2021年1月に東京・本多劇場にて、マキノノゾミ氏の戯曲『東京原子核クラブ』が上演されることが発表された。本作ではワークショップ・オーディションを実施され、主演を水田航生が務める他、霧矢大夢、小須田康人、浅野雅博、久保田秀敏、加藤虎ノ介、石田佳央、平体まひろ、上川路啓志、荻野祐輔、大村わたる、石川湖太朗らが出演することも決まっている。
1980年代に大きく広がった小劇場ブームでは、数多くの名作戯曲が誕生。その名作戯曲を、今新たによみとき、上演する第一弾として、マキノノゾミ作『東京原子核クラブ』の上演が決まった。本作は1997年の初演時に読売文学賞戯曲・シナリオ賞を受賞しており、今回はマキノ本人が22年ぶりに演出も手掛けることになった。
本作の舞台は昭和初期、風変りな住人が集う東京・本郷の下宿屋「平和館」。理化学研究所に勤務する若き原子物理学者・友田晋一郎は論文が先をこされ自信を失う中、平和館に訪れた海軍中尉・狩野は理研の研究で新型爆弾がつくれるのではないかと思いつき・・・という物語を展開。実在の人物をモデルに、時代の荒波の中、闊達に生きる若者たちを描いた群像劇になっている。
主人公・友田晋一郎役を水田が演じ、神出鬼没の謎の女・箕面富佐子役を霧矢、平和館の大家・大久保を小須田、友田の師匠である西田教授を浅野が演じる他、久保田、加藤、石田、平体、上川路、荻野、大村、石川ら多彩な俳優が集結している。
以下、マキノ、水田、霧矢のコメントを紹介。
◆マキノノゾミ(作・演出)
この作品の初演は1997年の1月で書いたのは前年の秋ですから、おそよ24年前のことになります。劇作を始めて今年で31年ですから、かなり初期の作品ということになりますが、いまだに私の代表作といえば、この『東京原子核クラブ』だとよく人からいわれます。
この作品には、戦時中の日本における原子爆弾製造計画についてふれた箇所があります。今読み返してみると、自然科学の発達が、ときに後戻りできない人類にとっての閾値を易々と超えてしまう恐怖と、状況次第では私たちはいとも容易に被害者から加害者の地位に転落し得る可能性があること、その重要な事実を忘れずにいることを表明しておくことなどが、(当時はさしたる自覚もないままに)執筆時の主題であったように思われます。
さらに登場人物の多くはしっかりとした良心を持った善人ですが、科学者であれ、芸術家であれ、軍人であれ、誰一人として国家の行いつつある戦争に対してこれを抑止する力を持たず、無力なままで終わります。
これらの主題やモチーフは、執筆当時よりも、間違いなく現代の方がより喫緊の、切実性を伴ったものとなっているように思います。歴史となった過去の物語を書いたつもりが、いつのまにか遠くない将来のことを描いているような気がしきりにして、空恐ろしささえ感じます。
この作品に込めた24年前のさまざまな思いを、今回あらためて咀嚼、熟考しながら、新たな俳優たちとともに、再び『東京原子核クラブ』に向かい合いたいと考えています。
◆水田航生
この度友田晋一郎役を演じさせていただきます水田航生です。作・演出のマキノさんとは
5年ぶりにご一緒させていただくのですが、5年の時を経ての再会が、マキノさんの代表作とも呼ばれるこの『東京原子核クラブ』ということで、とても身が引き締まる想いと共に光栄の極みに感じております。
23年前の初演の時から風化される事なく伝わる主題、今の世の中を暮らす人達に対して問いかけているメッセージや想いが台本を読ませていただいた時に深く感じました。今の令和を生きる自分の体を通した時、何を思ってどう感じるのかということを大切にしつつ、
作品の持つメッセージや想いを表現出来るよう、稽古に励んでいきたいとおもいます!
◆霧矢大夢
「風変わりな住人が集う下宿屋・・・」
おそらくは最も風変わりな住人、箕面冨佐子役を演じさせて頂きます。
非常にミステリアスで神出鬼没、かつ生命力に溢れ、役者としてなかなか掴めなさそうで、逆に、今からとても稽古が楽しみです。
マキノさんの代表作であるというプレッシャーはありますが、令和のこの時代だからこそ伝えられる演劇の熱で、皆さんと創り上げていきたいと思います。
◆公演情報
『東京原子核クラブ』
2021年1月10日(日)~1月17日(日) 本多劇場
【出演】水田航生、大村わたる、加藤虎ノ介、平体まひろ、霧矢大夢、上川路啓志、小須田康人、石田佳央、荻野祐輔、久保田秀敏、浅野雅博、石川湖太朗(登場順)