2020年11月5日から東京・帝国劇場で水樹奈々と平原綾香が主演を務めるミュージカル『ビューティフル』が上演中。「A NATURAL WOMAN」「YOU’VE GOT A FRIEND」等で世界的に知られるアメリカのシンガーソングライター、キャロル・キングの波乱万丈の半生を数々の名曲と共に綴る本作。水樹と平原がWキャストでキャロルを演じ、中川晃教、伊礼彼方、ソニン、武田真治、剣幸ら実力派の面々が揃い、ただの“少女”だった10代のキャロルがスターになるまでを描いている。
本作はブロードウェイで幕を開けるやいなや大評判となり、演劇界最高峰のトニー賞主演女優賞をはじめ、グラミー賞やイギリスのオリヴィエ賞などを受賞。ブロードウェイだけでなく、全米ツアーやロンドン公演など各地でロングランとなった。2017年には、翻訳を目黒条、訳詞を湯川れい子、演出リステージを上田一豪が務め、満を持して帝国劇場にて日本初演され大好評のうちに幕を下ろした本作。2020年、日本初演キャストが再集結した再演が再び幕を開けた。
アメリカ・ニューヨークの“音楽の殿堂”、カーネギーホールにグランドピアノが一基、花柄の青いワンピースを着たキャロルが「So Far Away」を弾き語りする場面から始まる。「So Far Away」、“去り行く恋人”。恋人との別れを歌った切ない楽曲で寂しさを感じさせる歌声で心が一気に引き寄せられていく。しかし、しっとりとした切なさと共に晴れやかな気持ちが伝わってくる、それはなぜか。キャロルがこれまでに歩んできた半生が語られることでひも解かれていく。
16歳のキャロルは夢を諦めて教師になるように勧める母親のジニー(剣幸)を振り切って、名プロデューサーであるドニー(武田真治)に曲を売り込み、作曲家への一歩を踏み出すことに。やがて同じカレッジに通うジェリー(伊礼彼方)と出会い、恋に落ちた二人は作詞家と作曲家としてパートナーを組んで楽曲を作り出していく。ほどなくしてキャロルは妊娠し、結婚した二人は必死で仕事と子育てに奮闘。同じ頃、2人はドニーがプロデュースする新進作曲家と作詞家のコンビ、バリー・マン(中川晃教)とシンシア・ワイル(ソニン)と良き友人となり、互いにヒット曲を生み出そうと刺激し合う良きライバルに。
そして昼間は薬剤師として働き極限状態の中にいたジェリーが、作詞を本業に出来るほどのヒット曲を生み出し、二組はヒットチャートの首位を争うようになっていく。順風満帆に見える人生。しかしいつからか若すぎた2人の愛に陰りが見えてくる。キャロルが語る人生は、光の当たる成功の道と、哀しみに溢れた暗い道がある。仕事では決して迷わず名曲の数々を生み出し沢山の人の心を掴むキャロルが、愛する夫に対してだけは惑わされ心をかき乱され涙を流す。
なんといってもこの作品はキャロルがとても魅力的なのだ。子供の幸せを考えつつ夫を信じて待つ健気でひたむきな姿や、曲を作る時の楽しそうで幸せそうな姿、そして素晴らしいメロディーラインにのる芯の強さを感じる歌声。どんな困難があってもそれを楽曲として昇華させることで、彼女は強い女性へと成長していく。その姿は親近感がありながらもとても美しくて愛おしい。
そして水樹と平原が演じるキャロルだけでなく、キャロルを愛し支える他のキャラクターもやはり魅力的だ。キャロルと共に名曲を生み出しつつも振り回してしまう夫・ジェリーも、繊細な部分が玉に瑕なチャーミングな作曲家・バリーも、キャロルの心にいつも寄り添ってくれるスタイリッシュでかっこいいシンシアも、上手くキャロルたちを盛り立てながら何事も心広く受け止めるドニーも、キャロルの心を乱しながらも母の強さを見せるジニーも。実力派俳優たちが魅せる個性的なキャラクターによる迫力のある歌声もより一層観ているものの心を惹きつけて離さない要因となっている。
さらに、伊藤広祥、神田恭兵、長谷川開、東山光明、山田元、山野靖博、清水彩花、菅谷真理恵、高城奈月子、塚本直、MARIA-E、ラリソン彩華らアンサンブルの面々が変幻自在にシュレルズやドリフターズなど数々の大スターの楽曲を多彩で鮮やかな歌唱力と共に表現しているのも見どころだ。
11月5日に無事に初日を迎えた平原はカーテンコールで「大変な時代になってしまいましたが、キャロル・キングが最初に言ったセリフの通り『思い通りにならない人生だったとしても必ず人は何か美しいものを見つけるんだ』と言ったように、私達はどの時代になっても心の豊かさを失ってはいけないなと思います」としみじみ語り、「私たちは休演日以外はいつも劇場にいるので、寂しいと思ったらまた会いに来てほしいです。私たちもビューティフルな気持ちで今日胸を張って帰って、明日また公演が出来ると思います。これからも“音楽のハグ”を皆さんにいっぱい届けたいと思います」とメッセージを送った。
そして、11月6日に初日を迎えた水樹も「まだまだ大変な状況が続く中ですが、劇場に足を運んでいただきありがとうございます。3年ぶりの再演ということで、さらにパワーアップした作品を届けられるようカンパニー一同一丸となって稽古を重ねて突っ走ってまいりました。このままの勢いで情熱的に、さらに“ビューティフル”に、さらに笑顔があふれる作品をお届けできるよう、千秋楽まで突き進んでいきたいと思います」と笑顔で意気込む。
ミュージカル『ビューティフル』は11月28日(土)まで帝国劇場で上演。第一幕1時間20分、休憩30分、第二幕1時間05分の計2時間55分を予定している。
(取材・文/エンタステージ編集部 3号 写提供/東宝演劇部)