水樹奈々と平原綾香がW主演を務めるミュージカル『ビューティフル』が、2017年7月26日(水)より東京・帝国劇場にて開幕する。初日を間近に控えるなか、7月5日(水)に公開稽古が行われ、水樹と平原をはじめ、中川晃教、伊礼彼方、ソニン、武田真治がその後行われた囲み会見に登壇。稽古を終えての感想や手応え、作品の見どころなどを語った。
本作は「A NATURAL WOMAN」、「YOU’VE GOT A FRIEND」などの大ヒット曲で知られるアメリカのシンガーソングライター、キャロル・キングの半生を描いた物語。1971年に発売したアルバム「つづれおり」が2500万枚の売上を記録し、優秀アルバム賞を含むグラミー賞4部門を受賞するなど、名実ともに世界的スターとなったキャロルの波乱万丈な人生を、数々の名曲とともに彩っていく。2013年にブロードウェイで初上演された『ビューティフル』はたちまち評判を呼び、2014年に演劇界最高峰のトニー賞主演女優賞、2015年にはグラミー賞やイギリスのオリヴィエ賞などを次々と受賞。現在も全米ツアーやロンドン公演などでロングランが続いている。
この日に行われた公開稽古では、劇中で歌われるナンバーが一部披露された。まずは水樹が演じるキャロル・キングと、伊礼が演じるジェリー・ゴフィンのコンビが作った大ヒット曲「ウィル・ユー・スティル・ラブ・ミー・トゥモロー」を、1960年代前半に活躍したアメリカのガールズ・グループ「シュレルズ」役のアンサンブル4名が披露。この曲は、キャロルとジェリーが初めて全米1位を獲得したナンバーである。
場面は変わり、女声コーラス・グループ「シフォンズ」による大ヒット曲「ワン・ファイン・デイ」を撮影するテレビ局でのシーン。ヒットメーカーとしての地位を築くキャロルとジェリーだが、キャロルが家庭との両立を目指す一方、夫であるジェリーは家庭を顧みず音楽活動に没頭していく。そうしてすれ違いが生まれる中、ジェリーが自分の浮気をキャロルに告白する場面だ。
3曲目には、キャロルとジェリーが曲を手がけ、ポップ・ロック・バンド「ザ・モンキー」が歌った「プレザント・バレー・サンデー」を披露。続いて、バリー・マン演じる中川と、シンシア・ワイル演じるソニンが登場し、「ウォーキング・イン・ザ・レイン」を歌唱した。ピアノで弾き語るバリーにシンシアが寄り添い、稽古場にひとときの甘い時間が漂う。この二人は、キャロルとジェリーの良きライバルであり親友という間柄であった。
最後はキャロル役Wキャストの平原が登場。アンサンブルが演じる楽器隊と共にキャロルが歌うのは「ナチュラル・ウーマン」。夫ジェリーとの別れによる心の傷が半ば癒えぬまま、一旦は歌うことをためらうがそれを乗り越えていく、キャロルの強い気持ちが垣間見えるシーンだ。
公開稽古の後に行われた会見で「実際に演じてみて気付いたこと」を尋ねられると、水樹は「キャロルには、どんな時でも笑い飛ばして諦めない心で前に進むという、湧き上がるエネルギーがあります。常人では耐えられないような酷い環境に置かれても、他の人ならばきっと取らないであろう行動に持っていく。そこに彼女の感性があり、キャロル・キングの凄さを改めて感じました。やっぱり何かを成し遂げる人は違うんだなと気付きました」と教えてくれた。
平原も「彼女は17歳で出産して、28歳で浮気されて離婚します。17歳で子供を育てるという、想像できないほどの壮絶な思いを抱えながらも名曲を作り出していくのは、ある意味で肝が据わってないと出来ないことだと思います。演じてみて分かったのは、どんなに傷つけられても冷たくされても、彼女は誰一人傷つけません。常に愛を持って生きてきたからこその名曲であり、“すべてに愛を”というのがキャロル・キングを演じる上でのテーマ。人間性の素晴らしさが出るような演技をしたいです」と真剣な眼差しで語った。
また「実在する人物を演じるのはとても面白いです」と話す中川は、古い曲を新しく感じることが本作品の魅力だと語る。「古い曲ではなく、今この瞬間に生まれた曲をお客さんに届けているという感覚があります」との中川の話に、ソニンも「それはやっててすごく感じる」と頷いていた。
二人のキャロルは、ソニンが「あまりにも違いがあって、自分の演技も変わる」とコメントするほどに色が違う。水樹については「16歳の時から色んなことをくぐって成長していく様子を、頭を撫でて見守りたくなるようなキャロル。お姉さんとして友達になるような感情が生まれます」と語る一方、平原に対しては「『そうだよね、色々あるよね』って肩を組みたくなるような、私も一緒に上っていかなきゃという気持ちにさせられるキャロル」と評し、「二人のキャロルの違いと、それによって周りの物語も変化するという、Wキャストの醍醐味を感じられる作品になると思います」と、ライバル役を演じるソニンならではの目線で、それぞれの魅力を教えてくれた。
水樹と平原のWキャストにより、個性の違う歌声が楽しめるのも本作の魅力の一つ。いよいよ7月26日(水)から上演されるミュージカル『ビューティフル』を、ぜひ東京・帝国劇場で見届けてほしい。各キャストによるコメントは以下の通り。
◆水樹奈々(キャロル・キング役)
(公開稽古は)緊張しました。まだ3週間あるので、「ここから更に積んでいくぞ!」という第一段階の緊張を味わい、本番の雰囲気を疑似体験できてすごく楽しかったです。たくさんの方に『ビューティフル』を観ていただけますように!と思っています。
◆平原綾香(キャロル・キング役)
舞台は二回目でほとんど初心者ですが、この現場が大好きで、皆歌も演技も素晴らしくて人柄が良くて・・・その中で出来ることが毎日幸せです。キャロル・キングは主役ですけども、皆が主役のミュージカルだなと思っていて、そういう意味で大きなものに抱かれながら演じさせていただいてます。自分が出来ることを精一杯頑張っていきたいと思います。とにかく笑いが絶えない現場です!
◆中川晃教(バリー・マン役)
この作品のお話をいただいた時に色々とバックボーンを調べていたら、昨年私がやらせていただいた『ジャージー・ボーイズ』のフランキー・ヴァリとほぼ時代が重なっていることを知り、何か縁を感じました。(水樹と平原の)お二人のキャロルが決まった時には、日本で新たなミュージカルシーンが生まれるんだなとドキドキ、ワクワクしました。日本を代表する歌姫であり多岐にわたって活躍されているお二人の存在が、ミュージカルシーンで花開こうとしてることに衝撃的な感動を覚えました。そこに自分が携われることにも縁を感じますし、自分に出来る役割は何があるのかを考えながら、お稽古を通して本番まで頑張っていきたいと思います。
◆伊礼彼方(ジェリー・ゴフィン役)
僕が演じる作詞家ジェリー・ゴフィンは、キャロルが作曲したメロディに乗せることで初めて自分の歌詞が活き、当時のヒットチャートをバリーとシンシアコンビと競い合います。僕はキャロル・キングの半分くらいの曲は知っていましたが、残りの半分はキャロルが人に提供したものだとは知らずに聞いていました。当時の曲はもう少しレトロなアレンジだったりしますが、今回はミュージカルナンバーとしてアレンジされて、より聞きやすくなった“現代キャロル・キング”になっています。音楽が主役になったミュージカルが最近増えつつあるので、とことん主役のお二方に歌っていただいて、僕らも芝居の部分を担っていけたらと思います。ぜひ楽しみにしてください。
◆ソニン(シンシア・ワイル役)
キャロル・キングが主役ではありますが、ライバル役としてバリー・マンとシンシア・ワイルのカップルがいて、その対比が描かれたストーリーです。公開稽古ではバリーとのラブシーンを演じましたが、あれが唯一ロマンチックなシーンで・・・あとはすごくテンポが良くて、わりと夫婦漫才みたいな感じですが(笑)、深く見せる芝居の部分をうまく運んでいく役目でもあると思っています。とてもいいストーリーと音楽で、笑いもあり、老若男女が楽しめるような作品になっていますので、たくさんの方に観ていただきたいです。
◆武田真治(ドニー・カーシュナー役)
僕が演じるドニー・カーシュナーがいなければ彼女らは世に出ることがないような、とても重要な役をやらせていただいております。本来、ミュージカルは登場人物の気持ちを吐露するうえで音楽を使うんですが、この作品では、“こういう状況の中で名曲が生まれた”という説明のために音楽が使われます。アンサンブルと言われる方々は他の作品ではハーモニーに徹することが多いですが、本作では全員・・・私以外はソロナンバーが与えられており(笑)、極めて挑戦的で面白い構成になっています。僕たちにはストレートプレイを演じている感覚がありますが、お客さんにとっては新しい形のミュージカルを楽しんでいただけるのかなと思います。
(取材・文・撮影/堀江有希)