統芸能である狂言と若手俳優の融合により、日本の伝統芸能を広く伝えていこうというこの企画。第2弾となる今回は、佐伯大地、健人、岩崎孝次、北條悠煌という顔ぶれで、1日3公演行われた。本記事では、2回目の16:00公演の模様をレポートする。
大前提として、狂言は「能楽」と呼ばれる芸の一つ。対話を中心としたせりふ劇であり、口語体で語られる。当時の庶民の暮らしや説話などから「笑い」を切り取り、今に続く普遍的なおかしみを「コント」のように表現する。
もともとは、文語体で歌舞を中心とした「和製ミュージカル」とも言える能と交互に同じ舞台で上演されるものであり、緊張感のある能の物語と緩和できる狂言を交互に味わうプログラムとして組まれてきた。「狂言男師」では、タイトルのとおり狂言に特化。なお、佐伯はこれが狂言初挑戦。3度目の参加となる健人とタッグを組み、「口真似」「蟹山伏」の2演目に挑んだ。
公演は、岩崎・北條によるもう一つ用意された演目「痺痢(しびり)」で幕を開けた。「痺痢(しびり)」は、急な客人を迎えるため、主人(岩崎)に「酒の肴を買ってくるように」と言いつけられた太郎冠者(北條/※太郎冠者は狂言では使用人を意味する)が、面倒くさがって「足が痺れてお遣いに行けない」と嘘をつく。重ねられていく嘘はどこへ向かうのか・・・。滑稽だがかわいらしいやりとりを、狂言初挑戦の北條は岩崎にリードされながら、初々しく演じきった。
「口真似」は、佐伯、健人、岩崎の3人で取り組んだ。銘酒をもらった主人(佐伯)は、一人で飲むのもどうかと、酒の相手にして面白い人を呼んでこいと太郎冠者(健人)に言いつける。誰に声をかけたらいいかと悩んだ太郎冠者が呼んできたのは、有名な酒乱の人物(岩崎)で・・・。それを見た主人は、追い返すわけにもいかずもてなすことにするが、太郎冠者が粗相をして機嫌を損ねられは大変だと、主人は太郎冠者に「私の言う通りにしろ」と言いつけた。太郎冠者は、それに必死に応えようとするが・・・。
1演目目を終えた佐伯を見て、「狂言男師」経験者である岩崎と健人は「(1公演目と)表情が全く違う!さっきと全然違った」「背中が何倍にも大きく見えた」「稽古中のがんばりが見えた」とその変化を語った。どうやら、1公演目の佐伯は相当緊張していたよう。というのも、稽古日数がかなりタイトだったようで、未経験の佐伯は食らいつこうと必死で取り組んできたようだ。
実際に観客の前で演じてみて、佐伯は「狂言って、こんなにお客さんが笑うものなんだ」と驚いたと言う。確かに、演じ手の面々は常に真顔。笑わせようと演じるわけでもないから佐伯は「やっている方は何の手応えもないんだよ(笑)」と、大真面目で演じているからこその不思議な感覚を得ていたようだ。長い年月の中で確立されてきた、物語の強さと人間の普遍性を感じる感想だ。
また、彼らがこれまで行ってきた舞台と違い、狂言は客席が明るいまま上演が行われる。これに驚いた佐伯は「(せりふのない間)お客さんの顔を一人ずつ見てしまった」そうだが、実は、演じ手は真っ直ぐ一点を見つめていなければならない。初挑戦で作法を知らなかった佐伯は「教えてくださいよ~(笑)!」と肩を落とした。ちなみに、この学びはすぐさま次の演目で活かされていた。
続いての演目は「蟹山伏」。修行を終えた山伏(佐伯)が剛力(健人)を従えて帰国する途中、蟹の精(岩崎)に出会う。金剛杖で蟹の精に打ちかかるが、はさみで耳をはさまれてしまう剛力。山伏も行法で離してやろうとさまざまに祈るが、蟹の精はさらに強力に剛力の耳を強く締めつけ、ついには山伏の耳まではさまれてしまい・・・。
衣裳を着替え、山伏姿となった佐伯はより大きく力強く見える。しかしこの山伏、謎の生物(?)の前ではびびってばかり・・・。ところで、狂言では修行を積んだ僧がやりこめられる話が多く、当時の人々が山伏という存在をどう見ていたのかが映されているようで大変興味深い。
蟹の精を演じる岩崎は、狂言独特の賢徳の面をかぶって登場。ド派手な装いに手をチョキチョキしながら横歩きするだけで、笑えてしまう。”異形”の描き方についても、狂言独特の味わいがあっておもしろい。そんな異形の蟹の精に果敢に挑む剛力を演じる健人と、佐伯の表現した山伏の気の小ささの対比が際立って、笑いのカタルシスが生み出されていった。
終演後には、狂言指導にあたっている善竹大二郎が観客からの質問に答え、より狂言について知ることができるコーナーも。少しずつ知識が増えることで、より楽しみも深まる。
最後に、「いろいろあった2020年でしたが、最後にいい笑い納めになっていたらいいなと思います」と佐伯。健人も「来年も、機会がありましたらまた挑戦したいと思っています。そして、お客様の顔を見ることができて嬉しかったです」と笑顔を見せた。
そして、企画者の一人でもある岩崎は「今後もこの『狂言男師』は続けていこうとおもっておりますので、よろしくお願いします」と挨拶し、公演を締めくくった。足を運んだ方々にとっては、よき1年の笑い納めになったのではないだろうか。2021年、不安なことも多い世の中だが、「狂言男師」に大いに笑わせてもらえることを期待したい。
(取材・文/エンタステージ編集部 1号、撮影/新宮夕海)
公演情報
『狂言男師~冬の章【蟹山伏・口真似】~』
開催日:2020年12月28日(月) セルリアンタワー能楽堂
【出演】佐伯大地、健人、岩崎孝次、北條悠煌、善竹大二郎
【監修】善竹十郎
【狂言指導】善竹大二郎
【上演タイムスケジュール】
第1部:13:00~14:30(12:30開場)
第2部:16:00~17:30(15:30開場)
第3部:19:30~21:00(19:00開場)