2020年12月から2021年1月にかけて東京、大阪、愛知で上演される舞台『オトコ・フタリ』の会見が行われ、山口祐一郎、浦井健治、保坂知寿が登壇。“愛”を求めるフタリのオトコと一人のオンナが織りなす極上のコメディが描かれる本作。過去に共演経験のある3人が改めて感じたお互いの印象や稽古場での様子などを語った。
本作はNHK大河ドラマ「篤姫」「江~姫たちの戦国~」の脚本を手がけ、コメディ作家でもある田渕久美子書き下ろしの完全オリジナル脚本で、山田和也が演出を担当。傍目には微笑ましいほどに仲良く喧嘩するフタリのオトコとそれを見守る一人のオンナ・・・山口、浦井、保坂が、軽快に言葉を紡ぎながら人生における永遠のテーマ、「愛」を描き出していく。
これまでに共演経験のある3人。改めて本作で顔を合わせて感じたお互いの印象を聞かれると山口は「浦井さんとは『笑う男』、『王家の紋章』などで共演していて、殺陣があったんですけど、殺陣師の方が(フリを)一回つけたらもう入ってるんです。そういうのを目の前でやられると明らかな才能の差というんでしょうか・・・そういうものを謙虚に受け止めなきゃいけないなと」と褒め倒し、照れた様子の浦井が「ちょっと待ってください!(笑)」「僕はどうすればいいんだ・・・」と困惑する姿が。
また、劇団四季時代から何度も共演経験のある保坂については「ジロドゥの『オンディーヌ』という作品で、(劇団四季時代に)みんなで2か月3か月稽古していたんですけど、保坂さんは3日で立てるようになったんです」と、保坂が研究所に入って2年目に劇団四季の代表作でもあるストレートプレイ『オンディーヌ』のタイトルロールに大抜擢された際のエピソードを。「3幕モノなんですが、それを3日で覚えてできるようになったら本番にも出られる・・・出来るはずがないであろうと思われている中で、3日後には立って(稽古を全編)通せたんです。その時もこの台本を3日で覚える人がいるんだ、そして立てる人がいるんだと、そういう才能がある人がやる仕事なんだと思わされて。どうやってこの世界で生きていけばいいんだと深く考えさせられた2人です」と謙遜しながら2人の凄さを語った。
一方、尊敬する山口の言葉に恐縮しきりの浦井は「大スター、みんなの憧れである山口祐一郎さん。これだけたくさんの人を愛して演劇界を愛して第一線でみんなを引き連れて走ってくださっている心強さ、本当に日本のエンターテイメント界は恵まれているなと思うんです」としみじみ語り、「今回の稽古場でも、山口祐一郎さんがスタッフさんひとりひとりに『おはよう』と挨拶したり、元気かどうか尋ねたり、自分の事より人の事、みんながどう考えて過ごしているのか座長としてみてくださっているのを見るとその背中の大きさと背負ってきたものの大きさを感じて、自分はこの背中にどうやったら恩返ししたり、我々世代がどうやったくらいついていけるのかって」と山口から影響を受けていることを明かした。さらに、「数々の役をやられてきた先輩の昔話を・・・お稽古の休憩中に伺うことも出来て。そんなすてきな経験、財産を僕たちへ語り継ぐというか・・・話していただけることが幸せだなと思います」とうれしそうに語った。
また、2018年にミュージカル『ブロードウェイと銃弾』で共演経験がある保坂については「先輩たちから『あの人の芝居は究極の引き算で成り立っている』というお話を聞いていたのですが、劇中で『〇〇・・あ、違う、□□さん』という風に言い直すセリフがあって、言い直すところがあまりにも自然で間違えたかのように聞こえてしまうほどで・・・本当に技術者だと思ったんです」と保坂の凄さを語り「このお二人と一緒に居られることが幸せだなと思っています」と改めて幸せを実感し噛み締めていた。
そんな浦井に対し保坂は「ご一緒した時の印象は、ド真ん中(主役)をやってるのにいつも爽やかで、『この役大変なのに・・・大変じゃないのかな?』と思うくらい。一度、『大丈夫?疲れてるよね?』と聞いたら『僕疲れないんです!』って(笑)。緊張もしない・・・など衝撃的なことを聞いて、若い力ってそういうものだったりするのかなと。そんな姿が頼もしいなとすごく感じた記憶があります」と振り返り、「今回またご一緒したんですけど、その時と全く印象は変わらずで。キャリアを重ねて、立派に演劇界を引っ張る立場になっても変わらず、真摯に軽やかに作品に向かっているんですよね。この間まで違う作品をやっていたのにそんなことなかったかのように、ぽんと跳び込んでいく軽やかさがすごいなと思います」としみじみ語った。
そして、山口については「この作品の稽古に入ってから健治さんや演出の山田さんが『(劇中で)こんなに喋っている山口さんって最近見てないよね』と仰っていたんですけど、私の記憶の中ではストレートプレイをやってる山口さんを見ていたのでそういう印象がなかったんです。ミュージカルなど大所帯のお仕事が多いお方なので、そういう意味では今作は贅沢というか、いつも見られない山口さんをお客様は見ることになるだろうと思います」と、3人芝居ならではの楽しみを教えてくれた。そして、「長らくご一緒させていただいてるんですが、本当にみんなに気を配る方で。わざとやってたらきっとすごい疲れちゃうことだけど(笑)、自然にやられ続けているから今この場所にいるんだなと改めて感じました」と、浦井と同じく座長としてスタッフや共演者を気遣う姿を稽古場で見て感じた印象を語った。
和やかな雰囲気で進められているという本作の稽古。演出・山田とのやり取りの中で印象的だったことを聞かれると、山口が「初日の本読みが終わった時に、山田さんから『面白かった。今日はお客さんとして見れた。お客さんとして劇場でチケットを買って観ても今日は面白かったかもしれない』と仰って頂いて。そこからスタートできるのは幸せだなと思いました」と初日ですでに手ごたえを感じていたことを明かした。
また、保坂は「今の段階で半分くらい終わったかなという感じなんですけど、とにかくリアルというか自然な日常を切り取っているようなお芝居なので、その空間にそこで生きてる人たちを見てくださる人たちがいらっしゃる・・・というような作り方なんす。細かく一個一個ここをこうしたいと追求していって、それぞれのキャラクタ―が深まっていくように導いていただいてる最中です」と現在の稽古の様子を教えてくれた。
山口達から過去の山田の様子を聞いたという浦井は「スパルタだった時期もあったと聞いたんですが、今はある意味いろんなものをまとめていくスタンスになったんだなと感じています。僕の中では将棋の駒をいっぱい持っているイメージなんです。280手先まで読んでいるのかなというような演出をしてくださっているんですが、自分たちの今のこの状況なら『この手はどうでしょう』というようなダメ出しをスパン!とくれるので、宇宙を見れるというか。演劇的に楽しいなと感じています」と山田の演出力に驚きながらも楽しんでいる様子だ。
本作は、画家・禅定寺恭一郎(山口)のアトリエで家政婦の中村好子(保坂)と“愛”をテーマにした作品について話しているところに、母を探しに来たという青年・須藤冬馬(浦井)が乗り込んでくるというとこから物語が始まるコメディ劇。稽古の初日に脚本を手掛けた田渕から話があったようで、それを受けて山口は「現代社会でひとりひとりが孤独な中、一応何とか普通に生活してるけど、でもみんなとんでもないものを背負っていて・・・。穏やかで一見平和なこの島国で、皆さんが抱えているモノがあるんですよね」と感じたとか。今作については「こちらから『こういうテーマです!』というよりは、ご覧になってくださった方がそれぞれ個人的に『ここが良いいな』ってふわっとあったかくなってもらえればと思います」と語った。
会見ではファンからの質問も寄せられ、新型コロナウイルスの影響で観劇できずにいるファンへのメッセージをとリクエストが。山口は「地方から東京の劇場に足を運ぶのに色々な困難があると思いますが、僕たちはまた必ず劇場でお会いできるという心づもりでいるので、ぜひ再会できることを楽しみにしていてください」とコメント。それを受け浦井も「公演が中止になるという悔しいことになった作品もありますが、お客様と一緒に感染対策をしながら千秋楽を迎えられるというありがたい経験もさせていただいた中で感じたのは、お客様ひとりひとりの思いが、キャストやスタッフに届いてると思っていますし、エンターテインメントや演劇を愛してくださっている愛を感じています」としみじみコメント。
そして、「足を運ぶという最後の一手は、お客様一人一人のタイミングで気楽な気持ちで向き合って『あ、行ってみようかな』と思えるようになった時がきっとその方の時期なんだなと。そして、山口祐一郎さんが仰るように『オトコ・フタリ』、がんばって成功させて、シーズン2へ持っていけたらと。しっかりとみんなで手を繋いで演劇界を盛り上げつつ、お客様の安全面を大切にしていけたら。そして、気持ちが合致した時にいらっしゃってくれたらと思います」と語った。
さらに保坂は「映画館などもそうですが、劇場に来るのは大変なことだと思うんです。何か月も前にチケットを買っても、いざその時になって状況を見てやめようかなとか・・・今色々起きていて、人それぞれ感覚も違うと思うんです。何が正しいとかではなくそれぞれのご判断だと思うんですけど、劇場に足を運んでみていただくのは大変なことだと改めて思いました」と語り、さらに「ライブ配信のお仕事もさせて頂いたんですけど、私達はどれだけ客席にいらっしゃる方たちに支えられていたかというのを深く深く感じ、ありがたいことなんだ、当たり前のことじゃないということを感じた時間でした。模索しながらも出来ているので、少しずつ少しずつですが皆さんのところに近づいていって、いつかお会いできればと思うので、忘れないで待っていただけたらと思います」とメッセージを送る。
最後に山口が「この芝居は田渕さんが浦井さん、保坂さん、山口を使って2020年、不安などを抱えている皆さまへ喜劇を通してパワーを届けたいと。その願いを僕たち3人で届けることが出来ればいいなと思っています」と本作に込める思いを語り、会見を締めくくった。
(取材・文:エンタステージ編集部3号/写真:オフィシャル提供)
公演情報
舞台『オトコ・フタリ』
【東京公演】2020年12月12日(土)~12月30日(水) シアタークリエ
【大坂公演】2021年1月15日(金)~1月17日(日) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
【愛知公演】2021年1月23日(土)~1月24日(日) 刈谷市総合文化センターアイリス